第九節 彼女と彼女の出会い
何だかんだとまごついている間に、三日も時間が過ぎてしまっていた。
フェリミアは己のヘタレ具合に呆れつつ、それでもどうにか一歩を踏み出せた自分を褒めてやりたい気分だった。
軽い足取りで森を駆け抜け、乙女のように胸を躍らせながら、割と頻繁に出くわす魔物を片手間に粉砕する。
心が酷く乱れている。一人の騎士として、騎士団の長として、それは本来戒めるべきものだ。
けれど今は、今だけは、逸る気持ちを抑えきれない。あれだけ散々迷っておきながら、一度腹を括ればこの有様だ。
あまりの現金さに、フェリミアは苦笑いを浮かべた。
「アルディオス様………!」
思い描く相手の名を唱える。アルディオス、アルディオス=バランド!
先代の王国騎士団長であり、《既知領域》全体で考えても最高位に在るだろう大剣士。
王国に剣を捧げる全ての騎士達の誇り。銀の月からただ一人帰還を果たした神殺しの英雄。
彼を讃える言葉は幾らでもある。幾つもの称賛が脳裏を過ぎり、その全てをフェリミアは余分だと断ずる。
そんな言葉ではない。自分があの人に言いたいのは、そんな上っ面の言葉ではないはずだと。
両者の間に横たわる断絶を埋めるには、そんな言葉では不十分だ。
十年という月日は、決して軽いものではない。人が変わるには十分過ぎる程の時間だ。
フェリミアが変わったのと同じように、アルディオスも変わっているだろう。
異形と変じた身体にかつての面影はなく、その心にも歪みが及んでいるかもしれない。
不安はあった。三日の足踏みも、実際にそうだった時の事を考えると酷く恐ろしかったからだ。
悩んで、迷って、恐れて。それでもフェリミアは、《廃棄都市》に自らの足でたどり着いた。
墓標の如き廃墟の街並みを目に焼き付け、心が弱ってしまわぬように拳を固める。
変わるものがあるのなら、変わらないものだって等しくあるはずだ。
十年の歳月がフェリミアの思いを変えられなかったように、英雄の持つ優しき心がそんな容易く変わるはずがない。
会える。もうすぐ会える。変わっても、きっと変わらないあの人に会う事ができる。
「………よし」
一つ頷いて、フェリミアは半ば崩れた門をくぐり抜けた。
生き物の気配はまるで無い。かつて人がいたという痕跡だけを僅かに残して、街は等しく死に絶えている。
さっきまでは不安定だった胸の内に、一気に冷水を浴びせられたような気分だった。
未だに消えることなく残り続ける十年前の傷跡。誰もが目を背けていた、過去の古傷。
こんな場所で、アルディオスはただ一人で魔物を殺し続けてきたのか。
自分が酷い恥知らずのように思えて、フェリミアは強く奥歯を噛み締めていた。
「アルディオス様!」
会いたい。置き去りにしてしまった、あの人の今を確かめたい。
去っていく背中を二度も止められなかった、その事への後悔がどうしようもなく胸を焦がす。
会いたい。会って話がしたい。何を言うべきか、そんな簡単なことも分からない。
分からないが、まず会わないことには始まらない。
だからフェリミアはその名を呼びながら、街の中心へと歩いていく。
やはり事前に使いを送っておくべきだったか。今のところ、呼びかけに対しては沈黙しか返ってきていない。
「入れ違いになってしまったか………?」
王国内で進行している《巨獣》の異常発生。
その原因がこの《廃棄都市》にあるのなら、アルディオスの方も相当忙しくなっているはずだ。
現れた魔物を討伐する為に出払ってしまっている可能性は十分にある。
「まぁそれならそれで、戻られるまで待てば良いが」
フェリミアは自分の思考にそう結論づけた。
一先ず不在かどうかの確認も合わせて、街の様子は出来るだけ見ておくべきだろう。
そう軽く考えながら、フェリミアは街の中心である広場へとたどり着く。
かつて《オリンピア王国》の初代建国王が、ここが西域で人類の手が及ぶ果ての地である証として打ち立てた石碑。
先人達の偉業を讃える碑の周りには、フェリミアには見覚えのない白い花が咲き乱れている。
そして、もう一つ。
「…………?」
この《廃棄都市》には、アルディオス以外には誰もいない。
少なくともフェリミアはそう思っていたし、時折接触のあった部下達からも特に報告は受けていない。
だからこそ驚いた。石碑の前に広がる小さな花畑。そこにいる一人の少女の姿を見て。
美しい少女だった。長く伸びた銀色の髪も、ひらひらした白いドレスも、繊細で儚げな横顔も。
まるで物語から抜け出してきた妖精そのものだ。
細い指がそっと花を手折る、ただそれだけの仕草にもため息が溢れてしまう。
「? だれ?」
それで人の気配に気付いたが、少女―――ライアは顔を上げた。
フェリミアとライア。二人の視線が絡み合う。
ライアは見知らぬ訪問者を不思議そうに見つめ、フェリミアは覗き見ていたような気まずさと共に見つめ返す。
無言。沈黙する少女と騎士の間を、柔らかい風が吹き抜けていく。
どうしたものか。フェリミアは内心焦りを覚えていた。
アルディオスに会いに来たはずが、何故か謎の美少女と遭遇してしまった。
向こうも突然の来客に戸惑っているのか、きょとんとした表情で首を傾げているばかり。
兎も角、このままお見合いを続けても埓があかない。小さく咳払いをしてから、フェリミアの方から口を開いた。
「その、すまない。驚かせてしまったかな?」
「ううん。どうして?」
「いや、どうしてと言われると………」
状況をリードしようと思ったら、いきなり蹴躓いた気がする。
いやダメだ、弱気になるな。フェリミアは小さく首を横に振ってから、もう一度咳払い。
「失礼、名乗るのが遅れてしまったな。私の名はフェリミア=アーサタイル」
「フェリ、ミア?」
「フェリ、と呼んで貰っても構わない」
「ん。フェリね」
ライアは素直に頷く。可愛らしい子だと、フェリミアは穏やかに微笑んだ。
「あたしはライア。アルに付けて貰った名前なの」
「アル?」
少女が自らの名前と共に告げた愛称を聞いて、今度はフェリミアの方が小さく首を傾げる。
「それは、アルディオスという人の事かな? もしかして」
「? うん、そうよ。ちょっと長いから、縮めて呼べば良いって。フェリと同じね」
「そ、そうか」
くすりと楽しそうに笑うライアに、フェリミアは少しだけ顔を赤くした。
あの人と同じ、と言われただけで熱が上がるとは、我が事ながら本当に安い女だな。
フェリミアはそんなよく分からない自虐を頭の中で転がしながら、ライアに対して疑問を投げかけた。
「君は、アルディオス様………あー、アルディオスと、ここで暮らしているのかな?」
「ええ、そうよ」
「………ここで、ずっと?」
「うん、あたしはここしか知らないもの」
「自分の出身も、知らないと?」
「知らない。気付いたら、ここにいたから」
「………そうか。嫌なことを聞いてしまって、すまなかった」
まさかとは思っていた。だが、今のライアの言葉でフェリミアの想像が確かな形となる。
十年前に起こった、月の神による神威災害。目の前の少女は、恐らくその遺児なのではないか、と。
見たところ、どれだけ多く見積もってもライアの年齢は十五を超えないだろう。
当時五歳ならこの《廃棄都市》以外の事を知らないのも無理はない。
降臨した神によって街は崩壊し、他に誰一人生き残りはいない。
そしてアルディオス自身、神に呪われた肉体を隠すために人里からは距離を置いていた。
誰に頼ることも出来なかっただろう。自分から背を向けておいて、今更仲間に頼ることなど選べなかったはずだ。
ただ一人、この死んだ街で生き残った少女を抱えながら、アルディオスは孤独な戦いを続けてきた。
そう考えるだけで、フェリミアは胸の奥がカッと熱くなるのを感じた。
羞恥と憤りに窒息してしまいそうだ。アルディオスの背負った十字架を知らず、自分はこれまで何をしてきた。
あまつさえ身勝手な喜びに舞い上がってしまいながら、こんな場所まで来てしまったのだ。
なんという愚鈍さ。恥知らずにも程がある。フェリミアは自分自身をその怒りで焼いてしまいたかった。
「………フェリ?」
「っ、あ、ライア?」
気付くと、銀色の少女が目の前にまで来ていた。
フェリミアが女性としてはかなりの長身であることを差し引いても、ライアはとても小柄だ。
正面から並ぶと、自然とライアの方がフェリミアを見上げる形となる。
「…………」
「…………」
再び無言。ライアはフェリミアをじっと見つめながら、ゆっくりとその手を伸ばす。
恐る恐るという形容がこれほど相応しい動作もない。少女は何かを恐れながら、慎重に腕を上げる。
理由はよく分からないが、ライアの真剣さが伝わるためフェリミアの方も少し緊張してしまう。
細い指が近づく。フェリミアの頬にそっと触れて、軽く肌の上をなぞった。
二度、三度と。変わらずライアは慎重にフェリミアの頬を撫でている。
なんだろう、これは。何かの儀式でも受けているのだろうか。
謎の緊張感が一周回って可笑しくなってきてしまい、フェリミアは思わず吹き出しそうになった。
「! 笑った?」
そんなフェリミアの様子に気付いて、ライアが明るい声を上げた。
「えっ?」
「笑った、フェリ。良かった。難しい顔、してたから」
「…………」
難しい顔。確かに、少女の境遇を思い悩む余り、その感情が顔に出てしまっていたかもしれない。
ライアはそれを見て、どうにかそれを引っ込められないかと考えてくれたらしい。
心優しい娘だ。自分も重いものを背負っているだろうに、それをおくびにも出さず他者を労わることが出来る。
他を気遣う余裕もなく、ただ自分の道だけを走ってきたフェリミアには、その優しさがひどく眩しい。
頬に触れるライアの手に、そっと指を重ねる。子供特有の体温の高さ故か、触れた指先が少しだけ熱い。
驚く少女に向けて、フェリミアは優しく微笑んだ。
「ありがとう、ライア」
「? お礼、どうして?」
「さて、どうしてだろうな」
フェリミアがからかうように笑うと、ライアは不思議そうに首を傾げる。
「君は良い子だな、ライア。少しだけ肩の荷が軽くなった気がするよ」
明るく、人として当たり前な優しさに満ちた少女の心に、アルディオスもまた救われているに違いない。
彼は決して孤独ではなかった。それが分かっただけでも十分に意味のある訪問となった。
一人納得して笑うフェリミア。やはり良く分からないと、ライアはますます首を傾げるが………。
「!」
何かに気付き、その瞳を大きく輝かせた。
それに対してフェリミアが反応するよりも早く、ライアは大きな声でその名を呼ぶ。
「アル! おかえりなさい!」
「っ………!」
アル。その名が示す相手は一人しかいない。
嬉しそうに手を振るライアの視線を辿るように、フェリミアは後ろを振り向いた。
果たしてそこには、あの日見送った懐かしい面影が佇んでいた。
「………フェリミア?」
信じられない、と言った様子で男は女の名前を呼ぶ。
無理もない。フェリミア自身もそう思う。
離れた彼と、それを引き止められなかった自分。
偶然でも再び言葉を交わす機会が得られるなど、少しも考えていなかったのだから。
見る。あの頃よりも遥かに大きくなってしまった男の姿を。
神の呪いにより異形に歪んでしまっても、変わらない。何も変わっていない。
その事があまりに嬉しくて、フェリミアの瞳から涙が零れた。
「っ………フェリミア」
「お久しぶりです、アルディオス様。突然押し掛けてしまった事、どうかお許し下さい」
「それは、別に………構わない」
頭を下げるフェリミアに、言葉に迷うアルディオス。
自分の感情を持て余し気味なフェリミアは勿論、アルディオスも今の状況にかなり混乱していた。
完全に想定外だった再会。かつて何かと面倒を見た少女が、立派に成長した姿で自分を訪ねに来てくれた。
それだけならば本当に喜ばしい。仮にこの状況でなければ、アルディオスも素直に再会を祝すことが出来たろう。
視線を動かす。向ける先は、様子を見ているライアの方だ。
僅かな時間で目覚しい進歩を見せ、今や意識さえしていれば殆ど力を抑えられるようになった破壊の神。
フェリミアは王国を守る騎士団の長。本来なら絶対にライアの存在を知られてはならない相手だ。
無論、アルディオスとていつまでもライアの事を隠していられるとは考えていない。
この《廃棄都市》で彼女の変化を見ながら、少しずつ環境を整えていく。
段階を踏んだ上で、どこかで信頼できる人間―――例えば、フェリミアなど―――に頼るつもりではあった。
それがご覧の有様とくれば、さしものアルディオスも動揺せざるを得ない。
「(どうする?)」
こんな廃墟が並ぶばかりの街で、見慣れない少女が一人。
一体何をどう言い訳すればフェリミアを納得させられるのか、皆目見当がつかない。
押し黙ってしまったアルディオスの様子を伺うように、そっとフェリミアが顔を上げる。
「アルディオス様………?」
「…………」
「………やはり、その、気分を害してしまいましたか」
「いや」
そんなことは断じてない。アルディオスは短い言葉で強く否定する。
十年もフェリミアと会う機会を避けていたのは、紛れもなく自分の狭量さ故だ。
それだけはアルディオスもはっきりと口にする。
「久方ぶりに顔を見れて、驚いていただけだ」
手を伸ばす。あの頃とは似ても似つかない、異形に歪んでしまった手。
その手で慎重に触れようとする仕草は、奇しくも先ほどのライアによく似ている。
何を恐れているのだろう。何も恐れることなどない。
懐かしい指先の感触を頬に感じて、フェリミアは微笑んだ。
「正直、私も驚いています」
「………お前が来たんだろうに」
「部下にあれこれ嫌味を言われて、つい逃げ込んでしまいました」
笑みと言葉は、水が湧き出るように自然と出てくる。
二人の間に横たわる十年という歳月を埋め合わせるように、ゆっくりと溢れ出す。
「今は、お前が団長だったか」
「はい。アルディオス様のようには行かず、我が身の未熟さを痛感する日々です」
「お前は、お前なりにやれば良い。無理に俺の真似をする必要はない」
「分かっています。………それでも、私の中では今も貴方が目標ですから」
「………そうか」
純粋な憧れに対して、何と答えるのが正しいのか。
アルディオスはただ静かに頷き、フェリミアはそれで十分と微笑む。
二人の間に流れる空気は、その二人にしか分からない。
それを何故か不満に思ったライアは、割って入るようにアルディオスの腰に抱き着いた。
「アル!」
名前を呼び、思い切り引っ付く。
ライア自身も何故だか分からないが、無性にそうしたいのだ。
驚いたのはアルディオス。決して忘れていたわけではないが、ライアに関する上手い言い訳はやはり出てこない。
無言のままフェリミアの方を見ると………。
「大丈夫です、お気になさらず」
自分の中の仮説で完全に納得していた彼女は、分かっているとばかりに優しく微笑んでいた。
アルディオスからすればまったく不可解なリアクションだったが、フェリミアの中では結論が出ているので問題はない。
ただその勘違いに基づいて話を進めていく。
「ライアとは先ほど少し話をしましたが、本当に良い子ですね」
「あぁ」
「………この街で二人、魔物の脅威に晒されながら暮らしていくのは本当に大変だったでしょう」
「いや、それは………」
「正直に言って、我が身を恥じました。貴方の背負ったものを何も知らず、この十年を無為に過ごしてしまった………」
「フェリミア」
「分かっています。アルディオス様はお優しい。こんな愚かな私でも、嫌悪する事もなく気遣ってくださいます」
「…………」
「ですが、その言葉だけで済ませては私自身も納得できません」
フェリミアは一歩踏み込み、強い意志を込めた瞳でアルディオスを見上げた。
そんな彼女の様子を興味深げに眺めながら、ライアは男の肩へとよじ登っていく。
アルディオスは無言。完全にフェリミアのペースに押されてしまっている。
三者三様。いつになく賑やかな《廃棄都市》で、フェリミアは更に言葉を続けた。
「どうか、私に貴方の手伝いをさせてください。アルディオス様」
「………手伝い?」
「はい。この都市に残されたライアや、一人で戦い続けてきた貴方の役に立ちたい。それが、今の私の気持ちです」
「…………」
「決して足手纏いにはなりません。私に出来ることならば何でも致します。だから、どうか………」
傍に置いて欲しい、と。
今まで抑えていた感情の分だけ、フェリミアの言葉は思いを形にしていく。
頻発している《巨獣》発生の原因を探る。そのためにアルディオスに助力を求めに来た。それが当初の目的だ。
忘れているわけではない。それに関しても、フェリミアは後々話をするつもりだ。
ただ今だけは、フェリミア=アーサタイル個人としての言葉が先に出てくる。
「…………」
アルディオスは、やはり無言。彼女がどういう勘違いをしているのかは何となく見えてきた。
見えてきはしたが、そこからどうするのか。肝心なのはその一点。
フェリミアはライアに関して、自分の勘違いを完全に鵜呑みにしてしまっている。
いきなり破壊神の存在が露見するよりはずっと良いが、勘違いはいつ解けるかも分からない代物。
両者の距離が近づけば、それだけ秘密が暴かれる可能性も高くなっていく。
どうする。どうするべきか。不安げに見つめてくるフェリミアに、アルディオスは掛けるべき言葉を探す。
「? フェリも此処に住むの?」
探していたところで、肩にまで来たライアがあっさりと沈黙を引き裂いた。
「す、住む? いや、住むというと少々語弊があるというか………」
「違うの?」
「ちが………いや、近くに寝泊り出来る場所もないし、違わなくもない、のか?」
「じゃあやっぱり、フェリも此処に住むんだ」
「………アルディオス様が、良いと仰られるなら」
そうして、視線が二つほど集中する。
不安と期待が入り混じるフェリミアの視線に、期待と喜びに少しだけ棘を混ぜたライアの視線。
何故か状況の方が勝手に複雑になっている気がする。
特に気になるのはライアだ。状況を楽しんでいるようにも見えるが、何やらフェリミアへの対抗意識のようなものも感じる。
初めて見るアルディオス以外の他人だ。複雑な感情があるのかもしれない。
そんなことをアルディオスは暫し考えて、それから細く吐息を漏らした。
「………好きにしろ」
「えっ?」
「好きにしろ。そう言った」
「………良いんですか?」
「良いも悪いもない」
確認を重ねようとするフェリミアに、アルディオスは答える。
「どうするも、お前の自由だ。俺はそれを認める」
「………ありがとうござます、アルディオス様」
「じゃあ、これから一緒ね! フェリ!」
そう言いながら、ライアはアルディオスの肩から飛び降りた。
そのままぶつかる勢いでフェリミアに対して飛び付き、彼女もそれをしっかりと受け止めた。
「とっ………! いきなり飛び降りたら危ないだろう、ライア」
「このぐらい平気よ」
内心ヒヤヒヤしっぱなしのアルディオスを知ってか知らずか、ライアはまるで猫のようにフェリミアに懐く。
互いに打ち解け合っているのは良い事だ。良い事なのだが、やはり不安も大きい。
じゃれあう女性二人から視線を外し、アルディオスは天を仰いだ。
―――願わくば、このまま穏やかに時間が過ぎて欲しい。
神によって引き裂かれた地で、神を殺した英雄はただそれだけを切に願っていた。
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