ごく当たり前な日常 十二

 市川駅付近 コンビニ


――どうするかな……。


 彼は悩んでいた。彼にとって、それはとても重い重い悩みだった。


――今日は疲れたからな~今日ぐらいなら……。


 彼はある決断をしなければならない状況におちいっていた。


 佐藤さとう雄二ゆうじの目の前には、コンビニ特有のレンジで温めるだけで出来るラーメンが複数。


 醤油、味噌、塩、担担麺が置かれていたが、何故なぜか豚骨ラーメンだけが置かれていなかった。


――最近痩せたしな~好きで痩せたわけじゃないけど。


 彼は拒んでいたのだ、夜食を食べようかどうかを。


――この時間帯にラーメンは駄目だよな~いや、この時間帯だから美味いってのもあるか……。


 佐藤は数分間、ラーメンコーナーの前を立っていたのだ。それ程に佐藤にとっては、重い重い決断なのである。


 佐藤がラーメンを買おうかどうか思考中、コンビニの入店音が鳴り響く。同時に、店員の気だるげな「いらっしゃいませ~」が佐藤の耳に入り込んだ。


 ラーメンを見ていた佐藤は、新たに入店した客の方に顔を向ける。


 するとそこには息が荒く、ドスドスと重みを感じる歩き方をする、身体がデカい強面な男性がコンビニの中を歩いていた。


――息が荒い割には汗をいて無いな。


 佐藤の立ち位置からは見えなかったが、その男性はある物を持ってレジの方に向かって行く。


 佐藤はその男性の一つ一つの行動が不審に思い、先程から目の前にあるラーメンより、その男性を観察し続けていた。


――気持ち悪い奴だな、何ずっとニヤニヤしてんだアイツ?


 しかし店員の動きを見て、その男の行動の意味を全て理解した。


 普通なら商品を入れる袋は不透明なものだが、店員が取り出したのは茶色い紙袋だった。


 会計を済ませ、茶色い袋を店員から受けると、その男性をコンビニから立ち去る。


 コンビニに残ったは佐藤とコンビニ店員の二人で、再び静かな時間が訪れる。


 佐藤はラーメンに目を向け、己の食欲と格闘を再開させる。


 格闘を再開させた矢先、スボンのポケットにしまっていたスマートフォンが振動し始める。


 佐藤は何かとばかりに、一旦ラーメンから目を離し、スマートフォンの画面に目を向ける。


 それはある人物からのLINEメッセージだった。


『お!やったねゆうじ(((o(*゜▽゜*)o)))』


『マジ感動だお~(*`ω´*)ドヤッ』


「はぁ……」


 それは見飽きたとばかりに、佐藤は大きな溜息をつく。


――殺し屋といい、さっきのアイツといい、ここ最近まともな奴と絡んでない気がする……。


 佐藤はLINEの返信を返すと、再びスマートフォンをポケットにしまい込み、ラーメンに目を落とす。


 ラーメンコーナーに立つこと数十分が経過し、ようやく佐藤は決断した。


――……買うか。

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