22 フェス
夏休みを宿題とゲーム以外何もしないまま半分以上過ごした僕達だけど、昨日ようやく慌ててプールに入り、段々とギアが入ってきた。
「これから毎日何か夏らしい事をしよう! まずは音楽フェスだ!」
……という訳で今日は体育館で音楽フェスをやることになった。
旧校舎の体育館は最初に帆希に案内されて以来あんまり行っていないなあ。
コスプレで撮影した時に一回行ったぐらいかな。
あの時は前方にあるステージにギターやらドラムやらの楽器が並べられていたけど、どうやらそれはそのままになっているらしい。
「……で、夕方までみんなで練習して、夜にライブをやろう!」
レクリエーションルームで僕たちに今日の予定を説明する帆希。
僕は困惑しながらも凛々や雪乃の方を見る。
彼女もだいたい同じような表情をしている。
「ええと、僕、楽器弾けないんだけど……」
僕はまずライブをやる上での根本的な問題を伝えた。
「何言ってるんだ蕗乃。そんなの私もだぞ。だから夕方まで練習するんじゃないか!」
「1日だけでどうにかなるもんじゃないと思うけど……」
そりゃあ帆希だっていきなりプロ並みの演奏をしようとは思っていないだろうけど、1日で素人4人が音を合わせられるようになるものなのかな?
「あと観客はどうするの?」
「ん? メイドさんだけだぞ?」
「………………」
まあそうだと思ったけどさ。
そんな感じで僕たちは即席のバンドを結成すべく体育館に向かった。
「凛々は楽器の経験あるの?」
「ピアノは簡単な曲ぐらいなら……」
「雪乃も楽器は弾けないよね?」
「うん。お兄ちゃんのリコーダーをぺろぺろした経験は豊富だけど演奏はできないよ」
「今リコーダーの情報必要だったか?」
体育館に着き、駆け足でステージの所に向かう。
楽器を見るとほとんど埃はかかっていなかった。
おそらくメイドさんが定期的に掃除してくれているんだろう。
「じゃあ私はボーカル兼ギターな!」
帆希はそう言うと思っていたので誰も反対はしなかった。
凛々はキーボードの前に立っている。
残りはベースとドラムか。
どっちにしようかな……と思っていると雪乃が後ろにあるドラムの椅子に座った。
「私はお兄ちゃんのお尻を眺めながらの方が捗るからドラムね」
そんな理由で楽器を選ぶな。
前代未聞すぎるだろ。
まあどっちを選んでも演奏経験がないことには変わらないので特に文句は言わず、僕はベースを手にとった。
「じゃあ早速演奏するぞ〜♪」
え? 曲は? と思っていると帆希はスマホを取り出して、操作した。
「曲は……これにしよう!」
スマホから流れたのはビートルズの曲だった。
いきなり洋楽か……。
っていうか耳コピでやるの?
まあ楽譜があったところで読めないから僕は別にいいけど。
一回聞き終わると、帆希はギターを構えた。
「よし、また再生するからその音に合わせてみんなで演奏しよう」
曲のイントロが流れた。
慌てて凛々がキーボードを弾く。
音は適当だ。
そして歌が始まった。
「ふふふんふんふんふふーふん……」
「おい」
演奏が止まった。
「歌詞は?」
「知らない……」
僕たちは天を仰いだ。
歌詞ならネットで調べられるけど、それ以前に問題が多すぎる。
協議の結果、もっと簡単な曲にしようということになった。
「でもどういう曲がいいんだろう?」
ねこふんじゃったとかキラキラ星みたいなピアノの練習曲は思いつくけど、バンドで演奏するような曲じゃないしなあ。
しばらく帆希のスマホで曲を聴いたり、動画サイトで初心者の演奏を見たりして過ごすうちにお昼になったので、食堂でレトルトのカレーを食べた。
そこで意見を交換するうちに、楽器演奏ではなくダンスにしようかということになった。
それなら僕の出番だとばかりに、僕は得意技であるマイケルのダンスのモノマネを披露したが、何故かみんなは一様に渋い顔を浮かべた。
「そうだ!」
雪乃は叫ぶと何処かに去って行った。
しばらくして、彼女は服を何着か持って帰ってきた。
「一体どうしたんだよそんな格好で」
雪乃は体操服姿だった。
しかも下はブルマ。
もちろんうちの学校のものではない。
コスプレだろう。
まあ踊るんなら体操着の方がいいかもしれないけどさ。
などと思っていると、雪乃は四つん這いになってお尻をこっちに向けた。
「ほら、お兄ちゃん!」
「?」
一体妹は何がしたいんだろう。
「この野郎ー!」
僕はとりあえず雪乃のお尻をペチペチと叩いた。
「ひゃっ! お兄ちゃん何すんの!」
「はっ、ごめん! ついいつもの恨みが……」
「おかげで新しい性癖に目覚めちゃったよ! 責任とって毎日お尻叩いてよね!」
新しい能力をラーニングするの速すぎだろ。
青魔導士なの?
「……で、何がしたかったの?」
そう言うと雪乃はまたさっきと同じ体勢になった。
「ほら、足掴んで」
言われた通りに僕は雪乃の足首をつかんで持ち上げた。
「……なるほど、組み体操か」
「おお! 懐かしいな!」
帆希がはしゃぎ出した。
「よし、音楽フェスの演目は組み体操にしよう!」
そんな音楽フェスがあるか、とは誰も言わなかった。
だって他にできることないもん。
そして数時間後、本番の時間がやってきた。
体育館の外はいつの間にか雨が降り出していた。
ステージの前にはパイプ椅子が一つだけ置かれ、メイドさんが座っている。
僕たちは体操着姿で、ゲームのBGMに合わせてひたすら組み体操を披露し、最後に凛々と僕 と雪乃が四つん這いになって、帆希がその上に乗って手を広げた。
ピラミッドだ。
「ううっ、あんなに小さかった帆希様が立派になって……」
メイドさんは何故か涙を流しながらビデオカメラを回していた。
まあ最初の予定とはだいぶ違う形になったけど、見てくれる人が喜んでくれるなら、これでいいのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます