まだバブルだった頃、男はアジアで何を見たか。

時代設定はバブル絶頂期を折り返した年とのことですから、九十年代が始まって間もないころでしょうか。インターネットも携帯電話もない時代です。まだ私が生まれていなかったころのことでしょう。ゆえに、これは長い旅の記録であると同時に、私が知らない時代のうち最も近い時代の物語という感じもします。

そんななか、海外へ出たことがなかった男がアジアを横断します。

このころの中国はまだ先進国であるとは完全には言えない状態であり(それはひょっとしたら今もそうかもしれませんけど)、人民服を着た人々がおり、文字を読めない人々がおり、治安も今よりもまだ悪かったと言えるのかもしれません。

主人公はそんな中国の様子に戸惑い、あるいは驚きつつも、現地で様々な人々と筆談や英語、日本語などを通じて交流し、パキスタンを目指します。

その過程で描かれる異文化の数々も面白いのですが、何よりも面白いのは、関西弁(近江弁?)をしゃべる主人公・及び主要登場人物の日本人であると言えます。

言うまでもないことですが、「外国」という国はなく、「外国人」という人々はいません。我々日本人も外国へ出れば外国人なのです。そして、日本では自分たちが当たり前だと思っていることもまた、日本から出れば異民族の異文化であり、自分もまた日本民族の一員なのだということが感じられます。つまりは――自分自身からもエスニックな(日本民族的な)匂いがしてくるのです。

この物語に登場する日本人たちは、そんなエスニックな匂いがプンプンしています。

どこか優しく温かい感じがする関西弁で述べられる旅行記。旅先で出会う異国の人々、日本とは違う文化を持つ人々の温もり、逆に卑怯な人に出会ったときの驚き、美味しかったり不味かったりする料理、そんな海外旅行の醍醐味を、一昔前の時代の空気と共に体感してみませんか?

長い物語ではありますが、それゆえにどこからでも読めますし、どれを切り取ってみても面白いです。

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