第16話 感情を食べる悪魔 その3


ストレア「あら、また来たんですね」

キロ「ああ、あんたから問答無用で能力を奪いに来た」



ストレア「まあ、乱暴なこと・・・でも、興味があります。あなたがどうしてそんな答えに行きついたのか。」



ストレア「私から能力を奪えば、今まで食べた感情が解放されてしまう。そうなれば旦那を亡くした方はまた悲しみに暮れるでしょう・・・シルさんも仕事で失敗ばかりしてしまうことになりますよ。私の相談を受けて、立派に生活できるようになった方をすべて元に戻すんですか?そして、私もトラウマに囚われて苦しむことになる・・・」



キロ「・・・俺は悪魔が悪いことをしているなんて思ったことはない・・・自分がいいことをしているなんて思ったこともない」


ストレア「あなたは、一般的な善悪に無関心にも見えませんが・・・」

キロ「・・・俺の寿命は白い剣のせいで1年もたないらしい」


キロ「・・・あんたは運が悪かったんだ。こんな広い世界で悪魔に出会う確率なんてそうそうないのさ。そして、悪魔に唯一対抗できる手段がこの白い剣・・・だったら、俺が出会った悪魔はできる限り退治する。」





ストレア「・・・はは、ご立派な覚悟ですね」




ストレア「・・・もし私に感情があれば、素晴らしいと思ったんでしょうか?」

キロ「?」

ストレア「はは、私はよく愛想笑いをしますけれども、心は少しも可笑しいとか感動したなとか思っていません、当たり前ですよね感情がないんですから」




ストレア「私がなぜ感情を食べるかわかりますか?」





キロ「感情に囚われている人を助けるためとか・・・」

ストレア「いいえ、違います。感情がなんなのか感じたいからですよ」


キロ「・・・?」


ストレア「確かに私は両親から受けた虐待のトラウマから解放されるためにこの感情を食べる能力を手に入れました。自分の感情を食べさせてた私からは感情というものがきれいさっぱりなくなりました。感情がどんなものだったかは記憶でしかたどれない。なくしたからこそ気になる感情というものを感じたくなる。ひとの感情を食べるとその瞬間に少しだけ感情を感じることができるんですよ。そしてもっと感じたいと思ってしまう。」



キロ「だったら・・・」



ストレア「だったら、おとなしく能力を渡して、白い剣で切られてしまえと思いますが、感情を完全に取戻したくはない。怖いという感情はありませんが、あのころの私に戻ったらきっと不利益を被るとそう考えます。」




ストレア「感情を食べられた人間はいいことだけが起こるか?これもそうじゃありません。無気力になって普通の生活をしなくなった人もいます。そのほうが合理的だと考えたのでしょう・・・」


キロ「・・・」


ストレア「さあ、これであなたは私を斬るのに遠慮はなくなったでしょう?」


キロ「・・・どうしてそんなことまで話すんだ?」


ストレア「なぜでしょうね?こんな私でも少しは罪の意識があるのでしょうか?」




ストレア「でも・・・私は全力で抵抗しますよ?」

ストレアの体から黒い化け物がゆらゆらと這い出てきた。


キロ「そのほうがいい」

まだ、奪う心が痛まないから・・・




$$$





キロが最後の一太刀を悪魔に与えたとき、ストレアは急に苦しみだした。

ストレアの心にかけていた感情が一気に戻っていく

ストレア「・・・ひ、いや、いあああああ、ああああああああああああああああ」

ストレアは悲痛な悲鳴を上げた。



髪をかきむしり、爪でのどを引っ掻いて・・・キロは見かねてストレアを当身で気絶させた。

教会の関係者は驚いて、すぐに彼女を病院に運んだ。




その夜、少し症状が落ち着いたストレアは窓の外の空を見ていた。

使い魔「元気そうじゃないですか」

木の上に使い魔がいた。

ストレア「どうも、悪魔祓いの助手さんと・・・・キロさん」

キロ「・・・具合は?」



ストレア「大丈夫・・・じゃないかもしれません。これからどんな後遺症が残るかわかりません。・・・でもそれは私自身の問題、あなたには関係のないことです。」



キロ「・・・」

ストレアは必死に強がっているように見えた。



ストレア「急いだ方がいいんじゃないですか?時間がないんでしょう?」

キロ「・・・俺は、あんたが楽しく暮らしていけることを祈ってる。」

ストレア「・・・もう棺桶に片足をいれている人間に心配してもらうほど私は落ちぶれていません。」



キロ「・・・・」

ストレア「いま、14歳のガキのくせになんて思ったんじゃないですか?お・じ・さ・ん」



キロ「俺はもういく」

キロは木の上から飛び降りた。



ストレアは最後に封筒をキロに投げつけた。

封筒には少しのお金と走り書きのメモが入っていた。

そのメモには「ありがとう」と書かれていた。




その後もこの町の教会には悩みを抱えた相談者が絶えることはなかった。

相談室を一人で切り盛りするその若きシスターの名前はストレアといった。

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