ごく当たり前な日常 三
龍園
座った後、板前であるいかつい顔をした中老の男。龍園の店主に注文を促す。
「親父、いつもの頼むよ」
「金はあんのか?」
「あるさ、前付けてもらった分も含めて」
蒼次郎は親父である
「ふん」
龍園の店主は一分ほどで蒼次郎の前に日本酒と酒盗みを置いた。
酒盗みは日本酒の
蒼次郎は主に依頼人からの用件は
蒼次郎は何回か龍園で取引をしているうちに、この何気ない時間と空間が気づいたらは
「相変わらず、この日本酒と酒盗みはよく合う」
「それはもう聞き飽きた。蒼次郎、依頼人から頭金を要求するなと、何回言ったら分かる」
「ハッハハハ! その話しはもう聞き飽きたよ」
「だったらするな、依頼に失敗したら後が面倒だろ」
「俺が依頼を受けて失敗したことあるか?」
「過去に何回もあるだろ」
「それは
片桐金次郎。今は龍園という酒場の店主だが、かつては片桐と同じ殺し屋の組織『ムベンガ』に所属していた殺し屋である。
すると今度は蒼次郎が父親に対して思っていたことをぶつける。
「どうなんだ親父、第二の人生ってのは?」
「悪くねーよ」
「左様ですか」
「……急に何だ?」
蒼次郎は日本酒をクイッと飲んだ後、その質問に答えた。
「別に、気にしないでくれ」
「はぁ?」
金次郎は何を言ってるんだとまた手を止めて
「ごちそうさん」
席を立った片桐を、金次郎は静止させる。
「待て蒼次郎。お前……『ムベンガ』から足洗うつもりじゃないだろうな?」
蒼次郎は何も言わずに出入口のドアを開け、父親の前から立ち去った。
龍園を出た蒼次郎は星が見えない夜空を見上げた。
先が見えない、暗い暗い夜空を。
「悪いな、親父」
蒼次郎は夜空を見上げるのを止めるとジーパンのポケットに両手を入れて街の方へ歩き始める。
その思いを胸に、蒼次郎は
そして、背後に忍び寄る黒い影の存在に気付きながらも。
「フッ」
蒼次郎は鼻で笑いながらも歩を進め、まるで背後にいる黒い影をこちら側へ誘うかのように、深夜の飲み屋街へと消えていく。
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