第22話:ホルカンの導き

 オソガルはこの大人、ホルカンを余り参考にするべきではない。とは思う。

 思うのだが、この超然とした態度に妙な魅力を感じて、彼と話すことが度々あった。

 

 彼はいつも大人の集会には参加していない。

 昨日の結婚式でもここに宴会の食事が届けられているだけだった。

 ちなみにその料理を届けたのもオソガルではある。

 それはひとえに、ホルカンの担う役目が重要であることなのだが。オソガルにはそれが思い至らない。


ときにオソガル。お前が今朝から、ほうぼうで大人になりたいとか。結婚したいとか。放言して回るのを聞いていたよ。大人になる方法は見つかったか?」


 目と耳の働きによって、門番を務めるホルカンは里の人々の噂話に耳が届く。今朝のオソガル達の話題もホルカンには筒抜けなのだ。


「わからん。師匠は鍛錬を続けて強くなれとしか言わない。大人扱いをされるために結婚相手を探すために旅に出ようとしたら、許可されなかった。じゃあ、手近で結婚相手を探そうと思えば乳のデカい女はいなかった。どうしたらよいかわからん」


 ホルカンは知っているはずだが。それでも、オソガルが説明をする。オソガルに説明をさせることが大事なのだ。彼は問題をどのように把握しているのか。それを見極めるために醜男のホルカンはオソガルに質問をすることが多々ある。


「お前が尊敬できない大人の男に訊いても仕方なかろう。だけど、なにかの助言を期待しているようだ。お前も知っての通り。俺もヴァジナの弟子だ。子どもの頃から彼女の指導を受けた。この里で彼女の指導を受けていない者を探す方が難しい。連れてこられた婿殿。オソガルのお義兄さんのように外からやってきた者かな。そういう者たちも、やがて子ができたらヴァジナが鍛錬を施すだろう。やがてはそれも縁ができるだろうから。無縁のものはいない。彼女は強い男を、強い女を望んでいる。オソガル、お前は強い男になることを望まれている。俺の知る限りだが。ヴァジナと同居してまで、武を叩き込まれた人を知らない。長い歴史の中でいたかもしれないが。遡れるものはいないほどだ」


「ちょっと、はなしが長すぎて……僕には良くわからん」


 ホルカンの顔は更に歪んだ。一つため息をついて補足した。


「ヴァジナは強い男が好きってことだ」


 ここまで砕かれると。オソガルにも得心がいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る