第36話 アーシェ脳内議会



アーシェ脳内議会




何人ものアーシェが一堂に会して会議が開かれた。

司会「議題はどうしたらキロに好かれるかについて」


「無理かな」

「無理だと思う」

「無理でしょ」



司会「いきなり議題を否定するのはやめてくれないかしら」



「では、どうして嫌われているかから分析した方が良いのでは?」


「なるほど」

司会(嫌われていることは前提なんだ・・・)



①キロの寿命を残り1年にした張本人

②キロの仕事を奪った張本人

③キロを何度も死にそうな目に合わせた(というか2回ぐらいは死んだ)

④キロに対してやや偉そうな態度をとっている

⑤キロが目を合わせてくれない、話すとき顔が引きつっている



「これぐらいかしら・・・」


「・・・」

「・・・」

「・・・」



司会「⑤に関しては女の子と話すことが苦手で照れているという線もあるかもしれないわね」


(ねーよ)

(ねーよ)

(ないでしょ)



ひとりが真剣な面持ちで立ち上がった。

「もうどうしようもないわ・・・あきらめましょう」



司会(どうして否定的な意見しかでないの?)



司会「そうだわ、好かれているであろう部分をあげましょう」


「・・・」

「・・・」

「・・・」



誰も手をあげない・・・

仕方がないので司会者のアーシェが書き始めた。



①キロの尊敬する歴史上の人物本人である

②私は美人(当社比)

③キロに『キレイ』と言ってもらえた。



司会「・・・こんなところかしら」


その他3人はごにょごにょ小声で話し合っている。

「①だけど、あくまで歴史上の人物としての尊敬でその人物に対する好意とは別だよね。歴史上の人物として尊敬してたのに・・・実際会ってみると・・・ああ・・・みたいな」

司会(その ああ ってどういうことかしら・・・)


「②と③ですけど、美人かどうかは置いておいて『キロさんの好み』かどうかは微妙だと思います。」


司会「・・・ええ・・・美人って10人中10人美人って認識じゃないの・・・」

アーシェはとても狼狽えている。



「そうね、キロの好きだったっていうミリアさんの容姿を使い魔に聞いたけど、私とは対極に位置する感じだったわ」


司会「ええ・・・」



司会「具体的にどう違うのかしら」



「そうね・・・なんというか笑顔が似合う感じの女性だそうよ」


「笑顔か・・・鉄面皮の私には到底無理ね」

司会(鉄面・・なんだって?)



「ちょっとそこの私、笑ってみてよ・・・」



アーシェはぎくしゃくした笑いを浮かべた。

「それだと、獲物に対する不敵な笑みにしか見えないわ」

「そういうの嘲笑っていうと思います。」



「議長、妙案があります。ここに民芸品の”にこやかに笑う夫人”のお面があります。常にこれを付けるというのはいかがでしょうか。」

他3人はもうこれしかないよなーという雑談をしている。


司会(今の笑顔はそのお面に劣ると?)





$$$




次の日の朝、

今日は学校は休日らしい。リーベルは生徒自治会の活動のために午前中は学校に行くと話していたっけ

キロはあくびをしながら朝食のテーブルに着くといつもと違い皆が黙り込んでいることに気が付いた。



アーシェ「キロ、おはよう・・・」

キロ「ああ、アーシェ・・・おは・・・」


キロは目を疑った。アーシェがおかしなお面をつけている。誰かに説明を求めようと見まわしたが誰もキロと目を合わせようとしなかった。



アーシェ「・・・・キ・・・キロ・・・・あの・・・・どうかしら・・・」

アーシェはもじもじとはずかしそうに聞いてくる。




なんだこれ・・・どう答えるのが正解なんだ・・・




①似合っているという

②何馬鹿なことしてるんだよーと笑い飛ばす

③全力で逃走




見渡すと使い魔がいなかった・・・あいつ迷いなく③選びやがったな・・・

ごくり・・・キロは生唾を飲み込んで考えるだけ考えた。

キロ「・・・わー今日の朝食は豪華ですね。」




④見なかったことにする。





アーシェは不満そうだった。いや顔は見えないけど・・・お面は笑っているけど・・・

キロに何かを言って欲しいのか、キロの近くをうろうろしていた。




アーシェは神剣アーシェ卿そのひとなのだ。彼女がお面をつけているということはきっとなにか重大な意味があるのだろう・・・


それって・・・アーシェを無条件に信頼しすぎじゃないだろうか・・・

ハインベルンでアーシェが記憶をすり替えられた件だってアーシェに無条件に信頼を寄せ過ぎたからといえなくない。神剣アーシェ卿だってミスをする・・・そんな単純な事実をいままで考えなさ過ぎたんじゃなかろうか。アーシェが英雄たり得たのだってデシベル王はじめたくさんの人のフォローがあってこそなのにそんな単純なことを考えもしなかったのではないだろうか。俺と使い魔が無能なばかりにアーシェの足を引っ張っているのではなかろうか。



キロ「アーシェ・・・ちょっと話があるから・・・こっちへ来てくれないか。」

アーシェ「・・・ええ・・・わかったわ」

アーシェはなんだか嬉しそうだった。


庭の木陰にキロとアーシェは腰かけた。

キロ「俺は今までアーシェのことをないがしろにし過ぎたのかもしれない。」

アーシェ「・・・・」

アーシェはとてもそわそわしていた。



キロ「俺はアーシェのこと悪魔退治を手伝ってもらっている仲間だって思ってる。俺なんかがこんなこと言うのおこがましいと思うけど聞いてほしい。」

キロはアーシェの両肩をがしっと持ってこう言った。

アーシェ「ええ、わかったわ」


アーシェは自分の心臓がばくばく高鳴るのを感じた。

こんなにとんとん拍子で進んでいいのだろうか。キロの寿命もまだ元に戻していないのに・・・





キロ「そのおかしなお面をどうして付けているんだ?何かの魔術なのか?」





アーシェの動きがぴたっと止まった。もともとうまく固定されていなかったのかアーシェのお面がぽろりと外れた。

アーシェは真っ赤な顔でポロポロ涙を流している。

キロ「・・・アーシェ・・・どうしたんだ。大丈夫か。」

アーシェ「私ちょっと部屋に戻るから・・・」


アーシェはそのまま全速力で逃げていった。





午後、リーベルが帰ってきた。

事情を聴いたリーベルさんはアーシェの部屋に説得に行った。

キロも付いて行かせてほしいと言ったが、事態がややこしくなるという謎の理由で断られた。

キロはその日は庭掃除と周辺の掃除にいそしんでいた。



その日からアーシェはリーベルさんのことを「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。

リーベルさんは呼ばれるたびに小さくガッツポーズをしている。



アーシェは時々キロと目が合うたびに表情筋を上に持ち上げるぎこちない動作をするようになった。


アーシェ「・・・」

キロ「・・・」



アーシェ「どうかしら」

キロ(何が?)

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