第35話 記憶を操作する悪魔 その6


アーシェの反撃




キロ「俺はカルデラに戻る。」

アーシェ「・・・・」

キロ「ハーディンさんが俺の仲間とは別人なのは重々承知だけど、最後にお礼を言わせて欲しいんだ。」

アーシェ「だから、私は・・・」





キロ「俺に生きる目的をくれてありがとう。できるなら、ここで幸せになって普通に暮らして欲しい。」






キロはアーシェに背を向けた。

キロ(はーなんか言いたいこと言えてすっきりしたなぁ)


迎えに来ていたリーベルがアーシェに駆け寄る。

リーベル「アーシェ、なんだかおかしな人だったけど、また会えるわよ。・・・アーシェ?」





アーシェ「・・・あれ?」





アーシェはボロボロと涙を流していることに気が付いた。

理由はわからない。彼とは数日会っただけなのに、涙があふれて止まらなかった。


アーシェ「・・・待って・・・お願い・・・。」




キロ「?・・・アーシェ」

アーシェから黒いモヤが出始め、頭の付近に時計のような印が現れ、時計の針が逆転し始めた。

これはアーシェの時間を巻き戻す魔術・・・


使い魔「・・・これはご主人の魔術です。もしかして時間を巻き戻して自分にかけられた魔術を解除しているのでは?・・・あわわ相変わらず、むちゃくちゃする人ですね・・・」



キロはここから立ち去ろうとする物音を聞き取った。

キロ(あれは、マリンバーさん?)


白い剣を持つキロ・・・いつ術が解除されるかわからない・・・術者はアーシェの近くにいる人物の可能性が高い。

冷静に考えれば、アーシェは真っ先に図書館へ向かったはず、そこで何かされたと考える方が自然・・・




マリンバーさんは書庫に逃げ込んだようだった。書庫は入り組んだ迷路のようだった。

キロはマリンバーさんに追いついた。彼は階段を駆け上がり3階の窓を開けて振り返った。


マリンバー「バレてしまった様だね。君とアーシェ卿を分断して君を多人数で始末する手筈だったんだが、まさかあの人数でも敵わないなんて、君自身も化け物だったとは、」


キロ「それは、どうも」


マリンバー「僕の能力はお察しの通り『他人の記憶を書き換える』能力だよ。」


キロ「便利そうですね」



マリンバー「最初は妻のフォートの記憶を書き換えた。彼女には想い人がいてね。でもそれでも私は彼女が欲しかった、愛されたかった。」




マリンバー「どうしても欲しい物があったらどうする?どうしても手に入らなかったらどうする?・・・だったら悪魔に魂を売ってでも手に入れるまでさ。」




キロ「あなたからその便利能力を取り除きます。」




マリンバー「君は私からすべてを奪うつもりか?いままで色々なひとの記憶を書き換えてきた。それがすべて白紙に戻ってしまえば、私は何もかも失ってしまう。・・・そんなことはもうできないんだ。」



マリンバーさんは窓から飛び降りようとした。下には棘の付いた柵があった。

キロは一瞬で距離をつめて首根っこを掴んで逆側に放り投げた。



マリンバー「どうか、私のすべてを奪わないでくれ、頼む。」

キロ「俺が奪うのは便利能力です。あなたの地位や奥さんじゃない。どうしても欲しい物だったらもがくしかないんでしょう?・・・・あなたはまだやり直す時間がある。」



キロはマリンバーさんに白い剣を突き立てた。




$$$




リーベル邸にて

アーシェ「・・・」

アーシェは真っ赤になってうつむいている。

キロ「・・・」


アーシェ「ごめんなさい。独断先行した上に、敵の罠にハマってしまって、その上キロに酷い事を言ってしまうなんて・・・」


キロ「もう大丈夫だから・・・(こんな下手に出てるアーシェも珍しい)」

使い魔「キロさん、ハーディンさんも反省していることですし、許してあげましょう。」

アーシェ(・・・・その名前で呼ばないで)

アーシェはむくれている。




リーベル「一応、私の記憶も元に戻ったみたい。私には妹なんていなかったんだ。」

リーベルはじーとアーシェを見た。

リーベル「でも、やっぱり妹が欲しい。アーシェこれからも妹でいて欲しい。」

アーシェ「駄目に決まっているでしょ。私はリーベルさんより年上(19)よ。」


リーベル「いいえ、アーシェは妹じゃないと認めない。今から内の子になりなさい。お父さんいいでしょ?」

父親「ああ、いいとも」


キロ(即決かよ)




$$$




夜更け、キロは庭園内を散歩していた。

キロ(なんか寝れないなぁ)



眼前には銀色の髪がたなびく女性が立っていた・・・

キロは体をひるがえして逃げ出す準備をした。




アーシェ「待って・・・」

キロ「・・・・」


アーシェ(ここまで醜態をさらして文句を言うのはお門違いかもしれないけれど、正直、ショックだった。記憶をなくしたのをいいことに私はキロに置き去りにされそうになったって気がした。やっぱり私はまだ、あなたにとって恐ろしい存在だったんだ。頼りにされてなかったんだ。)


アーシェは何も言わずにぷーとふくれている。

キロ(あーすごく怒ってるな)



キロ「単にハードルが高かっただけだよ。」



アーシェ「ハードル?」



キロ「あんなにキレイな女子学生に積極的に仲良くなろうとする勇気がなかったんだ。なんていうか察してくれ」

アーシェ「・・・・・」



アーシェ「・・・ふふ」

キロ「・・笑うなよ」



アーシェ(・・・キレイか)

アーシェの機嫌も直ったようだった。



アーシェ「今なら、積極的に仲良くなろうとしてくれても構わないけれど・・・」

キロ「・・・からかうのはやめろ」




使い魔「お疲れ様です。キロさん」

キロ「見てたのか。」

使い魔「いや~危なかったですね。言葉の選び方を間違えたら死んでましたよ。」

キロ(否定しきれないのが辛い)

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