ごく当たり前な日常 七

 ザ タワーズ イースト 楠木の部屋


 優越感に拘っている楠木くすのき翔太しょうたの視界に映っている夜景の中に、自分自身が見下ろされている建物が一つ存在していた。


 ザ タワーズ ウエスト。


 四十五階建てのタワーマンション。高さは、地上百五十メートルと市川市内でもっとも高い場所に位置しており、このザ タワーズ ウエストと楠木が住んでいるザ タワーズ イーストの形は殆ど同じである。


 楠木はこの二つのタワーマンションの内のザ タワーズ ウエスト、正確に言えば、その上に存在している『アイリンクタウン展望施設』の方に顔を向ける。


――本当はあそこから見下ろした方が景色はいいんだろうが、あんな『災害』があった場所何か住めねーよ。お化けとかぜってーいるし。


――もうあの事件から随分とつのか。今じゃ何もなかったかのようになってるし、時間の流れってもんは残酷極まりないな。


 十分に市川市の夜景を眺望ちょうぼうし、優越感に浸った楠木は部屋の中に戻ろうした。しかし、部屋に戻ろうとしたと同時に、ズボンのポケットに入っていたスマートフォンが振動し始める。


 楠木は誰からの着信かとスマートフォンの画面を見ると、そこには見知った人からのものであった為、すぐ様電話に出る。


「もしもし? 何かあったのか?」


『……』


「!?」


『……』


「その情報は確かなのか?」


『……』


「分かった。ありがとう。引き続き頼むよ」


 楠木は電話を切り、スマートフォンをポケットに仕舞い込むと、再び市川市の夜景を眺望する。不敵な笑みを見せながら。


「フフッ。面白いことになりそうだ」


 楠木は手すりに両肘をついて手を組み、その手を組んだ輪の中に口元を収めると、ある一点の方向に目を凝らす。まるで獲物を見つけたハンターのように。


「さて……一狩り行こうか」


 今宵の情報屋の夜はまだまだ続く。


 ゆっくり、ゆっくりと。

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