第1章「転移と新しい人生」
第1話「夢と転移」
眠りから覚めるとそこは森だった。
いつもの暗い部屋じゃなくて天にある太陽が俺を照らしている。
「…夢か」
こういう夢はよく見る。
夢は現実世界で起こったことや記憶したことをもとに構築されると聞く。
よく異世界モノを読んでいるからか、さっきの夢から続いてこれを見ているんだろう。
「涼しいな」
クーラーとはまた違う涼しさだ。
前を見れば湖があった。そのおかげだろうな。
「自然の匂い…もう随分感じてなかった…こんなだったけな~」
ちゃんとは思い出せない。けど一度嗅いだことがあるから夢に反映されてるんだろう。
「リアルな夢。明晰夢ってやつかな…」
ここまで自由度の高い夢は久しぶりだ。
ただ夢だというのに気持ちが落ち込んでいる。
いつもはこうじゃない。夢を見ているときは気持ちが楽だ。
現実に戻らなくていい。そう思えるから。
だけど目が覚めると嫌でも体が、心が思い出して動かなくなる。
今起こっているのはそれだ。
「てことは現実か…なわけないよな」
気分が持ち上がらない俺はもう一度目を閉じることにした。
――眠れない。
普通なら、俺が知る異世界転移した人物なら真っ先に当たりを散策するはずだ。
でも俺にはそんな気力がない。
できるとしたら眩しい太陽から逃げるために木陰へ移動することくらいだ。
それ以外はする気が起きない。
それからしばらくたっても一向に夢から覚める気配がない。
体感数時間は立っているはずだ。
現に日が落ち始めている。
「これ、ほんとに転移したとか…」
お腹も空かないし、汗もかかない。
夢で見た神様に願った事が俺の体に起きている。
「…もう一回寝てみればわかるか」
タイミングよく睡魔が訪れた。
俺はそれに乗っかって目を閉じた――
目が覚めるとそこは森だった。周りは明るくなっている。
朝だ。
「異世界転移…あれほんとに夢じゃなかったのか」
自称神様と名乗っていたあの人は本当に神様だったみたいだ。
「お腹空いてない。地面に寝てたのに汚れひとつないし汗もかいてない」
外にでたい。自然に触れたい。
とは言ったけど森に放っておくか?普通。
でも願いは叶ってる。
丈夫な体…。
俺は自分の方をつねってみた。
「イタヒ」
痛みあり。
血が出るかも確かめてみたいけど、これ以上の自傷は怖い。
「世界の一つをあげる…これがその世界ってことか?」
家をあげるの規模がデカい版ってやつか。
神様は太っ腹なようだ。
そんな神様がこんなちっぽけな存在に気をかけるとは…とんだお人好しなんだろうな、あの人。
「自由に生きろ…か。そういえば権能ってなんだ?」
神様ができることなんだろうけど、どうやって確認すればいいんだ?
異世界モノのテンプレで言うとステータス――
「うわ!」
ステータス。
そう頭に思い浮かべただけで半透明のよくある画面が表示された。
「…完全に異世界じゃん」
触って操作はできるけど行き過ぎると画面をすり抜けてしまう。
「ホログラム的な奴か?と、そんなことより…」
ステータスだ。言葉に反応したんだったら見れるはず。
「えっと…」
ホログラムには現在「ステータス・持ち物・図鑑」が縦に表示されている。
「ステータスに触って…いや思い浮かべただけで出てきたってことは…できた」
操作は指でなくてもいいみたいだ。手が塞がっていても操作できるのはありがたい。
「どれどれ…なんだこれ」
ステータス
体力 ――/――
魔力量 7,999,998/80,000,000
攻 80,600 魔攻 80,600
防 ―― 魔防 ――
俊 ―― 運 ――
命中 ―― 回避 ――%
権能<スキル> +
「何これ。表記されてないの多過ぎない?」
3つしか詳細書かれてないんだけど。
体力表記無し…これは多分「丈夫な体」ってことなんだろう。防御もそれで表記無し。
必要ないくらいに高いってことか。だったら後の4つも同じく…運の表記無はちょっと怖いぞ。
「権能<スキル>?それにこの+ってあれだよな。表記するものが多すぎて省略されてるってことだよな…あ…。」
俺は突然の眠気に襲われた。
俺は日中何をしていても途切れるように眠ってしまう。そういう病気だ。
まだ気になることがたくさんあるのに…また目が覚めたら確認しよう。
…起きるのが楽しみなんていつ以来だろう。ちょっとは前に進めているのかもしれない。
俺は電池が切れたおもちゃの様に眠りについた――
目が覚めたら日が傾いていた。
「暗いな…森は暗くなるの早いんだっけ?」
そんなことよりステータスの続きだ。
画面を出してステータスを表示する。
「…そういえばステータスって言って画面出てきてまたステータスってなんだ?」
完全に無駄なことしてる気がする。
いったん画面を閉じてと。
「後なんだろ…そういえば持ち物って表記あったっけ。じゃあ…」
「持ち物」を頭の中で浮かべるとまたさっきの画面が表示された。
もう一度消して次は図鑑を頭に浮かべる。
同じく画面が表示された。
「全部同じか。じゃあ…」
今度は「ステータス」画面を直接浮かべてみる。
「成功。思い浮かべる事で表示されるものが変わるってわけか」
「持ち物」と「図鑑」も同じように表示された。
「持ち物…インベントリだとどうなるんだろ」
思い浮かべてみると「持ち物」の画面が表示された。
「ご丁寧に「持ち物」が「インベントリ」に変わってるし」
うーん。じゃあ初期画面出すとしたら…「ウィンドウ」とかか?
想像通り初期画面が表示された。
「言葉ってより意思に反応してるみたいだな…って、そんなことよりステータスだ」
ステータスを開いて眠る前に見損なった権能の部分を見る。
「さて、どれだけ省略されてるのか…ぽちっとな」
権能<スキル> -
権能創造
言語習得 鑑定 物質生成 清潔
四元魔導 + 魔法創造
不老不死 終
「あれ?これだけ?」
省略されているにしては少なすぎる。というかそのまま表示した方がいいんじゃないか?
「四元魔道も省略…」
四元魔導 -
火魔導 水魔導 土魔導 風魔導
「これは表示しなくてもいいからって感じか」
こういう整頓されている感じ好きだ。自分の部屋は片付けられなかったけど。
「つか魔導と魔法って何が違うんだ?」
どっちも変わんないような気がするけど…この世界では何かが違うってことか。
まあ異世界だもんな。俺にわかりやすく表記するとしたらこうなったってだけかもしれないし、全くの別物って考えとこう。
「いやいや、まてまて。権能創造ってなんだよ」
マークが気になって前の部分をすっ飛ばしてた。
これ、お決まりのチートってやつか?いや、それ以前に体がチートだったわ。
「何作れるかはあとで試すか。それ以外は…」
言語習得。これは嬉しい…けどはたして人と話せるんだろうか。もう何年も他人と話してないのに。
それはのんびり考えることにしよう。
鑑定。ド定番だ。一度使ってみるか。画面出すのに思い浮かべるだけだったから…。
「お、成功だ」
鑑定結果・石
「そりゃそうだ。落ちてる石なんかこんなもんか。珍しい物見つけたら使ってみよ。あとは…」
物質生成。これも聞いたことある。錬金術とかと同じかな?
…表記が「物質生成 +」に変わった。+を押すと案の定、錬金術が追加されている。
これ権能創り続けてたらカオスになりそう…。気をつけよう。
「何か作ってみるか。これも同じく思い浮かべるだけで…」
手のひらの上に集中して石を作り出してみた。
「成功っと。それから錬金術っていえば物質の変換だよな。じゃあ…」
念じると手のひらの石が木の枝に変わった。
「すご…」
ただ対象以上の価値のものには変換されないみたいだ。
「錬金術…物質創造できるなら使わなくね?」
そう思った瞬間錬金術の表記が消えた。
「…ほい」
念じると手のひらの木の枝は石に変わった。錬金術の項目も追加だ。
「創造したものはいらないと思えば消せるってわけか」
最初からあるものは念じても消えないみたいだ。
あと清潔。これはもう実感してる。汗かかないのもこれのおかげか?
清潔って表記だし汗はかくけどかいたそばから消えてるって感じかな。
それから…
「不老不死」
死にたくない。そう願った結果だろうな。
歳をとれば病にもかかりやすい。だから不老も追加されてるって感じか。
俺の願い以上に叶えてくれてんな神様。
「そして「終」…」
これが死ぬスキルってやつか。
たった一文字の癖になんて存在感出してんだよ。
考えなかったと言えば嘘になる。
衝動的に消えたくなった時もあった。
でも自分でする勇気もなくてただどうにかなってくれと願っていた。
でもここに来て、人生に絶望していた俺がちょっと生きたいと思えるようになった。
夢の中だけじゃなくて現実の世界で。
だから、だからさ。
「見たくないよお前なんて」
そう思ったときにはその文字は消えていた。
多分欲しいと感じたらまた出てくるんだろう。
生き続けるってのはしんどいだろうし、人生に満足したら使うことにしよう。
ただ今だけはその空欄を見るだけで嬉しくなった。
せっかくの異世界だ。少しは楽しんでみよう。
「星めっちゃきれいだな…」
世界はいつの間にか夜になっていた。
空気は澄んで、街を照らす人口の光もないその空は満点の星で埋め尽くされている。
「ひろいなあ。世界ってのは」
自然と涙がこみあげてくる。でもこれは嫌な涙じゃない。
これはそうだな…。
たぶん、自分は今生きているということを実感したからだと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます