第19話 悲しみを吹雪に変える悪魔 その2
雪の山は人の立ち入りを拒む。
まるで、心を閉ざしたかのように
キロはふもとの村まで下りてきた。
使い魔が酒場で暖かい酒を飲んで休んでいた。
使い魔「おや、キロさん、ご無事でなによりです。」
キロ「・・・・」
キロは使い魔にチョップを振り下ろした。
キロ「なんて場所に置き去りにするんだよ・・・危うく死ぬところだっただろう」
使い魔「大丈夫ですって、あれでもご主人は以前に比べてだいぶ丸くなりましたし」
キロ「・・・その以前の状態は恐ろしいので聞かないでおくか」
村人「ああ、あんたたち吹雪にあったのかい。あの吹雪はトマートって娘が失踪したここ1年に頻発していてね。」
トマートという娘は気立ての良い娘だった。行商人の若者と婚約が決まっていたが、ある日、その行商人の男が他の村の娘と所帯を持ったらしくて・・・その娘は山に行ったきり戻ってこなくなったんだ。村では、自殺したトマートの呪いの吹雪なんて呼ばれているよ。
キロ「どう思う?」
使い魔「確かにあの吹雪この季節にしては不自然ですし、そういえば、魔力の気配もしていましたし。」
キロ「先に言えよ。」
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私が悪魔を先に退治してしまえば・・・キロに負担はかからない。
アーシェ「見つけたわ、トマートさん」
吹雪の中洞窟に隠れて泣いている女がひとり・・・
トマート「・・・あなたは誰?」
アーシェ「アーシェ=グラフェン・・・通りすがりの旅人よ。」
トマート「あなたは私を退治しに来たの?」
アーシェ「交渉によってはね」
トマート「わ・・・私は悪気があってそうしているわけじゃない。フードの男に悪魔の力をもらった。私が悲しい気持ちになると雪が降って吹雪になってしまうの。」
アーシェ(・・・制御できていないのか・・・)
アーシェ「ならば、単純・・・もう一生悲しくなることを止めなさい。」
トマート「無茶言わないで」
トマート「あのひとは・・・私のことを一生大切にするって言ってくれた。私うれしかった。それなのに・・・それなのに・・・」
アーシェ「わかったわ・・・ならば、その男を始末しに行きましょう。それで忘れられるわね。」
トマート「えええ、それはダメよ」
アーシェ「なぜ?」
トマート「なぜって常識的に考えてください。」
トマート「それに・・・もしかしたら・・・まだ私のことをほんの少しでも想ってくれているかもしれないし」
アーシェ(ねーよ)
アーシェ「あなたは捨てられた。その事実をちゃんと受け止めなさい。」
トマート「ううう・・・」
外の吹雪がいっそう強くなった。
アーシェもその情けない姿にもやもやするところがあり、語調が強くなる。
アーシェ「いつまでも変な意地を張って、うじうじするのはやめなさい。あなたの人生はそれでいいの?今の山に籠っている姿がやりたいことなの?あなたの家事やガーデニングのスキルは村で随一だって聞いたわ。本当にやるべきことに没頭していれば悲しむ暇なんてないはずよ。」
トマート「・・・・・うううあああああん。だって、だって、悲しくなると吹雪になってしまうの。村の人に迷惑をかけれない・・・私だって村に帰りたい。」
アーシェはしばらく考えた。
ため息をついて彼女に優しく言葉をかけた。
アーシェ「・・・・ちょっとここで待っていなさい。」
そのころ、キロは強くなる吹雪に翻弄されて2度目の遭難になりかけていた。
使い魔「・・・・悪魔は死にませんが、この吹雪と寒さは耐え難いです。ちょっと春まで冬眠するので先に行ってて下さい。」
キロ「おま・・・それズルいだろ」
使い魔「・・・こんな時、あるお婆さんに聞いた雪山の伝説を思い出しますね・・・吹雪の日外に出ると世にも美しい女性に声をかけられることがあるそうです。彼女は”雪女”といって旅人を氷漬けにして魂を抜き取る悪魔だそうで・・・」
キロ「その悪魔・・・誰かを思い出すな・・・」
使い魔「髪の色が銀色だったりするかもしれません・・・」
キロ「はは・・・それ以上言って本人が来たらどうするんだよ・・・」
キロ達の目の前に人影らしき者が見えた。その人物は銀色の髪をしていた。
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キロは白い剣でトマートさんを貫いた。魔力が白い剣を通してキロの心臓に蓄積されていく。
トマートさんを村に返して、少しの謝礼をもらってキロは旅立つ。
アーシェ「・・・今回はありがとう。私、彼女を放っておけなくて」
キロ「悪魔祓いとして仕事しただけだって」
使い魔「吹雪で2度目の遭難をするところだったのでこちらこそ助かりました。」
キロ「ああ、ホント俺ら情けないな。」
アーシェは先を歩くキロを見る・・・自分がトマートにかけた言葉を思い出す。
『いつまでも変な意地を張って、うじうじするのは、やめなさい。』
アーシェ「・・・・キロ」
キロ「・・・・?」
アーシェ「キロの旅に私も同行させて欲しい。」
キロはじーとアーシェを見た。
キロ「・・・好きにすればいいだろ。」
アーシェ「・・・ええ・・・好きにするわ」
アーシェは嬉しさで口元が緩むのを抑えられなかった。
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