第23話:オソガルは早口になる


「そう! お師匠はそのことを言ってた。お師匠の望む男になるためには、強くならねばいけないんだな。そして、強くなるためには大きくなれとお師匠は言う。手っ取り早く大人になるためには、姉さんのように結婚するべきだと思うんだよ。だって、ホルカンは知ってるだろ? あの姉さんが結婚相手を連れてきただけで、里のみんなが大騒ぎだったぞ!? 姉さんはへにゃへにゃになるから、弱くなったと思ってたら、そんなことないんだ。人は家族を持つと強くなるんだよ。そうなれば、僕はお師匠のいう強さを持てるんだよ!」


 オソガルは頑迷だ。でも、何かしらこう。掴んだつもりのものか。あと、ちょっと早口になってる。


「凄いな。オソガル。お前はそんなに長い言葉を喋れるんだな。しかも、なにが凄いって。その推論が自信に満ちているが、当たっているようにも見えないうえに、それを諭す手立てがない気がするのも困りどころだ」


 ホルカンが何を嘆いているのかオソガルにはわからない。むしろ、感心されたと思っているくらいだ。


「なにか違うの?」


「間違ってるともいえない。お前には恩があるからな。無下にするのも悪い」


「僕なにかしたっけ?」


「宴会の飯を持ってきてくれたこと。あと、ヴァジナ師匠の詰問きつもんに俺の名前を出さなかった」


 今朝のやり取りのことだ。オソガルが膝で食べることをからかわれた話だ。オソガルは、ホルカンにそれをからかわれたので、宴会の最中はヴァジナのそばにはよらなかったのだ。


「なにか言わない方がいい気がしたんだ。出してたら、どうなってた?」


 あれはオソガルの英断である。


「ヴァジナにしばかれたろう。オソガルに余計なこと言うなってね。オソガル。お前はヴァジナのお気に入りだぞ。お前ほど目をかけられているものはいない。助言だ。お前が多少のわがままを通しても、ヴァジナはお前を許すよ。だって、ヴァジナは『里で一番に乳がデカく、情が厚い女である』のだからな。考えてもみろ。お前の姉さんだって、無事に婿を連れて帰ったらどんちゃん騒ぎができただろ? なんのかんのヴァジナはお前を許すんだ」


「でも、どうしたらいいの?」


「そりゃ、おまえ。乳のデカい女を探しに行け。お前ならば見つけられる。だって、お前はヴァジナの直弟子。お前の覇気を示せば、山の動物たちは逃げ出す。お前の名前を忘れるな。オソガル熊が恐れる――」


 ホルカンはオソガルを見下ろして、名前を繰り返す。そして、最も大事な質問を最後に飛ばした。


「――お前、倉庫の中でいつも誰と話してるんだ?」

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