第25話 善悪を判断する悪魔 その2



ジャスティ「被告人には、まだ数々の余罪が残っておるが、中でも最も残忍であると判断される罪・・・」



キロ「・・・・」



ジャスティ「グラナ火山のふもとの里での虐殺事件について」



キロの顔はみるみる青ざめていく。



ある旅人の証言であるが、グラナ火山のふもとの里で宿をとったが、翌日には宿には誰もおらず、里中を探し回ったが、焼け焦げた遺体ばかりが残っていたという・・・そして急いで走り去るキロ=エバンスらしき人物をはっきりと目撃したということだ。





こんなあやふやな証言・・適当な言い逃れをしてしまえばいい・・・・・・・





キロ「そうだ。・・・俺が全員殺した・・・」




その場に居る人々は一瞬凍りつき・・・長い沈黙の後・・・誰かが口を開いた。


「この人殺しが」

「お前にこの世を生きる資格はない」

「極刑に処されるべきだ」



聴衆たちの罵声が法廷中をこだまし、鳴り止まなかった。



ジャスティ「静粛に、静粛に、・・・この者が手にかけた人々の中には年端もいかぬ幼い子供達も含まれていたと聞く。人として許すまじき重罪であることは間違いない。被告人キロ=エバンスに極刑を求刑するが、異議のある者はあるか。」




誰も・・・何も答えない・・・キロの味方は・・・誰もいない・・・




ジャスティ「・・・それでは・・・・被告人キロ=エバンスを」







アーシェ「異議あり・・」







アーシェは天井からふわりとキロの前に降り立った。

ジャスティ「何かね。この娘は」


アーシェ「私は、カルデラ王国デシベル王直属騎士団所属アーシェ=グラフェン」



聴衆はその名前を聞いてどよめいた。



ジャスティ「何の冗談かね。100年前の英雄の名を語って何をしたい?」


アーシェ「私は本物のその英雄よ。そして、これは100年前にインバース国で授与された勲章だけれども・・・この街の工房の作品だと聞いているわ。」



アーシェは懐から銀色の装飾品を取り出した。


「おお・・・」

ひとりの老婆が聴衆席からアーシェに近寄っていった。

「これはまさしく、この街一番のマイスターであった父の作品。まるで100年前に存在したように全く劣化しておらん。なんという奇跡か。」




ジャスティ「静粛に、静粛に、その娘が何であれ、このキロ=エバンスの罪がなくなるわけではない。」



アーシェ「いいえ、キロは無罪よ。」




ジャスティ「なぜ、そう言いきれる?」




アーシェ「この裁判で審議された罪のすべては私がキロに命じたことだったからです。」




聴衆はどよめいた。


ジャスティ「静粛に、静粛に」


マシュ「カルデラ城から剣を盗んだことも、コスカ妃を殺したことも、村人を殺したことも?」


アーシェ「ええ、間違いないわ。」




マシュ「同じ部屋で寝泊りしたことも?」

アーシェ「それは・・・キロが・・・無理やり・・・」


使い魔「それは明らかにご主人が誘導してましたよね・・がふ」

使い魔は蹴飛ばされた。




ジャスティ「この娘がすべての元凶と・・・そう言いたいのか。」


アーシェ「いいえ、元凶ではありません。デシベル王はおっしゃいました。この時代に厄災を振りまく悪魔を浄化するようにと、しかし私はもう死んだ身、この世界に干渉はできず、このキロ=エバンスは私の写し身として悪魔の浄化の天命を執行したまで・・・」



「おおおおお」



聴衆はすっかり信じ込んでいる。アーシェとデシベル王の信仰の篤いこと。



アーシェ「それは、ジャスティさん・・・あなたも例外ではないわ。」


ジャスティ「・・・・どういうことだ」

ジャスティの顔色が真っ青になった。


使い魔「先ほどあなたは『キロ=エバンスを捕らえ次第、クライスト中央裁判所の裁判において厳粛に罰して欲しい』という書状を見せて下さいましたよね。」


ジャスティ「ああ、この印、間違いなく本物だ。」




使い魔「おかしいですねー、カルデラの国は王権主義、司法制度なんて分権主義をすごく敵対視してると聞いてるんですけどねー、現にここの判決に対して何度か抗議書も送っているようですし。」



ジャスティ「・・・」




使い魔「もしかして、それ、ニセモノじゃないんですか?」


キロは言われるままに白い剣で書状に触れたその瞬間黒い煙が飛びだして、紙は白紙に戻ってしまった。



ジャスティ「誰かこの不届き者を捕らえよ。」


誰も動こうとしてない。

ジャスティの手から黒い煙が立ちのべ黒い鎧の騎士が2体現われた。


ジャスティ「殺せ」




$$$




キロは黒い鎧騎士を始末して、裁判長の悪魔の力を取り除いた。

裁判長の裁判はこれから長期にわたって続くこととなる。





$$$



キロはすぐに街を後にした。



アーシェ「どうにも機嫌が悪そうね。」

キロ「ああ、おかげさまで」



アーシェ「正義なんて名乗っている連中は信用できないわね。」

キロ「デシベル王とか天命とか言ってた奴がどの口でそう言う。」



使い魔「つまり、ご主人は信用できないと」

キロ(・・・すごい 睨らまれてるぞ 使い魔)





キロ「一応、礼を言っておくよ。」

アーシェ「・・・どういたしまして」

キロ「カルデラのこと・・・自分が命じたことだって言い方やめてくれ。あれは俺の罪なんだから」


アーシェ(・・・どう考えても、私が全部悪いと思うんだけどな・・・)



使い魔「そうですよ、ご主人、全部アーシェさんの罪だったら、キロさんは単なる動かされているピエロじゃないですか」



キロ「そうだけど、ピエロ言うな」









アーシェ「行くんでしょ?」

キロ「・・」

アーシェ「カルデラに罪を償いに・・・」

キロ「・・ああ」



アーシェ「じゃあ あんなところでつまずいている場合じゃないわ」



キロ「・・もちろん」



使い魔(なんいうか、引っ張るのはご主人様って構図自体は変わっていない気がしますね・・・)

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