第3話:オソガル少年、決意する
影が少年に声を掛ける。それは非常に楽しげで、悩ましげな声だ。
「なんだオソガル。失敗したのか!? お前が弱いのか。姉が強いのか。しかし、姉に勝てぬともなれば見込み違いであったか」
閉じ込められた蔵の天井はむきだしだ。
支柱から飛び出す分厚い
影は梁の上にあって、オソガルを見下ろしていた。オソガルの視力でもっても、その輪郭を捉えることは難しい。しかし、彼にとってその声は恐れるものではなかった。
「見込み違いもなにも、姉さんに勝てる気がしない! 男の前でヘニャヘニャしてる姉さんならしばけると思ったのに、かすりもしない」
「そりゃ、お前。姉さん覚悟! だなんて、名乗り上げちゃ気づかれるだろうさ。だけど、みんなの気持ちがそれた瞬間に襲撃をするのは良かったと思うぞ! 考えなしではなくなった。このまま、強くなれるように励めよ」
そう言って、影は
蔵の中に、鳥が羽ばたけるような空間も、隙間もない。というのに、あんな音がすることをオソガルは不思議に思うこともなくなっている。昔からそうなのだ。ここに放り込まれる度に、声をかけてくる影だ。皆に訊いても「知らぬ」と言われるから、オソガルも気にしなくなってしまった。
※※※
ここでオソガルの話をしよう。
オソガルも大概迷惑な存在ではある。新郎新婦の祝の席にて、丸椅子を持ち花嫁を襲撃する。山賊もかくやというおこないであるが、もとを正せば、花嫁の方が山賊まがいなのだ。
春も終えようかという時期で。夏を迎える前のこと。
姉が「婿を探してくる」と山をおりたのが
それが先日、ひょっこりと姉が帰ってきた。「満足する婿を見つけた」とご満悦。横に従う男は青い顔をしている。しかし、なりは見事なもので。俗に言う
常人の生活では身につかない肉のつき方。いわゆる筋肉ダルマである。
「これからこの人がお前の義兄さんだよ」
と紹介されたのが三日前。
里一番の問題児が、婿を連れて帰ってきた。破談にさせちゃならない。と大人たちがお膳立てしたのが今日の祝宴。
あまりにもな状況の変化にオソガルが妙な考えを起こすのも仕方ない。
人々の浮かれ騒ぐ声を遠くに、オソガルは妙な決意をする。
「僕も姉さんのように結婚してみよう。そうしたら、里の大人達の仲間入りに違いない」
安直である。こういうところがこいつはまだ子どもなのだ。
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