第19話:誠実なクズ


「武神の巫女。亜神ヴァジナ先生が考える情の厚い女の見分け方。とても気になるね」


 ヴァジナはソンガンの里においては、尊崇そんすうの対象である。武に限らず、知に関しての諸々も教導される。したがって、ソンガンの民たちにとって、ヴァジナの教えというのは深い意味を持つ。


「お乳がデカい人が情が厚いというらしい。残念だけど、みんなは乳がデカくないから。僕とは結婚できないんだよ」


 まあ、それらの尊敬の眼差しは子どもたちに限っての話である。

 皆が皆、大人になるにつれて「ヴァジナは何かしらの劣等感を抱えている」というのを察し始めると、期待や尊敬が哀れみや慈しみに変わり始めることになる。

 ヴァジナの直弟子。オソガルから素敵な教訓話が聞けるものかと、思っていたら。とんでもない教訓が出てきた。


「お乳のデカさかぁ。うーん。そうかぁ」


 突然の話題の舵取りに、話題を促した姉貴分は困った様子だ。

 彼女は年長者ゆえに、ヴァジナの困ったところを理解し始めているのだ。

 ヴァジナと比べたら、どの女もオソガルの結婚相手には満たないことになる。

 恐ろしい手札だ。

 女の子たちは自分の胸を見下ろし、オソガルを見つめ直す。一人の少女が追求した。


「あたいの母ちゃん。おっぱい大きいよ。あたいも大きくなると思うけど」


 健気である。

 もう辞めたまえ。

 おそらくオソガルは馬鹿である。

 もっと賢い男を捕まえた方がよい。

 だが、オソガルは妙な所で頭が回る。


「たしかに。お乳がデカい人の娘はお乳がデカいだろう。だけど、将来大きくなるかわからない人を紹介した時に、お師匠に認めてもらえないかもしれない。そうなると、君にも辛い思いをさせちゃう。お乳がデカくなったら、教えてね」


 オソガル少年。誠実にクズである。


 弟分のひたむきさに姉貴分たちは苦笑い。妹分は険しい顔つきだ。

 

 その空気を割るように、小屋から出てくるのは当人。

 ヴァジナ師匠、その人だ。


「朝稽古は終わった。出した茶も飲み終えた。となれば、いつまでもここにいると、心配されてしまうぞ。早くお家にお帰り」


 子どもたちの帰宅を促すヴァジナの笑みは、とろける様だ。子どもたちの話に耳をそばだてていたに違いない。


 ヴァジナからの解散命令を前に、かしましい少女たちは、さっと散っていった。


「オソガルは立派だ。わしの教えを十分に理解しておる。乳のデカい娘でないと。結婚は許せないからな。十分に稽古を励め。強い男であれば、いつか乳のデカい娘を射止めることもできるだろう――」


 ヴァジナは自分を年若い娘と、繰り返し、自己主張をしていた。


「――わしは寄合があるからな。出かける。オソガル。留守を頼むぞ。好きに過ごせ。全てが鍛錬だ」


 いつになく、上機嫌なヴァジナの背をオソガルは見送った。

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