13 続・動物王国
今日もいつも通り授業を終えて、旧校舎に戻ると、凛々の部屋の前に段ボールが大量に積まれていた。
ついこの前もこんな事があったな。
「女子寮から送り忘れてた荷物でもあったの?」
隣にいる凛々にたずねると、彼女は首を横に振って、
「ネット通販で新しく買ったぬいぐるみ」
確かに、段ボールにはネット通販で有名な会社のロゴが印刷されている。
それにしても買いすぎだろう。
廊下はほとんどダンボールで埋め尽くされていて、通り抜けるには凛々の部屋の中を通るしかないくらいだ。
一体どこにそんなマネーが……。
僕が感心していると、帆希が段ボールに手をかけて、
「なーなー、これあけて良いか?」
ガムテープをビリビリ破きながら言った。
「だめ!」
凛々は帆希の首に音速に近い速度でチョップを入れると、段ボールを取り上げた。
「まだ新たなぬいぐるみをお迎えする準備が整ってない」
そういえば凛々は隣にあるぬいぐるみとの相性とかまで考えて配置するようなぬいぐるみマニアだったんだ。
ぬいぐるみの量が増えるにつれて色々面倒なことになりそうだな。
凛々は部屋にはいると、上履きを棚に入れ、早速ぬいぐるみの並べ換えを始めた。
それにしても、もうすでに部屋はぬいぐるみだらけだし、どれだけ整理しても廊下にある段ボールの中の物を全部置けるだけのスペースが空くとは思えないぞ。
凛々もすぐにそのことに気づいたようで、ぬいぐるみを動かす手が止まってしまった。
「いらないぬいぐるみを段ボールにしまうしかないんじゃない?」
「いらないぬいぐるみなんてこの世に存在しない。ぬいぐるみを段ボールにしまうくらいなら私が段ボールに入る」
凄まじいぬいぐるみ愛だ……。
思わず涙がでてきた。
「わかったよ。そこまで言うなら部屋に入りきらない分のぬいぐるみは僕が責任を持って育てるよ!」
「育てる!? 話がおかしな事になってないか!?」
帆希が何かつっこんでいる気がするが耳に入らない。
「本当に? 嬉しい……。でも私がそばにいないとぬいぐるみが寂しがるから、2日に一回はふーちゃんの部屋で一緒に寝てもいい?」
「いいよ! 何の問題もないよ!」
「ちょっと待ったちょっと待った! 問題大ありだ!」
帆希があわてた様子で間に割り込んできた。何なんだ一体。
「ぬいぐるみは私が預かる!」
「やだ。ボスにぬいぐるみを渡すと何をされるかわからない」
「何もしないって! 私も実家には結構ぬいぐるみたくさんあるし、たぶん蕗乃より扱いなれてるぞ」
「怪しい。私の大事なぬいぐるみがとても人には言えない辱めを受ける可能性が大」
「私をなんだと思ってるんだ!?」
帆希は頭から湯気を出して怒っている。
交渉決裂だな。
別に交渉してなかったけど。
それから帆希は自分の部屋に向かおうとした後、すぐ戻ってきて、
「ていうか、別に普通に廊下とかレクリエーションルームとかに置けばいいんじゃないのか? 空き教室もいっぱいあるし」
「えっ、いいの?」
「別に問題ないと思うぞ」
「じゃあそうさせてもらおうかな……」
あっさり仲直りした。
「でもあんまり廊下とかに人形が増えると、メイドさんが掃除するときに迷惑になるかも……」
凛々は心配そうに呟いた。
確かに、この校舎の掃除や備品の調達を全て一人でやってくれているメイドさんの負担はできるだけ増やしたくない。
「大丈夫です。帆希お嬢様とそのお友達のために仕事が増えるのは私にとってご褒美ですハアハア……」
「ひいっ!?」
突然の声に驚いて振り返ると、そこにはメイドさんと雪乃がいた。
今学校から帰ってきたところか。
しかしメイドさんの呼吸が荒いのは別に雪乃をヘリで迎えに行くことで疲労したからではなさそうだ。
雪乃も変態だけどこの人も大概だな……。
「おやどうしたんですか蕗乃さん疲れた顔をして。もしよろしければ私がスペシャルマッサージを……」
「結構です……」
こうして凛々のぬいぐるみ王国は部屋の外に進出を果たした。
「これで今までスペースの都合で我慢していたあんなぬいぐるみやこんなぬいぐるみが買える……」
これから旧校舎がやたらファンシーなことになりそうだ。
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