花と頭蓋

作者 夏野けい

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★★★ Excellent!!!

 筆力が違う。一目見た時にそう思った。

 躍動感のある展開をしているわけではない。ジャンルは恋愛、燃えるような熱い展開も、危機一髪の状況でハラハラドキドキのスリルを味わう事もない。大きな山も深い谷もなく、淡々と物語は紡がれていく。それでも脳味噌に鮮明な映像を植え付けていった。

 発想力が違う。あらすじを読んでそう思った。

 花が人を殺す。文字を書き続けなければ脳味噌で美しい花が満たされてしまう。
 花が咲くのは「幸福」を暗に示す。そして、花が散ることこそが「死」を意味する。だが、この作品では花が咲くことにより「死」が訪れる。その発想力に鳥肌がたった。

 これほどまでに人を惹きつけるのも頷ける作品。短編を書かれている方や短編が好きな方は一度は読んでも絶対に損はしない。

★★★ Excellent!!!

書かなければ死ぬ。
創作家の方ならば共感できるのではないでしょうか。
少なくとも私はそういう感覚が解ります。
しかし物理的にではないわけで。

あまりに感動したので色々語りたいのですが、多分全容を語り尽くしてしまいかねないので内容について触れるのはやめておこうと思います。それくらいに心動かされました。

この作品に触れて、読後感に満たされて、私は新しい感情を持ちました。
心打つ作品は、無かった感情さえも創り得るのだと知りました。
初めての感情ですので、名前はありません。ですが、もしもつけるとするならば『花と頭蓋』でしょう。

私は読み終わったあと『花と頭蓋』に満たされたのです。

みなさんも『花と頭蓋』を感じてみませんか?

★★★ Excellent!!!

まず、筆者の技量が素晴らしい。
読んでいて、その場所の情景が思い浮かぶのは、もちろんの事であるが、登場人物の心理描写も素晴らしい。

生命尽きるその前に必死に執筆に取り組むその姿を多くの人にも読んでほしい。

私もこの筆者の様な表現が出来る様に精進していきたい。
読めば、必ず製作の勉強になります。

是非、ご覧ください。

★★★ Excellent!!!

芸術作品としての写真のように、被写体はもちろんのこと、構図、色彩、全てが鮮やかで艶やかで、残酷なまでに美しい掌編です。

頭蓋に咲き残る桜。
見上げた桜に憧れの先輩の姿を重ねて眺めた彼の心情に胸を打たれない人はいないのではないでしょうか。

★★★ Excellent!!!

印象派と評される絵画には、『黒』を置かない、という特徴があると言われます。
もちろん陰影は黒色で表現出来てしまいますが、光の在り方を捉えようとした画家たちは、影をもたらす対象の固有色や補色を用いて、更にはそれらを混ぜずに並べて濁りのない要素として画面に置きました。
そうすることで、明るい部分から乱反射する光という表現を以て総体たる影を表したのです。

物語においても、明暗が重要であることは言うまでもありません。起伏と言い換えても良いでしょう。

本作における明は例えば、束田の健気な明るさであり、坂島先輩の儚い輝きであり、二人が執筆に注ぐ危うげな閃光となって現れます。
これらは要素として物語に置かれ、いたずらに濁りません。
そればかりか、これらの要素は私たちの目の中あるいは脳内において結合し、混ざりあい、一つの物語を紡ぐのです。

そうして紡がれた本物語の総体は、私たちに影や暗を突きつけるかもしれません。しかし、最終的に表現された影は、決して黒一色で表現し切れるものではない。
色のない花弁が落とした影は、スマホを握る手に翳る暗は、黒一色ではありえない。

その陰影を構成する色が何かは誰にも知る術はありませんが、結末という名の影は紛れもなく光によって表されていたと、そう思うのです。

★★★ Excellent!!!

圧倒されるほどに、儚い。

それが本作を読んでの、率直な感想です。


仕事が続かず、無為な日々を過ごしていた主人公。そこに現れたのは、かつて憧れていた先輩の女性。

久しぶりの再会を喜ぶのもつかの間、彼女は常に物語をつづらなければ死んでしまう奇病にかかっていることを告白します。

なんとかして彼女を生きながらせたい主人公は、自宅に彼女を招き入れひたすら物語を書かせることに。

献身的なサポートを続ける中、それでも病気の進行は止まらず、最後には……。


物語をつづらずにはいられない性分の人間はいるもので、かくいう私もそうした人種の一人。しかし彼女はそんなレベルではありません。なにせ毎日物語を生み出し続けなければ、頭の中に桜のような花が咲いて死を迎えてしまうというのですから。

「頭の中に桜が咲く」なんて、受け取りようによってはロマンチックに聞こえなくもありません。ですが本物の桜と違って、花が散るときが大切な人の命が終わるときだと知ったら、誰もが平常心ではいられないでしょう。

そんな残酷な事実を突きつけられた主人公の苦悩が丁寧に語られる一方、まるで生気を燃やすかのように激しく執筆に勤しむ彼女が描かれます。

桜は一刻花を咲かせ、やがて散っていく。その「もののあはれ」に我々は魅了されるわけですが、本作の魅力はまさに一人の女性の生き様を通して描かれる「もののあはれ」にあるのかもしれません。

桜のように生き抜いた彼女の物語。ぜひお楽しみください。

★★★ Excellent!!!

サラサラと小川を流れる水のように入ってくる文章。

憎しみも愛憎も無く、ただただ彼女の夢を叶える、支える語り手。


きっとね、書く人なら一度はなってみたい環境になっているんですよ、この空間。でも、絶対逃れられない時限爆弾が存在していて――

んー私が言葉を紡げば紡ぐほど作品が汚れていってしまう気がしますね。

とにかくストーリーから紡がれる文章から二人の思いから、何から何まで美しいです。これが文芸、これぞ文芸。

★★★ Excellent!!!

読了後、儚さ、切なさ、悲しみ。色々な感情が私の中を行き交いましたが、それでも感じてしまったのは、『宿命』『運命』という、ある意味逃げの言葉です。
宿命だから、運命だから、という言葉でこの作品を、物語を、人生を、片付けてはいけないのは、わかっているつもりです。
でも、感じられずには、いられなかったです。
これは、『宿命』なんだと。
『書く』ことが、『生きること』。そうなってしまった先輩の。

あまり言うと、ネタバレになってしまうので控えますが、でもやっぱりこの物語は、『宿命』。決まっていた物語なんだと思います。勿論、良い意味で。
物語という枠を超えた、宿命。人生という名の、宿命。
それを鮮やかに、表現している作品だと思います。
世界観に引き込まれていく、表現に胸を打たれる、そんな作品です。

世界を創っている、全ての創作者に読んでもらいたい作品です。

★★★ Excellent!!!

 小説に限らず、なにかを創り、表現するというのはこういうことなのだろうと、理屈ではないところで納得させられる。レビューであれこれ書くことをためらわせるくらいの凄みがある物語。

 まずは本編を読んでみてほしい。書き、生む、物書きの業と言葉の凄み。ラストの余韻が深く胸に届きます。

★★★ Excellent!!!

「書かなければ死ぬ病気」に罹った先輩と、彼女に焦がれる主人公の恋と奇妙な共同生活の物語。

淡々と物語を紡ぐ先輩と、それを黙々と支える主人公。
病はどうなっていくのか。
想いは伝わるのか。

先を知るのが怖い。しかし、読み進める手は止まらない。

レビューなのに、書けば書くほど作品の色合いや感情移入していた感覚が薄らいでいく。
いや、もうこのレビュー読まなくていいから、早く本編読んで、一緒に胸を締め付けられましょう!

★★★ Excellent!!!

言葉を失います。
胸が強烈に圧迫され、潰れてしまいそうな——そんな凄まじいとも言える余韻が、いつまでも残ります。

ある病に侵された美しい女性。
その症状を知るほどに、何か背筋が寒くなる思いがしました。
「消化されずに溜まっていく思考が、頭蓋内に巣食う花の蕾を膨らませる。書き続け、吐き出し続けなければいずれ頭蓋の中で蕾は花開き、患者の命を奪う」——。

もしかしたら、この病はきっと、すべての物書きが患っている。
そんな気がしました。
ただ、それが蕾や花を持たず、主の命を奪う事もない、というそれだけの違いで。
吐き出さなければいられない。突き動かされるような病にも似た何かが、ものを書く人間の脳には必ず巣食っているのではないか——そんなことを思いました。

病に侵された女性は、書き続けます。偶然再会した、彼女に恋心を寄せる後輩の助力を得て。
いずれ尽きる命と諦めることなく、寝食すらを削り。


桜を見上げる度に、きっとこの物語と——最後の瞬間まで物語を書き切った、強く美しい女性を思い出す。
ものを書く人間の一人として。
そんな気がしています。

★★★ Excellent!!!

 あらゆる点で完璧な文学作品。
 小説は、それに触れた人々を作者と読者に必然的に分けてしまう。にもかかわらず、本作は作者と読者がああした形で世の理(ことわり)を超越する。少なくとも私の心の中ではそうなった。
 恐るべき衝撃を予期しつつも、早く先を読みたいとかきたてられる筆致には逆らえない。そして気づくのだ、自分自身が主人公と一体化していることに。最初の一文字目を読んだ瞬間から。
 必読本作。

★★★ Excellent!!!

『書かないと死ぬ』
ドキリとさせられる言葉だ。
モノカキを自称する人ならば、皆一度は経験しているのではないだろうか。

だがこの世界観の美しさよ。
脳のひだの隙間を文字で構成された花の蔓が侵食していき、その先端に蕾を成す。
その花が開いた時に彼女は花に取り殺される。

残された時間の中で、砂時計の砂がさらさらと音も立てずに積もっていくように、彼女の脳の中の花も先へ先へとその身を伸ばしていくのだ。

本当は……
この花は「書く事で成長が遅くなる」のではなく「書いたら書いただけその文章が花として成長していく」のではないだろうか。
彼女が『モノカキ』として生き、また死ぬために、その花は寄生する宿主を自ら選択しているのではないだろうか。

などと、モノカキの端くれは想像してしまうのだ。

★★★ Excellent!!!

コメント欄で語彙を失いました。上手すぎる。
しかも技巧に溺れず、ぐいぐい読ませる構成力。素晴らしい。
視覚的にも鮮やか、心理描写も完璧。

印象的なフレーズはいくつもありますが、一つ上げるならこれかな。
はっとしました。

>統一感のない家々に紛れるように、入り口の小さな喫茶店があった。

★★★ Excellent!!!

書き続ける運命の、病。
そんな彼女をひたむきに支える「僕」。

ここには、私と、君と、物語しか無い。

先輩の台詞が、胸に響く。
最後の桜の、美しさ。

こんなにも理解されて、魂を込めた作品ごと愛された彼女は、幸せだと思う。

命を削った彼女の作品は、これからも人々の心を捕らえるんじゃないだろうか。
「僕」は、いつか、物語を書くんじゃないかなって、私は勝手な空想をする。
彼女の物語が、「僕」の中で、花開く。

読み終えた後も、余韻に浸る作品です。

★★★ Excellent!!!

この作家に共通するものがあるとすれば「切なる問いかけ」だろう。
それは「かなわなかった願い」であり「届かなかった思い」のなれの果てだ。
だからこそ根底には「拭えぬ怒り」が込められている、とも感じて止まない。

しかし読んだ通りと作中に「怒りは」恨み節としても、妬みとしても、コキ落とす優越感としても、描かれることがない。言い換えるなら及び腰と笑いに逃げ、ハスに構えて利口者とスカすことも、だ。
この正面から向き合う真摯な姿勢に、わたしは表現における「昇華」を見る。そしてその姿勢こそ「凄味」となりうるなら、それこそがこの作品における読む者を引き付けて止まない魅力の正体なのではないか、と考えるのである。

物語は文字を追うだけでも、話を理解するだけでもなく、時に書き手の内側を追うものでもある。
本作もまた、再認識させてくれる一作だと推したい。

などと力説が伝わらない方こそ、ご一読あれ。
あなたの中で何かが変わるかもしれない。

★★★ Excellent!!!

偶然再開した憧れの先輩に不意に聞かされる思いがけない言葉、自らのこめかみを指差し、冗談めかして儚い笑みを浮かべ、ここに花の形をした爆弾が埋まっている。と。

その花は開花とともに死をもたらす未知の病、その養分は消化されずに滞留する思考。
未だ蕾のその花の開花を抑える術は、頭蓋の中に渦巻く想いを言葉に綴り続けること。

その開花を拒むため、二人は共に生き、想いを言葉に綴る生業に希望を託す……


別れのときが迫る中で穏やかな生活を営む二人だけの世界は、手を取り合い懸命に生きる姿を描きながらもどこか退廃的で、迎える結末も甘美で儚い、まさに桜の花のように美しい物語です。

★★★ Excellent!!!

発想が一味違うこの作品の魅力はなんといっても読み終わった後の余韻です!
この作品を読んだ自分は電子書籍にもかかわらず、本を閉じてはぁーと息をはく
あの幸せを錯覚しました。
もう感無量です。
切なさ溢れるこの作風には、もちろん合う合わないがあると思いますが
皆さんにも是非読んでいただきたいです!

★★★ Excellent!!!

書き続けなければ死ぬというのは、ある意味物書きの業と言えそうです。着想の奇抜さと描写の美しさが主人公と先輩の儚さを際立たせ、切ない運命が胸に迫ります。丁寧に重ねられた言葉も魅力ですが、なんといっても着想が秀逸です。
きれいにまとまった花の病の物語を堪能いたしました。

★★★ Excellent!!!

9000字弱の文字で描かれた、絵画のような映画のような物語。
架空の病を扱ってはいますが、それに向き合う姿は現実味をともなって、読む私たちの心へと迫ってきます。春に咲き誇る桜の花を見て、私たちは二人を想い出すのでしょう――、
と、ここに私は物語を『届かせる』ことの真髄を感じました。

だれもが夢を叶えられるわけではない現実の中で、物語が、あるいは絵が、そういう想いがあふれて、窒息しそうになることもあるでしょう。きっと、だれだって。
書き続け、描き続けることで、それはいつかだれかに届くかもしれない。

多くの方に読んでいただきたい、美しい描写に彩られた凄絶な物語です。

★★★ Excellent!!!

憧れの先輩との再会。気軽い問いをするつもりが、返ってきたのは予想もできない一言。そこから始まる二人の同棲生活。
衝撃的な架空の病気を美しく、激しく、丁寧に、リアルに描いていて、それに蝕まれる人間の内側と、それに寄り添う人の想いを緻密に繊細に綴ったお話は読みながら胸が潰れるほど熱くなりました。
先輩の文字に込める激情の生々しさは、まさに命を散らして書いていると……。このお話は物語であると同時に、彼女が生きていた証でもあるでしょう。読みながら泣いてしまいました。悲しいわけではありません。先輩は最後まで激しく美しい方でした。だからこそ、胸が熱くなり涙しました。ただし、あくまでもこれは私が感じたことです。きっと、このお話は読む人によって感じ方が異なると思います。
物語ですが、人生です。
彼女の人生と、彼の想いと、残されたものを見て感じることは人それぞれ変わると思います。ただ明確なのは、彼女が確かにそこにいたということ。そして彼の想いの深さ。
二人が過ごした日々は、綴られた想いは、残された想いは、是非ご自分の目で確かめてください。この儚くも豪快に咲き誇った壮絶な人生は、きっと美しい花を見た後のように頭蓋の内側に印象深く残るでしょう。

★★★ Excellent!!!

 頭蓋に花が満ちていき、それが埋め尽くされたときに彼女は死ぬ。衝撃的な病が冒頭に示されて、美しい病状と残酷な死のコントラストが印象的でした。効果的な治療はなく、延命の手段は脳内の言葉を吐き出していくことくらい。文字として吐き出し小説を紡ぐ先輩の姿は、物書きとしての苦悩をまざまざと見せつけられるかのようです。書かなければ生きていけない。生きていけないが産み出せない。
 頭蓋に花が満ちる、そこまでの二人の日々に尊さや儚さを感じますが、個人的に印象に残っているのは最後のシーンです。何を言えばいいのか、どう返事をすればいいのか。そこに彼の思いが詰まっている気がして、胸を抉られる思いです。

★★★ Excellent!!!

短編作品にはユーモアを求めて読み漁っているのですが、タイトルにつられてぽへぽへと軽い気持ちで読みだしたら、表題の通り最後に持っていかれた。問の内容自体はなんてことないのだ。ただ、ストーリーも逸れることなく、練られた設定をそつなく活かし、見事な文体でしむきっての、そこから放たれたむせ返るような独白からの問いなのだ。作中、どこか幽鬼のような静けさを貫いていた主人公が、まさに人間性すべてをさらけ出して、あの言葉を紡いだのだと思うだけで、もう切ない。

★★★ Excellent!!!

非常に美しい文章と描写で綴られる、とある物書きの女性とそれを支える男性の物語です。

久しぶりに憧れの先輩に会った主人公が、「いま、何してるんですか?」と問えば、彼女はこう答えます。
「死ぬ準備、かな」

そこから、死にあらがうための、もしくは死を完全なものにするための同棲生活が始まります。

タイトルになっている「花と頭蓋」のイメージが鮮烈です。言葉で説明するのがレビューなのですが、己の拙い文章力では言い表せない感情を頂きました。
たとえば美しい花や景色を見たとき、100人いれば100人が違った感じ方をすると思います。この物語の描写の美しさ、凄まじさも、言葉にしてみたらどれも何か違う気がしてしまって、うまく表せません。
ぜひ実際に読んで味わっていただきたいです。

死と真っ向から向かい合う女性の話ですが、壮絶ではあれど、悲惨さは感じませんでした。
愛を持って彼女を受けとめ、支える主人公の存在があったからです。
美しくて、切なくて、やさしくて……。とても栞のような壮絶な生き方はできませんが、地獄の底で芽吹いた花のような、ふたりのやさしい関係性には憧れを抱いてしまいます。

★★★ Excellent!!!

 自分の頭の中には、曖昧な状態で眠っている沢山の物語があります。
 しかし怠惰な自分には、それらすべてを出力するような気力はありません。きっとそのほとんどは、ただの妄想のまま朽ちていくことになるでしょう。

 この作品のヒロインは、“物語を書き続けなければ頭蓋骨のなかを花に支配されて死ぬ”病を抱えています。
 
 だから、書きます。好調だろうがスランプだろうが、献身的な主人公の助けを借りて、どれだけコンクールに落選しても、とにかく書き続けます。
 力尽きて眠りに落ちるまで、食事中ですら書き続けます。外界との繋がりを遮断し、昼も夜もなくただただ書き続けます。
 それでも少しずつ少しずつ、「花」は成長を続けます。頭の中の物語を養分にして、彼女の脳を残酷に蝕んでいきます。
 
 もし自分がこの病に侵されたら。そんな想像を否が応にもしてしまう、物悲しくも素晴らしい作品です。執筆経験のある方には、特に強くおすすめすます。
 

★★★ Excellent!!!

頭のなかに溜まり続ける物語が、言葉が、いつかあなたを殺すとしたら、あなたはどうしますか。

数年振りに再会した大学時代の先輩は、「いま、何してるんですか?」という《僕》の他愛ない問い掛けに、こまったように微笑んだ。

「いま、ね。死ぬ準備、かな」

彼女を侵す病。それは言葉にならない物語が、頭のなかに溜まり続け、死に至らしめるというあまりにも幻想じみたものだった。

頭蓋骨のなかに溜まり続ける、思考。膨らみ続ける言葉の莟が咲いたとき、《彼女》は息絶える。延命措置はひとつ。小説を書き綴ることによって、それらを頭の外側に吐きだすことだけ。
それも、ほんとうに延命がかなうかはわからない。
それでも、学生時代から彼女のことを好きだった《僕》は、その僅かな望みに賭けると決めた。昼夜問わず、物語を書き綴る彼女の側について、その作業を支え続けようと。

「ここは静かだよ。私と、君と、物語しかない」

これは物語に蝕まれ、言葉に侵された、ひとりの物書きの幻想譚です。
静かな物語でありながら、最後には激しく胸を揺さぶられます。書き続けることでか細い息をなんとか繋いでいるような、それでいて、いき急いでいるようでもある先輩の背中が、読後しばらく経っても目蓋の裏に焼きついて離れません。
とても美しい幻想文学です。

普段から小説を読む御方にも、普段から物語を書く御方にも、是非ともご一読いただきたいです。まさにカクヨムにふさわしい短編だと思います。

★★★ Excellent!!!

作中の文言を、そのままレビューの言葉に使わせてもらいます

これは世に広まるべき作品だと。これは広い海に漕ぎだしてしかるべきだ、と

少し、不思議
けれど、どこかの短編文学賞の最終選考作と言われても違和感のない文芸風味

よい作品を読ませていただきました

★★★ Excellent!!!

憧れていた先輩と再会した主人公が、いま何をしているのかと軽い気持ちで訊ねたところ「死ぬ準備」というとんでもない返事を頂いてしまったところからお話は始まります。
死期の近い先輩の頭の中には花に似た爆弾があり、いつかその花に埋め尽くされて死ぬという。
主人公は先輩に寄り添い、花満ちていく彼女の頭の中から紡ぎ出される数々の物語を世に出す手伝いをするように。
文字という名の花にまみれて二人で過ごす日々、その描写の至るところまでが究極に美しく、それでいて儚い。

最後にはじんわりとこちらの心にも寂しさを残して散っていく、そんなとても素晴らしいお話です。
どうかご一読をば。

★★★ Excellent!!!

断言しよう。
読者の心を映す鏡となる物語である、と。

主人公の束田は、
愛し、尊敬する先輩、坂島を喪う。
「それだけの物語である」。
敢えて、そう申し上げたい。

ただ、それだけの結末の先に、
一握りの未来が示される。

その未来を、
読者であるあなたがどう描くのか。

それらはあなたの心が、気持ちが、
ここまで生き、過ごしてきた境遇が、
この静謐で、はかなく、
どこか艶めかしくさえある物語に触れ、
どう響き、揺れ動いたか、による。


読み終えた時、ああ、と唸った。

それは、散りぎわの桜を
眺めるがごとき心地だった。

★★★ Excellent!!!

あらすじにもある通り、ヒロインは死の病を抱えています。そんなヒロインと主人公のやり取りはとても切ないのですが、それと同時に美しさも感じました。

物語中の状況描写がとてもお上手で、私もこんな表現力が欲しい! と思いながら、思わず読み耽ってしまいました。

もっと読んでいたいと思える作品でした。

★★★ Excellent!!!

短編、さらりと読める物語でありながら、一本の映画を観たような重厚な物語。

彼女を蝕んだ花を、それと同じ花が現実世界にも咲き誇る様を、彼女の携帯に掛かってきた番号を、彼はどんな気持ちで見つめるのか。

息を止めて一気に読み干してしまうような、そんな苦しくも美しい短編です。

★★★ Excellent!!!

この言葉からはじまる二人の短い会話が、死を感じさせない、遠くにいるような感覚で聞こえてきました。
先輩の頭骨に閉じ込められた思考が彼女を蝕んでいく。穏やかな死が、不気味になるわけでもなく、あからさまな儚さもなく描かれていて、彼女の生き様に泣きました。悲しいのか美しいのか分からないまま泣きました。
すんなりと脳内で再生できるような描写も、物語の流れる速度はゆるんでいないのに緩急のついた文章も、素敵でした。読んでいる間ほとんど夏野さんのつくる表現に感動していました。
ずっと読んでいたい作品でした。ありがとうございます。