概要
自分の身に一切頓着しない、変わり者の“篠路ミキ”と生活する‘わたし’には、ある秘密があった。それは、わたし自身の秘密。家族にも、唯一無二の友人たちにも、告白できない秘密。
「――これは、わたしがいたという‘証’。」
※記述の仕様上、横書きで読むことを推奨しております。
※5.000PVを超えました。ありがとうございます
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!こういう話が読めるとSF好きで良かったと思う
褒められるポイントが多過ぎて、どこから褒めたらいいのかわからないぐらいの傑作SF。作中の技術は全て現在の技術の延長線上にあるもので、「将来は確かにこんな世界になるのかも」と思わされる説得力があります。
なおかつ「わたし」の自殺の真相に迫っていく筆致は非常にスリリングで、エンターテイメントとしても一級品のストーリーに仕上がっており、グイグイ引き込まれました。
AI技術が過渡期の今だからこそ読んでおきたい物語ではありますが、将来現実がこの小説を追い越してしまったとしても、古典として読まれ続ける可能性を考えてしまうぐらいの完成度の高さを感じます。
こういう話が読めるとSF好きで良かったと思いますね。 - ★★★ Excellent!!!重奏するわたし
ミステリーの焦点となる「自殺の理由」には、SF的な設定をうまく活かしたやりきれなさがあって感心しました。
自己の多重性をテクノロジーによって外部化したような二人のわたし。引用符に挟まれたわたしたちの対話は何気ない日常的なものであっても深淵を覗くようなスリルがあります。
中でも意識を失い抜け殻となった“わたし”の解説部分が面白かったです。チューリングテストはいわゆる人間らしさを検証するものですが、ここで問われている「意識」の有無を測れるようなものではないでしょう。日常生活にも支障を来さないので不便もなく、問われればその状態を幸せだとも応じる。
これを読者である僕は障害とも欠落だとも思いま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!哲学的ゾンビのドッペルゲンガーはいかが?
ヤバい
ヤバい
久し振りに鳥肌が立ちました
主人公の「わたし」はそもそも「死んで」います。自意識、自我のない哲学的ゾンビとなって生き返った「"わたし"」に頼まれ、わたしはなぜ自殺を選んだのか? を解き明かしていくのは、自分の人格をそっくり再現したAI。ドッペルゲンガーの「'わたし'」。
真実を理解してしまった瞬間「わたし」「'わたし'」「"わたし"」の他にもう一つ「ワタシ」が出現したような気がしました。自我を取り巻く社会との相互作用で産まれる、客観的存在としての人格。自意識の相転移。知ってはいけない、考えてはならない禁断のパンドラの箱が開いてしまったために生じてしまった、鋭い鋭い闇。
哲…続きを読む - ★★★ Excellent!!!最後の「嘘」にしびれる、優れたSFミステリ
読み終えたとき、思わず「やられたな!」と唸ってしまいました。まったく見事などんでん返し。自分が自分についた嘘は、自分自身をだますがゆえに真実と区別できなくなる、とはよくいいますが、そのことをつくづく思い出さずにはいられませんでした。また、その「嘘」のありようが、本作の主要な設定であるライフログAIの性質から演繹的に導かれる1つの論理的帰結であるのもよかった。作者が自身の編んだ設定をよく理解し、物語に巧みに反映させているのがわかります。素晴らしい腕前だなあ、としみじみ感心したことです。あと、中盤の議論のシーンは、これぞSFの華という感じで、とても楽しめました。
総じて、現代的な技術と哲学のエッ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!失われた意識《とき》を求めて
機械と人間が融け合う時。私はそれを技術的特異点《シンギュラリティ》と捉えている。
それゆえに、技術的特異点以後の意識、つまり『わたし』を描くことは容易ではないと考える。
なぜならば、機械と人間が融合した場合、現在単一的と想定されている意識という定義を逸脱することになり、意識とは何かを定義することはいっそう困難となるからだ。
そもそも、「意識の実在を決定的に裏付ける客観的な検証法は、ひとつとして存在しない」と、技術的特異点論者の中心人物であるレイ・カーツワイルは「シンギュラリティは近い」において語っている。つまり、いかに「わたしはわたしである」と語っても、意味がないのだ。
意識の実在を…続きを読む