第16話「初めての国」

 湖を出てから苦節二か月、俺たちは遂に目的地まで来れたのだが――


「何が起きた!?」

「多分…攻撃された?」


 街の様子を除いていたら何かが飛んできた。


「リーアは大丈夫?」

「私は問題ない。破片が飛んできたがペンダントが守ってくれたようだ」


 リーアは胸の上にあるペンダントを握って周りを見渡している。ちゃんと機能しているみたいだ。


「それよりもお前だ。直撃していたように見えたが…いや、心配するだけ無駄か」


 俺の答えは待たずに一人で解決したみたいだ。ちょっとは心配してくれてもいいものを…。

 防御力の方面に関しては常時数値を高く設定している。多分俺自身が殴っても傷ひとつつかない。


「どうしたもんかなあ。こっちとしては敵意はないんだけど…」

「なぜ攻撃されたかはわからんのか?」

「それ言ったらネタバレになるぞ?」


 リーアの右足が俺の左太ももにクリーンヒットした。痛くはないけど。


「覗いてたら目が合ってさ。たぶんあの街のお偉いさんじゃないかな」

「長…という事か?あれだけ大きなマチを束ねているのだ。それ相応の力はあると思うが…」


 にしてもだ。さっきの攻撃は俺とリーア以外なら体がバラバラになっていてもおかしくない。

 このまま街に入って歓迎されなかったらどうしようか…。


「まあいい、とりあえず向かうぞ。お前がいるなら死にはしない」


 なんとまあ強気なお嬢様なんでしょう。

 頼られるのは悪くないけどもう少し危機感持った方がいいな。あとで言い聞かせておこう。


「その攻撃してきた人物のステータスは見たのか?」

「いや、見る前に攻撃されたからな。もう一度見るってのは相手を刺激しそうで怖い」

「それが賢明だろう」


 街についたら即お縄――なんてことはないだろう。あっても呼び出しをくらうくらいだ…多分。

 ここから町まで後一キロちょっと。気を引き締めていこう。

 …お嬢様はのんきに鼻歌歌ってるけど。


「近づけば近づくほど大きいなこの建物は。迷宮と同じ感覚だ」


 街の周りには五メートルほどの壁が侵入を拒んでいる。モンスター対策だろう。

 今でも増築されているみたいでところどころ高さが大きく違う。


「こういうのはどこかに衛兵が立っててそこから入れるんだけど…」

「こちら側ではないようだな。人っ子一人見えない」


 俺ならリーアを担いで飛び越えられるんだけど、ここまで厳重だと不法侵入だとか言ってとっ捕まえられそうだな。


「右か左どっち行く?」

「うーむ…左だ」

「じゃあ右だな」


 リーアは不服そうだけど、こういう時は反対の方へ行った方がいい。この旅の中で学んだ。リーアは結構方向音痴だ。


「さてどれだけ歩いたら見つかるか」

「これなら二人で両側から…いや、ないな」


 右側へ歩き始めて数分、まだ入り口が見えない。


「この街大きすぎないか?街っていうより国だぞ…」

「クニ?」

「人がものすごくたくさんいるってことだよ」

「なるほど」


 完全に適当な返しをしたけど納得したみたいだ。

 まあ、間違ってはいないからいっか。


「そこの二人組!止まれ!」


 その時頭上から男の声が降ってきた。

 槍を持ってる…衛兵か?


「そこで何をしている!」

「旅をしている!ここの入り口を探しているんだ!」


 受け答え完全にリーア任せだ。

 俺はとりあえず周りの索敵。あの兵士の後ろ…六人隠れてる。待ち構えてたみたいだな。やっぱりあの攻撃は警戒されてのものだったらしい。


「ここに入り口はない。今梯子を下ろす、しばし待て」


 門ないんかい。じゃあ右も左も関係ないじゃん。


「どっちが…いや、私からだな」

「頼む」


 先について質問攻めにあったら耐えられない。

 それからすぐ、上から縄梯子が下りてきた。なかなかの耐久性…職人のなせる業だ。なんつって。


「魔術でどうにかなるかもしれないけど一応防御の魔法掛けとくから」

「助かる。では行くぞ」


 五メートル…落ちたら最低でも骨折しそうだ。いつでも受け止められる態勢でいないと。もし衛兵が故意に落としてきたら捻りつぶしてやる。

 そんな心配とは裏腹に何事もなく壁を上がることができた。

 流石にそんなことしないか。いや、備えあれば患いなし。安全が確保できるまでは気を引き締めておこう。


「梯子感謝する。…で?そこの六人はなぜ隠れている」

「な…」


 リーアも気づいていたみたいだ。

 そりゃそうか陰にいるくらいじゃ隠れた内にはいらない。


「失敬。二人組が来たら気をつけよと勅令が出いていたからな。五人以上で対処しろと」


 そりゃ高く見積もられたもんだな。でもあの攻撃無効化したらそうなるか。


「それから見つけ次第連行して来いともな」


 目の前の衛兵そういい放った時、隠れていた衛兵が出てきて武器を構えた。

 みんな同じような槍だ。支給品って感じだな。品質は…あんまり良くない。リーアでも叩き折れそう。


「そう敵意をむき出しにせずとも付いていく。私たちも挨拶しなければならないと思っていたところだ。なあ?」


 とりあえず小さくうなずいておく。

 リーアさんや、いきなり振るのはやめてくれ。…いまニヤッとしたな?確信犯じゃねえか。


「そうか、だがそのままというわけにはいかん。縄をかけさせてもらうぞ」

「それはやめておけ。私の相方が黙っていない。貴様らなど一瞬で消し飛ばされるぞ」


 そんなことしねえよ。……足一本くらいはいいか?リーアの腕に縄巻くんだから当然の報いだろ。


「な…いや、そうか。わかった。だが暴れてくれるなよ?」

「貴様らが何もしないなら私たちも何もしない」


 完全に脅してる…うーん増長してるのかな?これ。でもこの場合は強気で行った方が後々楽になるか?とりあえず黙って任せるか。


「ついてこい。王宮に連れていく」


 最初に声をかけた衛兵を先頭に、俺たち、その後ろに六人と続いて壁の上をジグラットに向かって歩く。

 壁は結構な高さだ。町の方も見渡せる。

 大抵の建物は土で出来ている。それから二階建てはほとんどない。あるとしたら斜面に建てられている家くらいだ。重さとか関係してるんだろう。一階にいて崩れたら確実に生き埋めだもんな。


「その王とやらは何者なんだ?」


 リーアが突然切り出した。沈黙に耐えかねてなのか、それとも単に興味が出てきたのか――…多分後者だな。


「王はこの国を治めているお方だ。強く賢くそれでいて民を思う尊きお方だ」


 ここが豊かそうなのもその王様のおかげか?

 確かにこの緑の少ない大地にしては潤っているしところどころ壁外にはない植物も生えている。畑は見えないけどここから国の全貌は見えない。どこかしらにはあるんだろう。


「ふむふむ。また国か…だがこう見てみると国というものがどういうものかわかってきたぞ」


 そりゃよかった…ってやっぱりあの説明じゃ満足してなかったんだな。当たり前ではあるけどさ…。

 おっと王に謁見する前に衛兵がどれだけ強いか鑑定しておかないと。

 …マルティノスより弱いぞ?ってことはあいつ結構強かったんだな。あれ?そうなったらリーアのステータスはどうなるんだ?

 ただの少女が衛兵より強いって…何か裏ありそうだな。調べとくか。


「うむ、私も興味が出てきたな」

「どうした?」

「こちらの話だ」


 …今俺の心読んだな?

 最近は最低限必要な時しか読まなくなった。やはりプライベートな事を見るのはよくないとリーアは言っていた。と言ってもスケベなことを考えていると目は鋭くなる。そういうとこは聡いんだから。まったく。

 ジグラットに近づいてきたころ壁から降りて道を歩くことになった。内側には階段があるんだな。


「あの足に鎖をしている人間は何だ?」


 リーアが見ている先には重そうな荷物を運ぶ、足に重りのついた鎖を引きづる人がいる。


「ああ、奴隷だ。あれは労働奴隷だな。悪事を働くとああなる」


 奴隷か…でも無理やり連れてこられてってわけじゃないみたいだ。

 罪人なら仕方ないか。懲役みたいなもんだろ。自業自得ってわけだ。


「旅人でもああなるのか?」

「なるな。数人例があると聞く」


 旅人と民の区別はつけずか。俺も気をつけよう。無実の罪だったら全力で逃げるけど。

 進むとそれまで見えていなかった市場が見えてきた。

 森にはなかった果物と野菜、加工した肉とか陶器が売られている。取引は通貨だな。モンスターの素材売れないか交渉してみるか。

 いや…まてよ、あれ――


「文字か。初めて見る」

「ああ、と言っても市場で使われているのは数字だけだ。文字を学べる人間が少なくてな。それより労働しなくては国が回らない」


 識字率低いのか。この時代なら納得できる。

 というか普通に文字あるんだな。マルティノスやつ、こういうところを話してやれよ…。

 だがまあ、リーアの目輝いてるしいいか。


「ふむ…なるほど。数字は大体わかったぞ」


 なんでわかんだよ。

 俺たちが使ってる文字とは全く違うのに…やはり頭の作りが常人とは違うみたいだ。


「それにしても聞けば答えてくれるのだな。得体のしれない旅人の言うことは普通無視するだろう?」

「聞かれたことには答えてやれとそう命令されている。そうでなかったら何も言わん」


 俺も気になってたけどそういう事ね。にしても王様が俺たちの事警戒してるのかしてないかわからなくなってきたな……まあこれから謁見できるみたいだし、そん時わかるだろ。


 それから少し歩き、百段はありそうな階段を上がって王宮の前に到着した。

 入口の前には衛兵よりもいい装備を纏った兵士が侵入者を拒んでいる。まあそこそこか。マルティノスのよりは低品質だ。


「勅令に従い旅人を連れてきました。引継ぎを」

「ご苦労。持ち場に戻れ」

「はっ!」


 衛兵たちは俺たちを受け渡し全員階段を下りて行った。

 次はこのガタイのいいおっさんがお相手してくれるらしい。


「…貴様らなぜ縄をつけていない」


 やっぱり縄のことは聞かれるよなあ。でもまあ話せばつける必要がないってちゃんとわかってくれるだろう。


「縄をつければ暴れると衛兵に言っておいた」


 なんですぐに敵対しようとするんだこの子は…。


「なんだと?…いや、いい。王は寛大なお方だ。ついてこい」


 それでいいのかと思いつつ、兵士に連れられ一際大きな間に到着した。

 兵士は間に入るや否や姿勢を正し叫んだ。


「陛下!件の二人組を連れてまいりました!」

「ご苦労。下がれ」

「は!」


 兵士はさっきの衛兵と同じように俺らを置いて去っていく。

 お疲れさまでした。

 さて、俺たちが連れられてきた間だけど…思っていたものとはかけ離れていた。と言っても頭の中にあったのは西洋風のものだったからであって、別に威厳がないってわけじゃない。

 この時代にしたら豪華絢爛と言ってもいいんじゃないか?なんか通路に水流れてておしゃれだし建物の中に植物生えてるし。正面の玉座の奥には壁がなくて直接町を見渡せる。風通しは完璧だ。

 俺が人を見たのは多分あの後ろのむき出しになった空間だろう。

 そして一つ手間の玉座には俺を攻撃してきたであろう人物が鎮座している。俺たちを連行するように命令した張本人、この国の王様だ。

 だけどその目は俺たちに向けられているのではなく、次々に渡される石板に向けられている。


「しばし待て。今忙しい」


 そりゃ見ればわかるけど…まあ、人を待たせるのも上の特権ってな。ちょっとくらい待つさ。その間にこの部屋眺めてよう。またいつ見れるかわからないしな。


「おい、クリオラ。あいつは何をしているんだ」


 多分仕事だな。王様ってことだから村長の比にならないくらい仕事が多いはずだ。


「しかし、お前を攻撃してきたのはやつだろう?なら少しくらい時間があるんじゃないのか?」


 その少しを休憩に使ったんだと思うぞ…多分。とりあえず今は待とう。

 リーアは納得していない様子だし、今すぐにでもこの王宮を見て回りたいんだろう、そわそわしている。


 その時一人の人物が玉座の方にある通路からこの間に入ってきた。石板を持っている。たぶん仕事持ってきたんだろうな…。まだ残っているのにまた追加か……がんばれ王様。

 っと一瞬目が合った。フードでガードだ。


「貴様ら!王の御前であるぞ!ひれ伏せ!!」


 確かに。

 いや、でも俺たち攻撃されたしなあ。一応敵対している状況だ。別にひれ伏す必要も畏まる必要もない。よな?


「……クリオラ…あいつ私たちに何かしたぞ」

「え?」


 何も感じなかったけど…?

 気になってフードからさっきの人を覗いてみる。何故か身を後ろに向けて驚いた風な様子をしていた。


「な、なっ!」

「ほう…、あとは文官長に回せ。任せると」

「しょ、承知いたしました…」


 なんか王様は感心してる雰囲気だし…何したのそこの人。何かしたのであろう人は持ってきた倍の石板をもって通路の奥に消えていった。王様の仕事量が減ったみたいだ良かった良かった。過労死はよくないからな。

 王様は椅子に座り直し、俺たちの方を向いた。


 茶の短髪。額には金の輪、上半身は裸体に肩からみぞおち近くまで金を基調に宝石がちりばめられた扇形の装飾品を着飾っている。

 歳は四十路前と言ったところか、赤色の濃い瞳が俺たちを捉えて見据えている。



「我はムアンナキ王国国王デュームである」



 威圧感たっぷり…ただじゃ出られそうにないなこの国。

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