ごく当たり前な日常 十五
ザ タワーズ ウエスト 某部屋
時刻は午前の一時前。
所々窓の明かりが見えなくなっている中、
そして部屋の中、正確に言えばリビングに、
「チッ」
舌打ちとともに。
――あんま美味くねーな。まぁ、コンビニのラーメンだからこんなもんか。
リビングで心中に文句を言っていた青年が一人。
二人用のソファに座って、長方形型のテーブルを挟んだ40インチのテレビを見ながらカップ麺を
周りには家具や物などがあまり無く、生活に必要最低限な小型の冷蔵庫、電子レンジ、ゴミ箱、後は青年が使用しているソファやテレビぐらいで、1LDKにしては寂しさある空間となっていた。
そんな空間のせいか、テレビの音や、麺を啜る音がやけに反響しているようにも聞こえる。
――待機ってのも中々な暇なもんだな。早く勤務時間過ぎろよ。
気だるげな感じの青年は食べ終わってないコンビニで買って来た豚骨ラーメンをテーブルに置くと、置いたすぐ側にあるリモコンを手に取り、チャンネルを変え始める。
――BSとCSも見れれば最高なんだけどな、使えね。
青年はボサボサな髪を空いてる方の手で掻きながらチャンネルを次々と変えていく。何回かチャンネルを変えた後、ニュース番組で手を止めた。
『千葉県、神奈川県等に続き、群馬県でもまた、行方不明者が出ました』
青年はリモコンをテーブルに置くと、残っていた豚骨ラーメンを嫌々食べ始める。
『行方不明者が出たのは群馬県安中市松井田町にお住まいの女性、
「物騒な世の中ですこと」
心にもないことが自然と、青年の口から
豚骨ラーメンを食べながら何気なにげにニュースを見ていると、不意に右側から微かな冷気を感じた。
冷気を感じた方を見ると、バルコニーが開けられてた。そこからその青年より少し年上であろう男性が現れ、青年の方に歩を進める。
「おい
「ふぁいふぁーい」
――だる。
「口に物を入れて返事するな」
まだ噛みきれていない物を無理やりゴクリと喉の奥に通すと、澤部は再度返事を返した。
「はいはーい」
「はいは一回でいい。全く、本当に態度が悪い野郎だな。新人だからって甘やかす気は無いぞ」
「は~い」
――短気かよコイツ。カルシウム足んないんじゃね?
澤部は食べ終わった豚骨ラーメンをテーブルに置いてリモコンを手に取り、画面を切り替える。するとニュース番組が消え、縦横と十字に画面が四つに分けられて映し出された。
その四つの画面には玄関、トイレ、リビング、バルコニーと、生活臭をただ寄せる部屋の間取りが映し出されていた。
「部屋綺麗に整頓されてますね。本当に『人が生活してるみたい』に見えるっすよ」
「これぐらいリアリティがないとな、てかお前、コンビニでラーメン何か買ってきたのか?」
「本当は俺だってコンビニの何か食いたくないっすよ。仕事何か無かったらとっくに飲み屋街にある『一新亭』に直行してますよ」
「『一新亭』? あ~あの長浜のやつか」
「
「確かにあそこの店の作るラーメンは美味いが、あんまり行かない方がいいぞ。あそこはな……まぁ知らない方がいいか」
「?」
――何だよ、気になるじゃんか。
「まぁ、ともかくだ。お前も仕事着に着替えろ。それと、次からは事前に着替えておけ。この仕事は、いつ
「ラーメンの汁が飛ぶの嫌だったんすよ」
「私服には飛んでもいいのか?」
「いや、まぁ……それはそれで嫌っすけど、でも」
「一々口答えするな。口答えする相手が俺で良かったな。別の奴によっちゃ、命が無かったかもしれないぞ」
澤部の身体はゾクリと震える。
「じょ、冗談よして下さいよ。脅してるんすか?」
「冗談に聞こえるか? それと、これは脅しじゃない。忠告だ」
「いやいや、そんな……」
澤部は分かっていた。彼の言葉が冗談でも、脅しでもなく、忠告であることを。
その証拠に、澤部の背中には微量に嫌な汗が滲みだしていた。
だが、澤部は信じきれなかった。否、信じられなかったのだ。
それは澤部が今まで見てきた世界とは違う。
しかし、澤部は踏み込んでしまったのだ。
踏み込んではいけない、裏の世界の道へ。
「いいか新人、今自分がどういう立場なのかを、その小さい脳みそでちゃんと理解しておけ」
「言われなくても分かっ……はいっす」
石塚は澤部の気持ちが切り替わったことを確認すると、何処からか持って来た双眼鏡で、リビングに設もうけられている窓の方に進み、双眼鏡で窓越しから外を覗かす。
その双眼鏡からは、高層ビルならではの夜景が見え、様々な人工物の明かりで暗い空間を照らしていた。
そして視点は市川駅南口前のぺテストリアンデッキ3階へと移す。するとそこには一人ポツリと、ガタイがでかい男性がいることを確認する。
「ターゲットは既にいるな。それにしても一人で何ゲラゲラ笑ってるんだ? 気持ち悪い奴だな」
先輩である石塚の行動を見ていた新人澤部には、一つの疑問が生じた。
「あの石塚さん? そっちの方には隠しカメラとか無いんですか?」
先程の石塚の忠告にビビったのか、澤部の口調は少し丁寧になっていた。
「前はあったんだが、同業者の奴らにバレて壊されたんだ。そんなことが立て続けに起きてな、何度も設置して壊されるなら、金の無駄と判断して、今は設置されていないんだ」
「隠しカメラなのに気づかれるんですね」
――バレるんじゃ隠しカメラの意味無いじゃん。
「いいから、お前は早く仕事着に着替えろ。後五、六分ってところで到ちゃ……」
「先輩どうしたんすか?」
暫しの間硬直していた石塚の様子を見て訝いぶかしんだ澤部の問いに、石塚の口からポロリと独り言が聞こえた。
その言葉をキッカケに、澤部は少しの不安を積もらせることとなった。
「あいつ……誰だ?」
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