前途多難 四

 市川駅 南口前


 清水しみず花蓮かれんは飲み屋街を抜け、市川駅の南口前に到着していた。


 市川駅は先程まで歩いて来た飲み屋街とは違い森閑しんかんとしている。


 清水は左腕に装着している腕時計を見て時刻を確認する。


――一時ちょっと過ぎか、まだ行かない方がいいわね。何処どこかに座って溜まったLINEでも返してよう。


 清水はキャバクラに通う客、主に常連客達との連絡先を交換している為、清水のLINEには何十件ものLINEの通知が溜まっていた。


 清水は市川駅の広場にあるベンチに座る為、歩を進めていると持っていたポシェットの中からスマートフォンの振動を感じた。


 清水は何かしら?とばかりにポシェットからスマートフォンを取り出す。


 スマートフォンの画面を見ていると、そこには見知った人物からの着信だった。


――どうしたのかしら?


 清水は少しいぶしながらも、着信に出る。


「もしもし?」


『あ、どうも清水さんお疲れ様です』


「お疲れ様。どうしたの?」


 電話を掛けて来たその人物からの電話など、今までほとんどなかった。何かあればいつもはLINEなどで報告していた。しかし今回は電話だった為、清水は何かあったのだと察した。その証拠に、電話の相手は少し焦っていた。


『いや、確認したいことがありまして』


「何かしら?」


 清水は早く言えとばかりに、少し苛立ちめいた言い方をした。


 それを察した電話の相手は、すぐに要件を伝える。


『はい。久保田くぼた寿明かずあきという人物は既に確認済みなのですが、もう一人いるあの男性の方は誰なのかと思いまして』


「え?」


――……まさか。


「その男性ってもしかして、身長は百七十センチぐらいで、少し癖っ毛だったりするかしら?」


『そうです! あの……』


「大丈夫、ソイツのことは気にしなくていいから」


『あ、はい分かりました。では失礼します』


 電話口の相手が電話を切り、清水は少しその場で数秒立ち止まった後、ペデストリアンデッキに顔を向ける。そこには久保田と、もう一人見知った男性の二人が対峙している姿が見えた。


 清水はそれを確認すると、本来向かっていたベンチがある広場ではなく、ペデストリアンデッキ三階を目指した。


――全く、何を吹き込む気なのかしら、アイツは。

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