第7話:ヴァジナの甘やかし


「オソガル! こんな暗いところに放り込まれて怖かったろう! もう心配することはないぞ。さあ、わしの胸に飛び込め!」


 西日を背にしたヴァジナ。

 オソガルからは影絵シルエットしかわからない。

 しかし、その喜色満面といったはずむ声は紛れもなくヴァジナである。彼の里親であり、戦場武術の師匠のそれである。

 

 オソガルの反応が鈍い。更にはヴァジナの望む反応でもない。オソガルが蔵に閉じ込められていると聞いたヴァジナ。彼女はオソガルがちょっと心細くなったであろう時間に迎えにきたのに。

 

 思わしくない。オソガルは心ここにあらずといった様子で。腕を組んで、なにか思案気しあんげである。心細くて、瞳が揺れてるというものではない。唇を少し尖らせている。まるで接吻をせまっているかのように、錯覚するのはヴァジナの気性がなせるものだった。


 オソガルが飛び込んでくれないと困る。困るのだから、ヴァジナの方から飛び込んだ。

 

 それは弓から飛び出す矢のように、オソガルに一直線。しかし、かけくらべ(かけっこ)ののように、張り出した西瓜のような胸がオソガルに飛びかかる。

 こと、ここに至って、オソガルは気づいた。


「ヴァジナ師匠。どうされました?」


 オソガルは矢のようなヴァジナをどっしりと受け止めた。踏みしめたかかとはいくらか、後ずさる。細首一つでヴァジナの乳を含めた、突進を受け止める。


 オソガルは自信が追いつかないだけで、十分に強者の部類である。


 ヴァジナの問いにオソガルが応じる。それは胸に埋もれたオソガルの声はくぐもる。

 はたから見ていれば、乳と乳に挟まれるオソガル。

 彼の頭はもう一つの乳と見えてしまうほどのサイズ感だ。


「お前があの蛮族花嫁に、戦いを挑み、負けたというから心配になってやってきたのだ! すまんかったの。一緒にいてやればよかった。だけど、もう心配はないぞ! わしがそばにおるからな! ああ、あの蛮族。男ができたとなれば調子に乗りおって、わしへの恩を仇で返すとは!? 怖かっただろう? わしの胸で泣くのだ!」


 ヴァジナにとって、オソガルの姉は目の上のたんこぶであった。

 彼女もまた弟を気にかけている親族の一人。

 同じ女として、里親のヴァジナのやましい願いを敏感に察していたのだろう。姉の目があるうちは、ヴァジナも理性を保たんと、襟を正して生活していた。

 

 いつか姉も独り立ちして、二人になる。ヴァジナはそれを待っていた。やしい女である。

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