第22話 最強を目指す悪魔 その3


力が欲しい。




腕力、権力、財力・・・力は色々種類があるが、とりわけ腕力は今の時代にあまり必要ない要素らしい。



100年前、腕力だけが自慢だった俺の祖父は悪魔軍の主力だった、

そして、カルデラの神剣アーシェ卿に敗れた。



領主だった我が家は没落の一途をたどり、今もずっと貧しい生活のままだ。

腕力だけが自慢だったのにその腕力ですら及ばなかった。

その時点で何の価値もない存在になってしまったのかもしれない。


だったら俺は・・・




$$$




武装したたくさんの夜盗の群れに囲まれた男は静かに笑う。




マタン「そこをどけよ鎧の男」


鎧の男「・・・・盗賊貴族、マタンだっけか・・・・俺が何をしに来たのかわからないわけじゃねーだろ?」


盗賊貴族、マタンは貴族のなりはしているが服はひどく薄汚れていた。


マタン「はん、口を慎め、下賤の者よ。高貴な私がそなたのようなものの下につくはずがなかろうが。」



ドン!!!!



大きな音と地震のような振動があたりにこだました。


鎧の男「最後だ・・・返答は?」



マタン「・・・・・・お前たちは下がっていろ」

マタンの髪がするすると伸びていく、


マタン「どこまでも下賤で不愉快だ。ここで永遠に眠るがいい」


大量の髪が鎧の男に絡みつき、縛り上げた。


マタン「どうだね、これが貴様らに目覚めさせてもらったわたしの力だ。

お前がどんな怪力だろうがすべての関節を締め上げてしまえば動けま・・・・」





一瞬大男は髪をすべて引きちぎり、髪をつかんでマタンを宙に放り投げた。

マタンの髪は引きちぎれて、丸坊主になった。





鎧の男「弱ぇ、悪魔の力は願いに呼応してどこまでも強くなる。お前の願いはその程度ってことだ。」





マタン「ひ、ひいいいいい、」

マタンとその部下は散り散りになって逃げていく。




鎧の男「口ほどにもねぇ、そう思わないか?神剣アーシェ卿」


アーシェは木の上からふわりと飛び降りた。

アーシェ(?・・・どうして私の名前を知っているのかしら)


鎧の男「なんというか普通の餓鬼にしか見えぇな、だが、どことなく只者でないようにも見える。」


アーシェ(・・・・)



鎧の男「あんたは覚えてないかもしれないが、

うちの先祖があんたに世話になったそうだ。そのお礼参りがしたいと常々思っていたところさ」



アーシェ「別に珍しいことでもないわ」



鎧の男は持っていた大斧を振り上げてアーシェにめがけて振り下ろす。

鎧の男(先手必勝!さあ、どう避ける?避けたところで対応してやるぜ、腕力は筋力、筋力は速度、悪魔の力を得た俺は最強!!)

ビリビリと振動が響き、その音に驚いた鳥たちが恐れおののい逃げていった。


アーシェは男の大斧を正面から受け止めていた。


鎧の男(馬鹿な、あんな細腕じゃ受けきれないはず、こいつはもう体中の骨がバラバラなはずだ・・・)



鎧の男がもう一撃を加えようと考えたとき、目の前の視界がぐらつき、真っ暗になった。

鎧の男(土?地面?なんで?)



鎧の男「なんで!おれは倒れているんだ?」

アーシェ「一撃を加えたあとが隙だらけだったので・・・」

鎧の男(どうして俺の一撃を受けることができたんだ、隙?どうしてその一撃を見逃すことがあるのか?・・・・)


色々な考えがめぐり最後に出た一言がこれだった。

鎧の男「お前・・・本当に人間か?」




アーシェはくすりと笑った。





アーシェ「さあ、どうかしらね」






そう言ってふわりと姿が消えていった。




$$$




マタンを縛り上げて身柄を引き渡したアーシェは駆け足気味でキロを探していた。

アーシェ(あの鎧の賞金稼ぎには悪いことをしたけれど、かなりの収入になったわね・・・)




キロは集落で盗賊貴族マタンの情報を得て住処にあたりを付けていた。

キロ「盗賊団の討伐とか一人でできる領分を越えてる気がする・・・」

使い魔「なまじ、純粋な悪魔でない分、厄介ですねぇ」




キロ「一騎当千のつわものでもいれば・・・・」

使い魔「・・・すぐ近くに銀色の髪のひとが・・・」

キロ「・・・」



アーシェ「わたしがどうかしたかしら?」



キロ「!!」

使い魔「!?」

ふたりは、謝罪と服従のポーズになりかけのところで踏みとどまった。




キロ「どうして、俺の居場所がわかった?」

アーシェ「キロの心臓の魔力で数キロ先でも居場所がわかるわ、例えるならば港の灯台のような感じ」

キロ(やっぱりそうなんだ・・・)





キロ「・・・・アーシェ、さん?、実はこの辺りを荒らしまわっているマタンって盗賊のリーダーが・・・云々」




アーシェ「・・・それならすでに隣町の騎士団へ連行したわ。」

キロ(仕事が速い、・・・流石、つわもの・・・)


アーシェ「・・・・それでこれがその謝礼よ。受け取って」

アーシェが差し出した額は、キロが今まで貯めた額と同等かそれ以上かもしれなかった。

それは、猫が飼い主にとったネズミを見せびらかすようだった。




キロ「・・・いらない。アーシェが仕事をしたんだから、それはアーシェの分だ。」




アーシェ(・・・・)

使い魔「ご主人、察してあげましょう。キロさんにも安いプライドくらいありますって」

キロ「うるさいよ」





アーシェは一仕事してお腹が減っていることに気がついた。





アーシェ「・・・・じゃあ、今夜はおいしいものを食べて、ちゃんと宿に泊まりたい、それでいいかしら」

キロ「・・・え、まあ別にいいけど、・・・」

アーシェ「ひとりで、やればいいなんて言わないわよね?」

キロ(・・・・)



キロ(・・・うう、いかん。立場が逆転しとる・・・こっちが飼われる立場でどうする)

使い魔「ごちそうになります。ご主人様!!」

キロ(・・おい)



その夜の料理は高い分とてもおいしかったが、キロはすこし不機嫌だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る