第37話 カルデラの王女とアーシェの小説



100年前、

カルデラ国のデシベル王には、エステルという名の長女がいた。

名目ともに王位を引き継いだ彼女の時代カルデラの国は最盛期を迎えることとなる。





印刷という技術は人類最高の発明とされ文明の爆発的発展に大きく貢献したといわれる。それまでは、高価な貴族の所有物でしかなかった書物が一般の市民でも手軽に読むことができるようになった。



リーベル「アーシェ、ついに、ついに手に入れたわ。」

アーシェ「どうしたの、リーベルさん」

リーベル「もう、お姉ちゃんって呼んでっていつも言ってるでしょ。」



リーベル「現地から取り寄せて、ようやく手に入ったの。今大人気の小説」

キロ「あーそれ、カルデラの城のみんなも読んでたやつ。」

リーベル「流石、カルデラ出身」



リーベル「なんでも作者は100年前のカルデラの王女らしいって噂よ。確かエステルって名前だったような」



使い魔「歴代王女の中で特に有名な方ですね」

アーシェ(エステル様、まだ彼女が幼い頃だけど、お会いしたことがあるわ。)




アーシェ(へーあの『やんちゃ王女』が恋愛小説ねー、知っている人物の小説ってなんだか黒歴史を見るようで・・・なんだか悪い気がするな・・・まーこれも、100年間封印されていた私の特権ということで・・・)




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私の記憶の中にあるアーシェ卿はとても凛々しくてどこか『冷たい』人物だった。




幼いころの私はお城で いたずら ばかりして城中を駆け巡っていた。

秘密の抜け穴を見つけては城の色々な部屋を行ったり来たりして遊んだっけ



エステル「あーしぇ、あーしぇ」

こっそりアーシェ卿の部屋に入って

自室で物書きをしていたアーシェに話しかけた。

アーシェ「ああ、びっくりしたわ。」



エステル「あーしぇ、なにしてるの」

アーシェ「・・・・これは、文字を書いております。まだ王女には読むことはできないと思いますが・・・」



エステル「なにかひみつにしているのね」

アーシェ「いいえ、王族の方に何を隠すことがありましょう。王女が文字をお覚えになられたならば、ご説明いたしましょう。」

アーシェは書いていた本を閉じて机の引き出しに入れて鍵をかけてしまった。



私はそれから嫌だった勉強をたくさんして文字の読み書きができるようになった。王族の中で最年少で文字を覚えたとあとで聞いた。



エステル「アーシェ卿、わたくし文字を覚えました。以前の物書きのご説明を・・・」

アーシェ「・・・・」



アーシェ「エステル様、申し訳ありません。出陣のためにすぐにここをたたねばならぬのです。」

エステル「別に明日でも遅くないとファナさんが・・・」

アーシェ「いいえ、今すぐに・・・」


エステル「そうですか・・・残念です。」

アーシェ「・・・・王女がさらに勉学や習い事に励まれたなら、きっとご説明しましょう。」



・・・・・・・



2年後、最後の悪魔討伐の際にアーシェ卿の行方不明の知らせが届いた。行方が分からなくなる直前からかなり衰弱していたことから死亡という裁定が下された。

あの時ほど泣いたことは私の人生の中でなかっただろう。



それから、あっというまに5年の月日が流れた。カルデラは商業を中心に爆発的に発展することとなり、私は歴代最高の王女などと称えられることとなったのだけれど



ある日、

「こちらの机は売りに出してよろしいでしょうか。」

「ええ、かなり古くなっていますし・・・」



エステル「・・・・あの机・・・待ちなさい。その机は私の部屋に置いておきなさい。」

「これは、これは、王女・・・そこまで綺麗な机ではないですが、このような物を・・・」

エステル「構いません。これは私の恩人の形見なのです。」

「は、これはいらぬ気づかいを」




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リーベル「本の題名は『君の小鳥になりたい』よ。」

アーシェ「・・・・」


リーベル「・・・どうしたの?アーシェ、顔色が悪いわよ。」

アーシェ「いいえ、何でもないわ」




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アーシェ卿の机の鍵を開けてもらい出てきたものは小説だった。


病弱なお姫様と新米の兵士の淡い恋物語

兵士は小鳥を飼っていて、お姫様は彼の小鳥になりたいと望むそんな物語だった。

文章のひとつひとつが素晴らしく、とてもリアルに描写されていた。



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リーベルは本の音読を始めた。

リーベル「はじめに、この物語の作者は私ではありません。この物語の作者は『シェリア』であり、シェリアはこの私エステル=カルデラとは別人であります。」



リーベル「やっぱり、エステル様じゃないって書かれているわ。」


キロ「カルデラ城でも話題になっていたけど、シェリアなんて人物どこにも存在しないらしいんだよ。」


使い魔「謎ですね。」




キロ「この本だけは最後まで読破したっけ、シェリアってきっと知的な美人作家だったんだろうな・・・」



リーベル「キロ君、文学少女がタイプなんだ・・・」




アーシェ「・・・・あ・・・」

アーシェはもじもじしている。



リーベル「・・・どうしたの?アーシェ?」




アーシェ「・・・別に何でもないわ」





あとがき

「わたしはこの小説を公表することを迷いました。しかし、こんな素晴らしい物語を皆に伝えたかったのでこの本の出版を依頼しました。私の友人であるシェリアの隠れた一面を彼女と一緒に居られた時間に共有できなかったことが大いに心残りです。」



アーシェは目頭が少し熱くなるのを感じた。

キロ「ホントどうしたんだよ・・アーシェ」



アーシェ「・・・」




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アーシェ「危なかった。王女に私の趣味がバレてしまうところだった。」

ファナ「まだ、王女様に隠してたのかよ。お前のヲタク趣味」


アーシェ「だって恥ずかしいもの」



ファナ(ファザコン公言してるほうがよっぽど恥ずかしいと思うが・・・)

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続 キロと13匹の悪魔 @haidoroponnpu

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