第18話:結婚相手の選び方


 オソガルはソンガンの里において、希少な若い男性である。彼の嗜好しこうを測ることは話題の種になる。さらには、女の子たちは、弟分や兄貴分のオソガルからそんな話を聞いたことがないのだ。


 この話題の本質はそこである。色恋に興味ありありな女の子たちが、コミュニティの若い男性の意向が示される。

 

 みんな興味ないフリをしながらも、オソガルの回答を心待ちにしている。それがどんな回答であれ、ここでの話題は沸騰することになるだろう。箸が転がっても大笑いする年頃なのだ。


「僕の保護者はヴァジナ師匠だ。基本的に結婚相手は師匠のご意向で決まるものだ」


 それはもっともな話である。オソガルの姉の振る舞いや、現状置かれている環境は少々特殊ではある。基本的には親同士の話し合いや、親から見た子どもたちの相性等も深く考慮するものだったりする。ここで、どうこう申し上げても。さほど影響のあるものではない。オソガルはそう捉えていた。


 オソガルのつまらない回答に噛みつく姉貴分。


「んなこと言ったって、当人同士が嫌ってはねのけたら、爸爸パパ妈妈ママも無理には結婚させられないのよ。なんのかんの爸爸パパ妈妈ママも、認めるのよ。結婚相手くらい選びたいじゃない。あんたが選ぶとしたらってだけよ。大した意味はないわ」


 姉貴分はどうしても答えさせたいようだ。女の子たちもわかっている。オソガルは難しい話しを嫌う性質たちだ。だけど、もっともらしいことを付け加えたら答えを引き出すのは容易なのだ。

 ちなみに注意を付すならば。大した意味がないはずがない。ここで、誰かの名を上げようものならば集落の中で、めいに、あんに婚約者を指定しかねない。聞き取った女の子たちは「これは内緒だけど」といった具合に広まるのは時間の問題だ。


「情の厚い人を娶れと言われている」


「ほうほう。それはもっともだね。ちなみにあたしは情に厚いよ!」「わたしも!」「あたいも!」


 女の子たちが、話題のノリか。真面目な売り込みか。己の情の厚さを滔々とうとうと述べてくれる。それらの話題を、オソガルは圧倒されつつ、頑張ってさえぎった。


「でもでも。この情の厚さの判断は難しいんだ。僕にはまだよくわかっていない。だけど、お師匠様は一つの指標を示してくれた」


 オソガル。やめろ。それは言ってはいけない。それを言うと、揉めるぞ。いや、字が違うか。いや、あってるか。


 少女たちは生唾を飲み込み、続きをまった。

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