前途多難 三

 市川駅前 飲み屋街 表通り


 彼は爪楊枝を口に加えた片桐かたぎり蒼次郎そうじろうという殺し屋を尾行していた。


 少しでも楽になれることを願いながら。


 ただただ、尾行していた。


 今彼が出来ることはそれだけだった。


 本来己の中にある『欲望』を押し殺しながら。


 ただただ、いつものように尾行していた。


 そして彼の頭の中に、いくつかの疑問が浮かび上がる。


 一つ目は、片桐が己の存在を認知していること。


 二つ目は、存在を認知しているのにも関わらず、距離を空けることなく、ずっと同じペースで歩き続けていること。


 三つ目は、己の姿を見ても、片桐から決して緊張感というものが感じられないこと。


 彼は思考するも、全く整理が追いつかない。


――怖い……怖いよ。


 出来ることなら、こんなことなど投げ捨てて、自分の居るべき場所に帰りたいと願う。


 だが、その願いなど通じる筈はずがなかった。


 彼は逆らうことは出来ない。


 彼は、『欲望』のままに生きることを許されないのだ。


 そんな恐怖に怯えながら、片桐を尾行していると、一通りの中にやたらと男性が多くなっていることに気が付く。


 男性と女性の比率が合わないことに疑問を抱いだいていると、片桐が足を止めていた。


 片桐はある一定の方向に目を向けている。


 それに連れられて見てみると、彼の視界に移り込んで来た光景は、多くの男性が群がっていた。


 そしてこの男性達は、あるきらびやかな外装の店の周りに集っていることが分かった。


 彼は何がどうなっているのか理解出来ず、気が付けば棒立ちになっていた。


 すると尾行していた相手の片桐が、加えていた爪楊枝つまようじをポイッと投げ捨てると、群むらがっている男性達が居る店の方に歩き出す。


 片桐が向かって行った店の派手な看板には、『To Heaven』と書かれていた。

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