第20話:見習いのオソガル


 オソガルは師匠に「留守を頼む」と言われてはいるが。

 それは慣用句のようなもので、小屋にいなくてはならないというものではない。


「今日は誰の手伝いをしようか」


 ソンガンの里において子どもたちというのは、小さな大人のような扱いだ。

 ヴァジナによる武芸の鍛錬。広間においての読み書きの訓練。

 この二つを終えたら、それぞれの親元の職能の訓練にあてられる。


 常になにかしらのことをしている。それは子どもたちが大人になる準備をしているようなもの。


 両親を無くしたオソガルにとって、親から受け継ぐ職能はない。


 別に何になったとしても、指をさされることはない。これも経験と、オソガルは仕事を選ばず大人たちにお願いして、あれこれ仕事の手伝いをしているのが、習慣だった。

 

 つるはしを振るう鉱夫の手伝いをしようと思えば、今日は誰も現場に出ていなかった。


 急峻な棚田や岩場で育つ農場を手伝おうと思えば、ここにも大人はいなかった。

 そこには留守番を預かる妹分。オソガルが顔を出したことに顔を輝かせている。


「あたいに、求婚にきたの?」


 胸が薄い妹分が、オソガルを冷やかしてくれる。今朝の話題がまだ楽しいのだろうか。


「まだ、君は胸が薄いから。ごめんね。おばさんいる?」


「乳のデカい母ちゃんは寄合よりあいに行ったからいないわ」


「おばさんもか。君も行けばよかったのに」


「いや。大人の話し合いには混ぜてもらえないし、子守させられるし、ここにいたほうがまだいいもん。オソガルも今日はここにいようよ」


「僕も子守はごめんだよ。またね」


 ※※※


 オソガルは酪農をする家に向かうが。そこでも、子どもしかいない。

 狩人の小屋もそうだ。皮をなめしている姉貴分だけだった。


「今日はどこもこんなんだよ。大人達が寄合に行ってる。全員行ってんじゃないかな」


「なんで、ねえさんは行かないのさ?」


「子守は嫌だよ。誰かが任されてるだろうさ。あんたも行けば手伝わされるだろうさ。あたしの手伝いしてく?」


「僕の子守をさせるのは忍びないよ。またね」


 この調子であれば、大人は全員寄合に集まっているだろう。他に大人はいないのか。そう考えた。考えて、思い当たる人物がいた。

 オソガルが向かうは里の出入り口。岩山をつなぐ、橋を守る大人がいる。


「おう、オソガル! なんだ。お前は寄合に行かないのか?」


「僕は子ども扱いだから、呼ばれてないんだよ。おじさんもここにいるってことは大人扱いされてないんだ」


 この大人こそが「女の膝の上で飯を食べるのは男らしい行いではない」と指摘した人物であるのだ。

 意趣返しをしたつもりのオソガルは満足気まんぞくげだ。

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