異世界が大人気のWEB小説ですが、「異国(ことくに)」の旅はいかがですか?
大学を卒業した北野くんが就職を取消して出かけた「アジアの旅」
西へ。西へ。GO WEST.
基本的に北野くんと多賀先輩とのふたり旅ですが、その土地その土地で出会う人々との交流が素晴らしいです。これが「旅の醍醐味」「本来の旅」だと思います。現地の人と話し、現地のものを食べ、現地の風を感じる。叶うならこんな旅してみたい。
バブル時代の旅とのことなので恐らく昭和の終わりから平成の始まりあたりの時代でしょう。スマホどころか携帯電話だって一般的でなく、旅先でネットで情報検索もできなければ「SNS」なんてものもなかった時代。令和になった今、この作品の中でちょっと前のノスタルジックな旅を追体験できる本作をお勧めします。
かつてマルコポーロが東洋の異国のことを綴った「東方見聞録」
西洋と東洋の貿易商がたどった「シルクロード」
ちょっと前の現代アジアを綴った「西方見聞録」
「広く異国(ことくに)のことを知らないワタシたち」が未体験の異国旅に出かけることができますよ。ワタシもまだ旅の途中です。
それにね、日本人男子結構モテるみたいですよ。
異世界でモテ男子を妄想している方にもオススメかも?
時代設定はバブル絶頂期を折り返した年とのことですから、九十年代が始まって間もないころでしょうか。インターネットも携帯電話もない時代です。まだ私が生まれていなかったころのことでしょう。ゆえに、これは長い旅の記録であると同時に、私が知らない時代のうち最も近い時代の物語という感じもします。
そんななか、海外へ出たことがなかった男がアジアを横断します。
このころの中国はまだ先進国であるとは完全には言えない状態であり(それはひょっとしたら今もそうかもしれませんけど)、人民服を着た人々がおり、文字を読めない人々がおり、治安も今よりもまだ悪かったと言えるのかもしれません。
主人公はそんな中国の様子に戸惑い、あるいは驚きつつも、現地で様々な人々と筆談や英語、日本語などを通じて交流し、パキスタンを目指します。
その過程で描かれる異文化の数々も面白いのですが、何よりも面白いのは、関西弁(近江弁?)をしゃべる主人公・及び主要登場人物の日本人であると言えます。
言うまでもないことですが、「外国」という国はなく、「外国人」という人々はいません。我々日本人も外国へ出れば外国人なのです。そして、日本では自分たちが当たり前だと思っていることもまた、日本から出れば異民族の異文化であり、自分もまた日本民族の一員なのだということが感じられます。つまりは――自分自身からもエスニックな(日本民族的な)匂いがしてくるのです。
この物語に登場する日本人たちは、そんなエスニックな匂いがプンプンしています。
どこか優しく温かい感じがする関西弁で述べられる旅行記。旅先で出会う異国の人々、日本とは違う文化を持つ人々の温もり、逆に卑怯な人に出会ったときの驚き、美味しかったり不味かったりする料理、そんな海外旅行の醍醐味を、一昔前の時代の空気と共に体感してみませんか?
長い物語ではありますが、それゆえにどこからでも読めますし、どれを切り取ってみても面白いです。
就職前に日本を発ち、「陸路で」イラクまで行こうと思いたった、ある関西出身の青年のお話です。
――簡単に書くと上記の一行なのですが。何しろ「陸路」。中国、パキスタン、アフガニスタン、イラン……とバスや列車を使って移動していく道中では、騙されたり道に迷ったり、ぼったくられたり奢られたり。宿や食堂のオーナや通りすがりの人々に親切にされたり、警察に捕まってスパイ容疑をかけられたり……と、さまざまな出来事が起こります。それらを一つ一つ、幸運と努力で切り抜けていく過程に、旅の醍醐味を感じます。
中国を出るまではモテモテだった北野君。「日本で待っている彼女はどうするの?」「そんな約束しちゃっていいの?」と、オバサンはやきもきし、「この調子で全編チャラ男だったらどうしよう?(いえ、どうしようもないのですが)」と心配していたのですが……。パキスタンに入った辺りから真面目になり(要するに、女の子の登場が減った)、安心しました。
198帖以降は、幼馴染の女の子と再会し、彼女のボディーガード役をしています。
イラクを目指す理由は、たいへん真摯なものです。
おそらく、作者さまの体験に基づくからでしょうが、現地の事情に根差したリアリティのある紀行文として、楽しむことが出来ます。
32000km離れたところにも、日本と同じように暮らす人々がいる、そのことを改めて感じさせてくれる作品です。
更新を楽しみにしている作品の1つです。
中国、パキスタン、アフガニスタン、イランなどを経てイラクを目指す、アジア8カ国、3万2千キロの旅。実体験がベースになっていると感じますが、旅行記風の小説です。
シルクロード(とは書かれていませんが、通過する国はシルクロードを連想させます)の雄大な風景、各国の独特な食べ物(サソリを食べたりします)、ちょっとしたトラブル、現地で出会う人々との交流、ほのかな恋……。
この作品は全編、近江弁で書かれているんですが、それが何とも上品で優しいです。
たとえば、新疆ウイグル自治区で出会ったパリーサという少女に「愛しています」を日本語で何と言うか、教える場面があるんですが、
「好きやで」
ここは会話文ですが、地の文もすべて近江弁。それがアジアをさすらう風情とマッチして、ゆったり、まったりとした心地良いリズムをつくり出しています。
心だけでも日常を離れ、アジア旅行を疑似体験したい人にオススメです。