前途多難 五

 ザ タワーズ ウエスト 某部屋


 寒さが冷える外にいる者達に対し、石塚いしづか健太けんたは暖房が効いた部屋の中、現在の状況を頭の中で整理していた。


――あの癖っ毛の男は一体……?


「先輩誰と電話してたんすか?」


――気にしなくてもいいと言われたが、ターゲットと関係があるなら知っておくべきじゃ……。


「もしも~し、聞いてるっすか?」


 澤部遼が石塚に話し掛けるが、澤部の声は石塚には届かなかった。


――ここはもう一度連絡してあの男の詳細を……。


「石塚先輩!」


 澤部の声がやっと耳に届き、石塚は我に返る。


「な、何だ澤部?」


「何だじゃないっすよ、電話の相手誰だったんすか?」


「ん? あぁ……お前は別に気にしなくていい」


「え~気になるじゃないっすか、教えて下さいよ~」


 石塚は任務が『初日』である澤部に変に心配させないよう、知らない人物がいたことを黙ることにした。


――そうだ、俺が動揺していては駄目だ。今は課せられた任務に集中しなければ。


 澤部は石塚が口を開いたくれないのを理解し、それ以上追求するのを止めた。


「まぁいいっすわ、俺まだ腹減ってるんでラーメン食べてますね」


 石塚は澤部が何を馬鹿なことを言ってるのかと双眼鏡を外し、澤部の方を見ると、澤部が持っていたコンビニ袋から数個の豚骨ラーメンが入っていることに気付いた。


「お前まだ買ってたのか!?」


「そっすけど、どうせ経費から落とせるんすよね? だからいっぱい買って来たっす」


「そんな経費のことはいい! いや良いわけじゃないが……俺が言いたいのは同じ物を何個も買ったのかって聞きたいんだ」


「いや、俺豚骨ラーメン好きなんで、並んでる分だけ全部買って来たっす」


「お前……」


 石塚は澤部の言動に呆れ、返す言葉が思いつかなかった。


 澤部は石塚のことなどお構いなしに、コンビニ袋から一個の豚骨ラーメンを手に取って石塚に対して誇らしげにこう言う。


「先輩、腹が減っては戦はできぬって言うじゃないっすか。」


 すると、石塚も対抗心を燃やすわけでもないが、澤部が言ったことに対して反論する。


「腹八分目に医者要らずって知ってるか?」


「……まぁ腹八分目にしとけって意味ですよね?」


「……まぁ……そうだな」


――コイツに構ってるのは時間の無駄か。


「はぁ……」


 石塚が大きなため息を吐くと、それを見ていた澤部が、コンビニ袋からまた一つ豚骨ラーメンを取り出し、石塚の前に差し出す。


「さては先輩、腹減ってるっすね、一つ分けてあげるっすよ」


「いや、結構だ」


 石塚は澤部からの気遣いを断り、任務に続行する。


 ふたたび双眼鏡を使って、部屋の窓から久保田と癖っ毛の謎の男の観察を続けることにした。


――まだ特に変わった動きはないか、何話してるんだ?


 石塚が観察を続けている中、澤部は電子レンジに入れた豚骨ラーメンが出来上がるのをソファに座って待っていた。


「先輩本当に要らないんすか?何だったら今電子レンジに入ってやつ先に食べちゃっていいっすよ~」


「任務中だ……全く」


――やばないな……俺も腹が減って来やがった。


 そしてこの部屋の中は再び、豚骨臭に包まれるのであった。

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欲望の果てに…… T隊長 @777

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