第2話:オソガルの襲撃
祝いの席というと、多くの大人も子どもも浮かれる。
飲めや歌えやの宴会騒ぎ。酒が入れば揉め事の一つや二つ。新郎新婦から離れた所で、乱闘騒ぎは余興の一つ。
周囲の人々の視線が、乱闘に向かった時のこと。
オソガル少年は姉の気がそれる瞬間を見逃さなかった。
彼は手にした木製の丸椅子を片手に、姉の背後から急襲を仕掛ける。
「姉さん! 覚悟!」
オソガルは仕掛ける。しかし、それは姉を打つことはなかった。
真っ赤な花嫁衣装に身を包んだ姉がそこにはいなかったのだ。
となれば。
オソガルの振り下ろす椅子と、姉の座る椅子がぶつかり、鈍い音を鳴らす。
それは人々の喧騒をかき消すほどのものではない。周囲の誰もが、オソガルに注目をしていない。
確かな手応えを得られず、襲撃に失敗したと気付いた時には遅い。
オソガルの視点は地が天に、天が地となる感覚を覚えた。姉に掴まれ、投げ飛ばされた。投げ飛ばされただけなら、まだしも、放物線を描くオソガルに槍のように丸椅子が飛んでくる。
オソガルは宙にあるなかで、それを避けることもできず。衝撃を逃すことも、受け身も取れない。丸椅子ともつれる形で宴会場の隅に転がった。
その間、数瞬。人々の視線を奪う宴会場の乱闘騒ぎは終わってもいない。あっという間の出来事だった。
転がったオソガルを姉が踏みつける。今まさに、新婦として幸せの絶頂にあるとは思えない冷たい笑顔。
オソガルの肺に残った空気も絞り出す勢いだ。
「三ヶ月も見ないと、姉の顔も忘れたの? あんなに可愛がってあげたのに。私って不憫だわ。これは折檻が必要だけど。今日の私は主役だからね、かまって上げられないの。お子様のあんたは蔵で反省でもしときなさいな」
ソンガンの広間に隣接する倉庫に弟を叩き込んだら、姉はなんてことない顔をして、広間に戻っていった。
灯りの一つもない蔵は締め切られると、途端に暗くなる。
ソンガンの子どもは何かやらかすと、大体はここに放り込まれる。ここの住民であれば、蔵のつっかえ棒など力技でどうにかなるのだが、出たら出たで厄介なので、大人しく過ごすことになるのだ。
「あんな乱暴者の姉さんでも結婚ができるのだ。あの技の冴え、姉さんは弱くなったわけではない」
オソガルは腕を組み、暗闇のなかでじっと過ごした。土壁一枚の向こうでは、宴会がまだ続いていた。オソガルは不満が募っていった。
それを眺める影がある。
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