第12話:オソガルの求婚


 ヴァジナの膝はオソガルの居場所。

 膝の上に座れば、ヴァジナの乳が背もたれとなる。

 うらやましい。オソガルその場所替われ。

 用意した朝餉は、大皿や深皿でどっかりと机の上に置かれている。

 容量だけで見るならば、オソガルの体に収まるはずもない分量ではある。

 これが収まるものかと。人々は疑問に思うのだが。これが収まるのだから不思議である。


「ほら、食べてるか? 手がすすんでおらんぞ」


 オソガルがつくった料理をあっという間に取り込んでいくヴァジナ。

 オソガルも負けじと食らいつく。体を作る食事が、一つの稽古。

 生活全てが修行。オソガルの問いも、それへの応答も。

 オソガルが強くなるための踏み台である。

 彼の中に芽生えた疑問について、ヴァジナは適宜、道を示す。

 オソガルにとってヴァジナは尊崇の対象である。


 師匠の教えが間違っているはずがない。


 食がすすんでいない。と言われたなら、オソガルは猛然と食事をかきこむ。目前の皿を空にしたと思えば、ヴァジナはオソガルの小さなお口に、ぽんぽん放り込むのだ。オソガルが咀嚼して、飲み込めばまた放り込む。甘々に甘やかされている。


 ヴァジナの動きの隙間を縫って、オソガルは言う。


「お師匠! 僕が強くなるための方法を思いつきました」


「そう言えば、昨日はそんなこと言ってたなぁ。聞こう。話してご覧」


 オソガルの申し出を、ヴァジナは嬉しそうに受け取る。


「姉さんは強いです」


「まあ、それは否定しない。お前に武の才があるように、あいつにもそれはある」


 ソンガンの里に住まう人々の中で、武の才に秀でているものはオソガルの姉であることは多くのものが認める事実だ。ヴァジナに迫るのは彼女ではないか。と噂されたほど。

 しかし、その女は男を求めて下山した。


「姉さんの強さは、衰えていません。伴侶を得て、なお精強でした。これで僕は気付いたんです。大人扱い・・・・されると人は強くなるんじゃないかと、もごゔぉ――」


 オソガルは真剣である。

 しかし、ヴァジナは弟子が何をいい出したのか。汲み取るのに時間がかかった。

 さらには反応に困ったので、オソガルの口に料理を運んでしばらく黙らせた。

 

「――お師匠! 僕も強くなるために結婚がしたいんです!」


 弟子からの突然の求婚。ヴァジナが望んでいた展開である。ヴァジナ大歓喜。しかし、師匠としての威厳を保つのに必死。


 異常な発汗。熟れた柿のような顔をしたヴァジナは、オソガルが上を向かないように、オソガルの首を乳で固定した。

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