第16話:こども達の朝稽古と集会


 オソガルの「結婚したら強くなる」という思いつきについては、なんやかんや言いくるめられた。オソガルは煙に巻かれたという自覚があった。

 いつものお師匠ならば、オソガルが納得できるような言葉や道理を示してくれるものだが。

 今回ばかりはそうではなかったからだ。

 

 朝餉あさげの後は、オソガルを含めてソンガンの里の子どもたちを交えた朝稽古が始まる。各々の家の子どもたちが、わらわらと集まり出す。

 体のできていない子は基礎的な稽古を。

 体ができてきた者たちは「武器に合わせて体をならす」ように、各々の技術を確かなものにする。

 ゆくゆくは一通りの事ができるように、子どもたちは稽古を重ねる。しかし、一日中それに徹するわけにもいかない。軽く汗を流し、身を清めたら稽古はすぐに解散となる。

 

 大事なことは「朝の稽古に顔を出せる」ことである。これは子どもたちにとっての小さな集会のようなものでもある。


 稽古が終わった子どもたちは、すぐに家路につくというわけでもなく。ヴァジナの小屋の前にたむろするのが習慣だった。

 

 今朝も例外ではない。


 しかし、その面子めんつは偏りがある。いるのは姉貴分か妹分とされるもの達ばかり。

 どういうわけか、オソガルの近しい年代には男が全くいない。

 こればっかりは、男女の産み分けとかしたわけでもないのに、この偏りである。 

 実はこの男女比の偏りについても、オソガルが生誕時にもてはやされた原因の一つでもあった。ソンガンの里で長らく誕生していなかった男児であること。これは、里全体に伝わる吉報でもあった。


 かしましい集まりの中に、オソガルがいる。オソガルは口々に姉貴分や妹分たちから「先日の結婚式」について、多くの祝福を受けた。


「お姉さんの結婚式は見事なものだった! 同じ里のものとして誇らしい!」

「あたしたちも素敵な旦那様を見つけ、射止められる様に武の鍛錬に励まないと!」


 年代の近い、オソガルの姉の結婚式に心が沸き立っているのか。

 一晩たったとしても、女子たちの興奮は冷めていないようだ。


 オソガルはその集まりの中で、眉を寄せて、じっとりと話を聞いている。


(やはり、女の子たちも結婚をすることは強い興味を持っているようだ。彼女たちも結婚によって強くなると確信しているのだ)


 オソガルはやはり、馬鹿である。結論が先にあって、間にかかる理論がすっぽ抜けてしまうのだ。

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