第7話
幽霊部員2
中田さんと渡辺さんと別れた後、帰り道で光君に私は
「私の苗字が川上だから担任からのターゲットにされた」という灯君の話をした。
「川上? って水泳部のコーチの名前?」
「担任が川上と言う名前の人と不倫してて、煮え切らない態度でいるから、私のことが憎くてしょうがなくなったって」
「はあ? 完全に逆恨みじゃ…」
「うん。…そうなんだけど」
「コーチと顧問が出来てるなんて…」と光君はため息を吐いた。
「…白い光について、何か分かるの?」
「ううん。分からない。でも入った瞬間、何かいるって思った。見えないけど…確実に。こっちを見てる何かがいるって。写真共有してもらったから、灯に見てもらうよ」
私は何だか疲れたので、そのまま帰ろうとしたら、光君が家まで送ってくれると言う。
「え? 疲れてない?」
「俺は平気」と言うから、一緒に家まで帰る。
家について、インターフォンを鳴らすとママが「光君いるの? 上がってって。灯君は…帰りが遅いのよね」と言う。
光君は少し寄って行くと言う。エレベーターの中で光君がぽつんと言った。
「幽霊なんか見えない方がいいんだけど、見えなくなると…ちょっと怖い」
「え?」
「パパの気持ちが分かる」
「そうなの?」
「見えたら、普通なんだけどね。いないのに気配だけ感じるのってちょっと怖い」
「もしかして…だから一緒に家まで送ってくれたの?」
「うん。ちょっと一人でマンションに戻るの嫌で」と言うから、私は光君が可愛く思える。
「じゃあ、帰りは私が送っていくね」
「いいよ」と唇を尖らせて言う。
「ママが付いて来てくれるから」
「あー、じゃあ」
なんて言うから、ますます可愛いと思ってしまった。
ママが扉を開けて、今か今かと待ち構えている。
「おかえりコトちゃん。光君」と、満面の笑顔だ。
それで何だかさっきの怖いことが消えた気がする。
ママのお手製のプリンを食べながら、二人で宿題をした。そして結局、灯君が帰ってくる時間まで家にいて、ママと二人で送っていくことにした。
丁度、マンションの下で灯君の姿が見える。
「おーい」と光君が手を振ると、少し微笑む。
何だかんだと仲がいい二人だ。
「コトちゃん…聖ちゃん、こんばんは」と灯君が挨拶をする。
「こんばんは」と私とママが挨拶する。
ママは灯君が食べれなかったプリンを渡してくれた。
「食後に食べて。十子さんたちの分もあるから」とタッパーを渡す。
「コトちゃん…」と言いながら、灯君はパチンと指を弾く。
それを見ると光君が顔を引き攣らせた。
「何かついてる?」と私は聞いてみた。
「うーん。でも大したことするやつじゃないから。光、ちょっとみんなで上で話そう」と灯君が言うから、みんなで上にあがった。
プリンをほおばりながら灯君は光君が共有してもらった写真を見ている。
「この白いのは雑魚で、それを呼んでる霊がいる」
「誰?」と光君は聞いた。
「男の人。若い。上半身のがっちりした短髪の…スイミングウェア着てる」
「水泳部員? 部室だし…」と光君は呟いた。
「何か訴えてるの?」と私は聞く。
「何も言わない。でもすごく怒ってる」
「怒ってる? どうして?」と光君は首を傾げる。
「わかんないよ。でも…今はその程度だけど…怪我する人も多くなりそうだね」
「それは…大変」と私は言いながら、水泳部のコーチが川上という名前だと、灯君に伝えた。
「なるほどね。部活で知り合って、不倫したんだな」
じっと灯君はスマホの画面を眺める。
「どうやらこの川上コーチが気に入らないみたいだよ」
「幽霊が?」と光君は言った。
「水泳部員で亡くなった人がいるか調べてみたらわかるかも」
そんな話をしていると、足元にトラちゃんが寄ってきた。灯君の膝の上に乗ると、スマホの画面を覗き込む。そしてなぜか私の方を向いてにゃんと鳴いた。
その日、不思議な夢を見た。私は青い青いプールの底を眺めている。光と水面の影が底に映っている。突然、視界に人魚のような影が通り過ぎた。水面に顔を上げると、まぶしい笑顔の女性がいた。
「ねえねえ。競争しない?」と、彼女はそう言う。
「僕は潜るのが得意だけど、早く泳ぐのは苦手なのに」とと私は言っていた。
「だから一緒に泳ぐのよ。きっと高坂くんも速く泳げるようになるわ」
眩しい日差しと彼女の笑顔。ずっと見ていたかった。
彼女を追いかけて、タイムは少しずつ短くなっていった。
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