前途多難 一
市川駅 南口前 ペデストリアンデッキ 三階
――本当に来やがった!?
実のところ久保田は
過去に風俗関係の女性と仲良くなった際に営業時間外で会うことを試みたことが何度かあったが、それは殆ほとんどが失敗に終わってる。
その過去の経験から久保田はその人影を見つけた時、己の衝動を抑えるのに必死だった。抑えることを知らなければ、子供のように飛び跳ねる勢いであっただろう。
久保田はその嬉しさの感情を殺し、ベンチから立ち上がると、人影の方にクールに手を振って、相手に自分の居場所を知らせる。
「おーい麗華」
彼のドス太ぶとい低い声が
「
だが、久保田は手を振るのを止やめ、突然と静止する。
そしてまた、森閑とした空間に戻ることとなり、コツン、コツンと靴の歩く音が久保田の耳に染み込んでいく。
――麗華……なのか?
その人影は徐々ににこちらに向って歩いてくる。
久保田とその人影との二百メートル程の距離があった。
その距離を徐々に縮めていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
両端に設置されてる街灯により、久保田はその人影の姿を僅かながら確認することが出来た。
そして久保田は気づく、その人影が『女性ではなく、男性のシルエット』であると。
――麗華じゃねーな。誰だアイツは?
久保田とその男性との距離は百五十メートルまで縮まる。
ゆっくり、ゆっくりと。
同時に、コツン、コツンと、歩く靴の音も大きくなる。
そして久保田はもう一つ気づく。その人物は他人ではなく、見知った人物であると。
――待てよ……いや、まさかな。
三月の深夜で若干冷える中、 久保田の額から一滴の汗が垂れ、緊張した空気が走り始める。
久保田とその男性までの距離は百メートル。
ゆっくり、ゆっくりと。
同時に、コツン、コツンと、歩く靴の音も更に大きくなる。
しかし、男性はゆっくりと歩いているが、久保田はその歩く速度が早く感じた。
それは何故か。
久保田は少しの不安を積もらせていたからだ。
その影響のせいか、久保田の場合、距離が縮まるのが早く感じたのだ。
その不安の原因は久保田の目の前を歩いてくる人物が『過去に自分に恐怖を植え付けた人物』と似ているということにあった。
「し、しかし、アイツとそっくりだな。ヒヒッ」
久保田は信じたかった。目の前の人物がただのそっくりさんであることを。
ただただ、信じたかったのだ。
だがその祈りは、通じることなく終わった。
「いやいや千葉にしても、やはり三月のこの時間だと、やっぱり少し冷えますね~」
久保田と男性の距離が八十メートルまで縮まったところで、その男性はこの森閑しんかんとした空間を言葉を発して壊し始めた。
「でも、あなたは寒くないみたいですね。額から汗出てるってことは、体温が高い証拠ですから」
――おいおい、声と口調まで似てやがるぜ。ドッペルゲンガーか何かか?
信じたくないがあまりに、久保田は目の前の男性に対して目を背そむける。
その行動を目の前の男性は見逃さなかった。
「嫌だな~何で目を背けるんですか? この状況でそういった行動を取るということは、不安や緊張があって、本能的に逃げたくなる感情が
「て、
久保田は男性の言っていることに、驚きと同時に、更に不安感が増した。
男性の言っていることは当たっていた。内心でその場から逃げたかった。
しかし何故か足が動かなく、若干足がピクピクと震えていた。
それは、男性の威圧により、『恐怖を植え付けられたのだ』。
その行動も、男性は見逃さなかった。
「足まで震えてるじゃないですか。そんな巨体してかっこつかないですよ。全く、相変わらずですね。分かりすい」
そして五十メートル手前の所で、男性は立ち止まる。
そこで久保田は、ようやくハッキリと、その男性の顔を確認出来た。
「て、手前は!?」
「覚えていらっしゃいましたか。まぁ、あんなことがあったんじゃ覚えていない方がおかしいですよね」
男性はニヤッと笑う。久保田から見れば彼の笑みは、まるで悪魔が笑っているようにも見えた。
そして次の男性の言葉によって、久保田は厳しい現実と向き合うこととなった。
「
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