第2話「身体能力」

 ステータスを見た次の日、俺は身体について調べることにした。

 健康に関しては問題ない。さすが「丈夫な体」だ。

 食べなくても生きていけるというのはすごく助かる。

 食事はいつも憂鬱だったし一番面倒くさい時間だったから。

 ただ喉は乾く。というか口の中の水分がなくなるから気持ちが悪い。

 飲まなくてもいいんだろうけどさすがに煩わしいから湖の水を飲むことにしている。

 周りが自然しかないせいか湖の水も澄んでいてきれいだ。汚れててもこの体なら平気だろうけど。

 水を飲むところで、息をどれだけ止めても苦しくならないことに気が付いた。

 どういう仕組みなのかは知らないけど、神様に再構築された身体だからということで納得した。神様万歳。

 あと気になったと言えば睡眠は必要ということだ。

 これが病気からくるものなのかはわからないけど、夜にはそれとは違う眠気が来るのでそこは普通の人と変わらないみたいだ。


「便利な体だなあ…そういえば薬飲んでないけど大丈夫かな?」


 俺は毎日結構な量服用していた。急にやめるとよくないと医者には言われているけど…。

 多分再構築された身体がどうにかしてくれるだろう。

 健全な精神は健全な肉体に宿るというし、俺の心も回復していくことを願おう。


「薬以外にも、日光をちゃんと浴びてくれって言われてたっけ。全く守ってなかったけど」


 何とかの成分が何とかだーって医者が言ってた気がする。煩わしくてほとんど聞いてなかったけど…。

 今は何もせずとも顔を合わせるからよくなっていくはずだ。


「にしてもやっぱり自然はいいや。強制的に外に出たけど全くストレスがない。この体のおかげでもあるんだろうけど」


 一日中日向ぼっこしててもいいんだ。

 それに今は不安に思うこともない。

 歳がどうとか考えなくていい。不老不死だし特にやらなければいけないっていう強迫観念もない。


「…父さんとばあちゃん大丈夫かな。向こうの僕の扱いどうなってんだろ。夢だと思わず、神様にちゃんと聞いとけばよかった」


 ダメな俺でも見放さずに面倒を見てくれていた。

 俺が急に消えたとなるとちゃんと悲しんでくれるはずだ。


「もっと親孝行してあげたかったな…今までありがとう。父さん、ばあちゃん」


 今すぐ会いたいって気持ちは湧かない。

 まだここに来て二日ってこともあるかもしれないけど、やはり俺は自分本位な性格なんだと改めて自覚した。

 忘れようとは思わない。

 ちゃんと心の片隅にお世話になった人のことは置いておこう。


「さて、運動してみますか」


 ねちねちと考えていても仕方ない。

 こういうのは身体を動かせばいいってネットに書いていた気がする。

 過眠症も何とかなるかもしれない。


「気になるのがステータスのことなんだよな…」


 ほとんど表記がされていないステータス。これが何を意味するのか知っておきたい。


「まずは俊からかな。どうしよ…とりあえず走るか?」


 俊はおそらく素早さとかだろう。と言ってもこれはターン制のゲームじゃないだろうし、どれだけ速く体を動かせるかの指標だと考えよう。

 森は走りにくいって聞いたから(ネットの知識)湖の周りを走ってみることにした。


「この湖でかいな。琵琶湖くらいあるんじゃないか?知らんけど」


 最初はただ歩くだけ。

 一歩一歩数えながらゆっくり足を踏みだす。


「――99、100!結構歩けるな。息も上がんないし」


 俺はほとんど自分の部屋から出なかったから一日の歩数はこんなもんだった。

 それも続けてじゃなくて30歩歩くくらいの感覚だ。


「でも歩くくらいじゃステータスの恩恵わかんないな。次はジョギングしてみるか」


 早歩きって選択肢もあったけど、この際すっ飛ばしてもいいだろう。

 しばらく走って一息ついた。


「ふう…って感じしないな。体力もかなり上がってるし、息も…そういえばしなくてもいいんだっけ」


 この身体だけでも十分チートな気がしてきた。


「次は全力で走ってみるか。高校生の頃は確か100メートル11秒くらいだったけ」


 それなりに早かったはずだけどここ数年全く運動していなかったから…いや、この身体には関係ないか。


「合図は…なくてもいいか。記録測るようなものじゃないし」


 心の中でよーいどんをしておおよそ100メートルを走ってみた。


「すご、全盛期と変わんない気がするな…でも普通だ。ステータスの恩恵感じない。ってことはこの攻撃も普通の人と変わんないのかな」


 ちょっと落胆して思い出した。


「そういえば権能って思い浮かべるだけで創造できたっけ…ならもっと速くって思えば――うあああああああ!!!」


 一歩地面を蹴るだけで十メートルほど体が吹き飛び、そのまま地面を数メートル転がった。


「こ、これがステータスの恩恵か?やばすぎだろ…」


 蹴った地面はへこんで硬くなっている。何かを高速で打ち付けたとような跡だ。


「これって俊敏のか?それとも攻撃のほうか…。でも速くって思いながら身体動かしたし…ま、いっか」


 こういうのは後で考えよう。

 あの一瞬の風を切る感じはかなり気持ちよかった。それでいいじゃないか。


「でも穴ぼこ作りすぎるのは止したいから…そんな感じでGO!」


 今度は速さに負けないように体を動かす。


「すっげえ!すげえ!!!」


 体が軽い。ただ地面を蹴るだけで車より早く動いている気がする。

 身体で受ける風が気持ちい。

 どれだけ走っても息が上がらない。脇腹も痛くならない。足も疲れない。

 楽しい。

 もっと速くもっと、もっと、もっと!


 気が付いたころには元の場所に戻ってきていた。


「あれ、止まるの普通だったな。こういうのって止まるのに距離が必要だって…まあいいか」


 物理法則を無視している気がするけど、この身体がすごいってことにしておこう。


「俊に関しては大分わかったな。もっと速く走れそうだったしもしかして表記がないのって上限がないからってことなのかもな」


 じゃあ上限がある攻と魔攻って何なんだろう。


「これ以上あげちゃうと世界壊れちゃうとか?んなわけないか」


 とりあえず近くにある木を殴って…見るより先にデコピンくらいにしとくか。

 もしこのステータスがとあるマンガのワンパンヒーローレベルだったら森がとんでもないことになりそうだし。


「普通に触る分には問題ないんだよな。ノックとか普通にできるし」


 おそらくこれも思い浮かべることで威力が上がる系だ。


「とりあえず全力で…80、000デコピン――」


 触れた瞬間、一直線に数メートルの道ができた。

 見た目普通のデコピンが触れた物だけではなく直線状にあるものを跡形もなく消し去ったのだ。


「…全力は封印だな」


 表記されてる原因がわかってよかった。

 知らずに全力出してたらあたり一帯消失してたかもしれない。


「…あ…やっぱり一日じゃダメか…」


 過眠症はまだ直らないみたいだ。

 俺は倒れこむように目を閉じた。




 目が覚めたら日が落ち始めていた。


「うーん。今日調べられるのは後一つくらいかな」


 後調べたいのは命中だ。

 防御面は多分調べなくてもわかる。どうせ外傷追わないって感じだろうし。

 運と回避は調べようがない。

 当たったとして防御が高ければどうにもならないしな。


「運って…必要か?」


 そんな感じだ。


「でも命中くらいなら少しは調べられるか。調べるとするならこれでしょ…物質創造の応用で――」


 物質生成は大抵のモノを作り出せる。と言っても現物見たことあるモノだけだけど。

 部活見学で見たやつの素材を創造して、「製作」の権能で形にする。

 形にできるのも簡単な物だけ…もうちょっと優しく…はさすがに高望みしすぎか。


「できた!弓と矢!」


 完全に弓道のそれだ。


「この矢持ってみると思ったより細いな」


 人肌くらいなら余裕で…ダメだ寒気がしてきた。この話はやめよう。


「的は…どうしよ。遠くの木にでも撃ってみるか」


 型とか知らないけどなんとなくでいいかな。

 弓に矢を駆けて引いてみる。


「重…あいつらこんなの引いてたのかよ…でも今の俺にはステータスってもんがあるんだよっ!」


 軽く引けるくらいにまで力を強めて数十メートル先の木に狙いを定めて撃つ――

 が、矢は木には向かわず見当違いのところへ飛んでいった。


「ダメか。そもそもの技量が足りたないとかかな?」


 狙い定めたとて届かなくては意味がないみたいだ。ホーミング機能はないらしい。


「いや。そういう権能創ればいいじゃん」


 思い浮かべたと気には権能に新しいものが追加されていた。


「お仕事が早いこって。じゃあもう一回…これ石投げたほうが早くない?」


 どう考えても弓を引くモーションよりも投げたほうが早い。


「固定概念ってやつだな。命中って聞いたら弓とか銃と思い浮かべちゃうじゃん」


 銃はモデルガンくらいしか知らないしな。

 あと小さいころ過ぎて思い出せん。

 思い出せるとしたらプラスチックの撃ったら先っぽが引っ付く奴だ。


「これくらいのデカさでいいか。じゃあさっきの木に向かって…攻100くらいでっ!!」


 どうやら力が足りていなかったらしく途中で落ちた。キャッチボールするくらいの距離だ。


「うーんじゃあ5000っ!!」


 指を離れた石はとんでもない速度で飛び、木をへし折った。


「…あったけど…力加減完全に間違ったな。つか数字で考えなければどうだろ」

 

 今度はもっと距離を離してみようかな。

 手ごろな石を拾ってさっきとはまた違う木に狙いを定める。


「次はあの木がちょっと傷つくくらいに!」


 さっきほどの速さはないけど石は一直線に木に飛んでいく。


「…さっきはへし折れたからわかったけど、今回は遠すぎてどうなったか見えない…そうだ、こういう時の権能創造!」


 あの木がどうなったか見えるように視力を拡張してみる。


「お、見えた」


 石を投げた木には少し窪みができていた。

 力加減成功だ。


「自分が思ったようになる…ちょっと怖くなってきたな」


 この世界を自由に生きていいとは言われたけど、さすがに破壊の限りを尽くすのはやめておこう。

 俺はどこかの大王みたいに環境破壊なんてしないぞ!


 それからすぐに日が落ちた。今日はここまでだ。

 明日は魔導とやらに手を付けてみよう。あと魔法も試してみようかな。

 どういう違いがあるのか、楽しみだ。

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