第9話:ヴァジナの愛の巣


 新婚夫婦には新居が必要だ。しかし、そう簡単に用意できるものでもない。


 それはソンガンという里が、非常に特殊な集落であることが原因だ。


 峻険しゅんけんな岩山に居を構え、人々を寄せ付けないことを目的とした立地。


 家を建てようにも大きなものはちと工面が難しい。


 自然と小ぶりな小屋となるのが常だ。


 新しい家族の為に一棟、用意するのもあれこれと考える必要があったりする。


 ソンガンには折悪おりあしく、新婚夫婦が住まうための空き家はなかった。


 独居のおきなおうなはいるが、くたばるのを待つわけにもいかないし、その者たちはまだまだ健在といった様子。


 となれば、以前まで住んでいた里親の元で過ごすのが、道理であるが。それをヴァジナが強く拒否した。


「新婚夫婦は二人で暮らすものだ。わしたちが邪魔してもならん。急いで小屋を作らせる。婿殿には多少窮屈だろうが。我慢してもらえ」


 と言いくるめて、小屋を3日で建てさせた。

 小屋が建つまでの間は、簡素な天幕で過ごさせた。夫婦は今まで旅が当たり前であったのだから、さしたる苦労もなかった。


 それと並行して、宴会の準備までさせたというのだから、なかなかのこと。


 宴会を終えて、新郎新婦は初夜としけこむだろう。そもそも、あの二人が、そんな貞操のしきたりを守っているのかも怪しい。怪しいが、それは些末なことだ。ヴァジナにとって大事なのは、オソガルと二人きりということだった。


 ヴァジナは当たり前のようにこぶりな小屋に住んでいる。


 ヴァジナは里に住んで長いが、独り身である。多くの者たちが、ヴァジナに熱烈な求婚を重ねてきた。男も女もである。


「わしに勝てる者なら、いくらでも捧げよう」


 と放言ほうげんして、はばからないのがヴァジナである。女の挑戦者もいた。


 ヴァジナがオソガルにご執心しゅうしんしていることから、お察しいただけるだろう。誰もヴァジナに勝てなかった。勝てなかったとなれば、彼女はずっと独り身である。彼女がソンガンの里において重要な人物であったとしても、土地は増えない。

 

 小屋は一人用である。

 

 オソガルたちを引き取った時に、もっと大きな家に越してはいかがか? と勧める意見もあった。


 しかし、ヴァジナはこれまたやましい人間である。男を落とすのであれば、狭い小屋のほうが都合が良い。ということで、そのままとした。

 

 ここはヴァジナの孤独の巣であったが、オソガルが来てからは愛の巣と変じた。オソガルの姉はおまけである。

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