第30話 記憶を操作する悪魔 その1
アーシェ「キロ、胸を見せて」
キロ「!」
アーシェ(なんだその乙女の反応)
アーシェ「あなたの心臓の具合を見るだけ、変なことはしないわ」
キロは上着とシャツを脱いで上半身裸になった。
アーシェは恐る恐るキロの胸に触れる。アーシェの手は柔らかくて冷たかった。
アーシェ(魔力の侵食が早い。)
いよいよとなれば私の能力でキロの心臓から魔力を吸い出す。
でも、キロの心臓に残っている膨大な魔力を吸い出してしまえば私はおそらく正気を保てない。この辺りは荒廃した荒地になるだろう・・・・
それでも白い剣を持っているキロは助かる・・・
キロが助かるならば私は・・・
キロ「アーシェ、変なこと考えているだろ」
アーシェ(ぎくり)
キロ「なんとなくアーシェは危ないことを考えていると、目が鋭くなるんだよ。」
アーシェ「・・・・・別にそんなことないわ」
アーシェはプイとそっぽを向いた。
使い魔「いやぁ、仲むつまじくて、何よりです。」
キロ「お前、どこいたよ」
使い魔「ご主人とキロさんが一緒にいるときはご主人の魔力の流れが不安定になるので、とばっちりを喰らわないようにしてまして」
キロ(不安定か、心配させてるのか?きっとアーシェは罪をどう償うか、思いあぐねてるんだろうな・・・俺のことなんてどうでもいいのに・・・・)
きっと、俺のことなど忘れてしまった方が、あの子のためだ。
$$$
アーシェはキロに懐く野良猫のようだった。
そして野良猫のようにその日を境にアーシェはぷつりとキロの前に姿を現さなくなった。
インバース国の一番の主要都市『ハインベルン』
ここは政治と交易の中心地であった。
一昔前は寂れた田舎であったが、今は大きな帆船がいくつも行き来する港があり、カルデラよりも栄えているかもしれない。
閉鎖的なカルデラと違い、初めて来たキロのような人物も都市にすぐ入ることができた。
きっとこの寛容さがハインベルン発展の秘訣なのかもしれないとキロは思った。
キロ「わーでかい建物がいっぱいだなぁ、」
使い魔「その発言、田舎ものみたいですよ。」
キロ「で、ここに何しに来たんだっけ?」
そうだった。ここには、俺の心臓を治す手がかりがあるかもしれないとアーシェが言っていた・・・
しかし、ここ1週間ほどその彼女の姿を見ていない。
お金もそれなりに貯めることができたし、もうカルデラに帰郷して、白い剣を誰も手の届かないところに捨てる準備をしてもいいぐらいだった。
アーシェがいたからここまで来た。
アーシェがいなかったらここまで来ていなかった。
そういえば、もうひとつ、ここには悪魔の力をバラまいた組織の総本山があるはずだった。
まさか、その組織の手に落ちたとか・・・
使い魔「それはないでしょう、はは」
キロ「だよなぁ」
100年前に魔術師モールスがここに来ている可能性が高いとアーシェが言っていた。
過去の文献とか調べられる場所はないだろうか
街の人から聞いたら、ハインベルン国立図書館で調べるのが良いと聞いた。
夕暮れ時、街はにわかに同じような礼服を着た若い男子や女子達でにぎわっていた。
使い魔「国立図書館には学習院が併設されていて、あの服の男女はそこの生徒だそうですね」
キロ「へー、つまり、カルデラの士官学校みたいな感じ?」
使い魔「少し違う気もしますが、まあだいたいそんなようなものです。」
キロ「見た目、14~17歳って感じかぁ、若いなぁ」
キロは今年で22歳になるだろうか
キロ「なんかもう若さが眩しいよ」
使い魔「おやじみたいなこと言って、キロさんだってまだ若いですよ」
使い魔「若い綺麗な女性がたくさん行きかうのを眺めるのも良いですねぇ」
キロ「わかる、わかる、カルデラにもお嬢様学校なんてものがあってねぇ、俺ら一般兵士は眺めることも禁止されてたから、こういうの新鮮だな」
たくさんの若者が行きかうのをキロはぼんやり眺めていた。
衛兵がこちらをちらちら見て警戒しているようだった。
キロ「あんまり眺めているとあの衛兵に目を付けられそうだ、取り合えず、今日は宿を探すか・・・」
たくさんの女生徒の中ひときわ、全員の注目を浴びている女生徒がいた。
遠巻きに彼女の美しさに目を奪われているようだった。
彼女は、背は低く、大きな眼、整った顔立ち、後ろで束ねた綺麗な長い髪、銀髪・・・
銀髪?
キロ「・・・・・ぶーーー・・・・アーシェ?何してるんだよこんなところで、」
キロは思わず声をかけてしまった。
彼女はこちらを見返す。
キロ「・・・・」
アーシェ「・・・・」
アーシェ「あの・・・どちら様でしょうか?」
キロ「・・・・え?、俺だよ、キロ=エバンスだよ。」
アーシェ「エバンス?申し訳ありません。覚えがありません。どちらでお会いになったでしょうか?」
キロ「・・・一緒にここまで旅してきたじゃないか・・・」
アーシェ「旅?わたしは生まれついてからここで育っています。誰かと勘違いされているのでは、」
キロ(・・・・本当に他人?いや見間違えないだろ?こんな人間二人もいるかよ)
不意の質問に遠巻きに見ていた生徒たちも騒ぎ出した。
「誰?あのおっさん、アーシェ様の知り合い?」
「もしかして、ナンパじゃないの?」
「あのさ、彼女困ってるじゃないですか」
「ほらほら、こっちちょっと来て」
キロはイケメン男子たちに連衡されてその場から退場させられた。
キロ(・・・・ええええええええ)
芝生の手入れの行き届いた公園広場でキロは泣きそうになっていた。
キロ「ああ、新たな生き恥をさらしてしまった。まさかあんなにそっくりな人物がいるなんて・・・」
使い魔「キロさん完全に女子生徒をナンパする変質者でしたね」
キロ「言うなぁ、」
使い魔「しかし、キロさんあれは間違いなく、ご主人様でしたよ。」
キロ「は?」
使い魔「あの魔力は間違いありません。そっくりでなおかつ悪魔なんてありえません。」
キロ「ってことは、なんでこっちことを覚えていないんだ?」
使い魔「とぼけているか、本当に忘れたかのどちらかですけれど・・・」
・・・・・・・・・・・
アーシェ「ただいま」
リーベル「おかえりなさーーーい」
リーベルはアーシェに飛びついた。
アーシェ「もう、おねえちゃんたら、暑苦しいよ」
リーベル「もう、アーシェは可愛いなぁ、こんな可愛い妹がいて飛びつかない方がおかしい」
・・・・・・
アーシェ「・・・ふぅ、今日ね、変な男の人にからまれたの」
リーベル「なにぃ、どこのクラスの男子だぁゆるさーん」
アーシェ「ううん、全く知らないひと」
リーベル「・・・・ええと」
アーシェ「私はこのハインベルまでそのひとと旅をしてきたんだって」
リーベル「あはは、そんなわけないじゃない。アーシェは生まれたときからずっとずっとこのハインベルにいるんだから」
アーシェ(そうだ、そんなわけない、あんな影が薄そうなひとが知り合いなわけない。)
リーベル「はぁ、アーシェが可愛らし過ぎるのも考え物ねぇ、きっとその人も一目で惚れてしまって、無意識に声をかけたのよ。それで、言い訳するにも辻褄の合わないことを言ってしまったんだわ」
アーシェ「一目惚れって・・・」
リーベル「駄目よ、アーシェの嫁はあたしがなるんだからーー」
アーシェ「もうお姉ちゃんったら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます