ごく当たり前な日常 二

 とあるキャバクラ店


 此処ここは千葉の西にある駅近くの飲み屋街。会社帰りのサラリーマンや学校帰りの学生、忘年会で集まった人達等様々な人で賑わっている。飲み屋は勿論、コンビニやカラオケ、ホテルにホストクラブもある。


 その中でも此処ここの店は外せないという人気のお店がいくつかあり、毎年雑誌にはベスト5として人気のお店が選出される。その為、非常に競争率が高い。


 その中でも毎年必ず1位2位を独占する人気の店がある。


 その店の名前は『To Heaven』キャバクラ店である。


 その飲み屋街にはいくつかのキャバクラ店が存在するがTo Heavenは圧倒的な人気があり、他のキャバクラ店と比べ、収入額は歴然の差が生まれている。


 その圧倒的な人気の理由は、美人、可愛いといった女性を多く所属させており、ほとんどが十代、二十代。


 例外として人気が高い者は三十を過ぎてもこの場に留とどまることが許される。


 その為客側としては外れのキャバ嬢を引く確率が極めて引くいことから、キャバクラが初めてな人にも受けが良く、リピーターも増え続けている。


 ちなみにTo Heavenは募集案内をかけない。主にスカウトマンのスカウトになる。スカウトマンが街にいる女性を見かけては主観的な判断で呼び込みを掛ける。


 そしてその誘いに応じた者はスカウトマンがTo Heavenのスタッフにバトンを渡し、案内でTo Heavenを設立した会長のもとで面接が行われ、最終的に会長の判断で結果が下される。


 To Heavenのもとで働くだけでも非常に困難な道であり、その分働きたいと思う女性も多くいる。その為To Heavenで働くことを希望する者はわざとスタッフの前を通るケースも少なくない。


 そして、人気の理由はもう一つある。


 キャバクラには順位というものがある。評価方法としては指名される回数、そして売り上げ金額この二つを総合して評価する。


 その中でも毎年No.1のキャバ嬢がいる。


 そのキャバ嬢の名前は麗華れいか。歳は二十代後半。髪型は黒髪の三つ編みのハーフアップで醇美しゅんびでスタイルも良く、男女問わず誰もが認める美貌を兼ね備えている。その美女を人目見ようと麗華目的で来る客も多い。


 街では麗華に接客を受けた者は確実に心を鷲掴みにされるという風聞が流れている。


 その噂の彼女麗華は今宵もまた自分の職場であるTo Heavenで労働する為に向かい、裏口から入って更衣室に顔を出す。


「おはよう」


「あ〜おはようございます! 麗華先輩!」


 彼女の名前はさき。麗華に憧れ、この職場で働くことを決意した麗華の後輩である。


「麗華先輩今日は早いですね? どうしたんですか?」


 麗華は通常は出勤時間ギリギリに入るのだが、今日は勤務時間の三十分早く付いていた。


 麗華はタイムカードを持ち、機会にスキャンした後、咲の質問に答える。


「今日は早めに来てくれって社長に呼ばれたのよ」


「あ〜そうなんですか」


「じゃあ私着替え終わったんで先に行ってます!」


「えぇ、わかったわ」


 麗華は着替え終わった後休憩室にいる社長のもとへ向かった。


 今日の麗華の格好は赤を意識したフリルと袖付きタイトミニドレスを着て、シルバーのネックレスを身につけており、右手には黒いポシェットを持っている。


 麗華は休憩室に入ると黒服に身を包んだ社長が立っていた。


「おはようございます」


 麗華は頭を下げてオーナーに挨拶をした後、その流れで社長も麗華に挨拶をする。


「おはよう。悪いな。早く呼び出して」


「いえ。それぐらい構わないのですがどういった用件でしょうか?」


 社長は麗華に近づき一枚の写真を渡す。


 麗華は渡された写真を見る。そこには顔がゴツゴツとした目つきが悪い男の写真が写っていた。


「今日の開店と同時にこの男が来店する。『情報屋からの情報』だ。間違いない。実はこの男を……」


 社長はことの詳細を麗華に話し、麗華はその話を聞いた後、口の右端を上げてニヤリと笑った。


「これはオーナーからの命令でな、この件は麗華に任せたいんだが、引き受けてくれるか?」


「成程……分かりました、私がやりましょう」


「すまないな、じゃあ頼んだぞ」


「はい、お任せ下さい」


 麗華はオーナーという少しの重みを感じつつ了承し、社長に頭を下げて休憩室を出る。


――久し振りね。またコレクションが増えるわ。


 そのみの意味を知る者は、ほんの僅かな者に過ぎなかった。

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