第26話「リーアVS怪物」
第二ラウンド開始から三分ほど、大杖での初級魔術をあらかた試し終わった。
小杖ならば精密に扱えるが…やはりまだ振り回されてしまうな。これは骨が折れる。
「<
追尾を付与した炎球は込められた魔力が尽きるまで標的を追い続ける。
対する怪物はその腕で魔術を切り裂いた。
「ああ、もう鬱陶しい!!!」
怪物は私のはなった魔法をことごとく受け止めている。
何かカラクリがありそうだが…まだわからないな。試し続けよう。
「魔法使いだと思っていたけれどこの属性…あなた何者よ?」
「しがない魔術師だ。<
「っく――」
次は中級に分類した魔術…だが大杖では数秒の間ができる。対人型には向かないか…。
予想通り楽々よけられた。
「あら?速さがなくなったようね……お疲れかしら?じゃあ今度は私の番――!!!」
っ近接!!
怪物の腕は見た目普通の人間と大差ないが魔術を切るほどに鋭い。それに土魔術をはじく…硬さもありそうだな。
まずは杖で防御!!
「硬いわね…。ただの木の棒かと思ったのだけど……」
怪物は私を切り裂こうとした腕が杖で防がれて不思議そうにしている。
「残念ながら特別製でね。これくらいでは傷つかんっ……!」
重い……杖が壊れないのはいいが一撃一撃が私の腕自体を軋ませてくる。
先に持たなるのは杖ではなく私自信か…。
であるならば常時展開の強化魔法を限界まで底上げて!!
まずは魔術師の間合いを取らねば始まらない。全力で杖を振って怪物を押しのけて距離をとる。
「…!?力が強くなった?さっきの男と同じからくりかしら…魔術っていうのは色んな事ができるのね」
「腕力的な差はこれでなくなっただろう?<激流槍>!」
水の槍は怪物の足元に刺さり飛び散った。
「無駄よ?こんなにも遅ければ一生続けても当てられないわよ?」
「…余裕だな」
まだ何か隠しているな。怪物がここまでやったことと言えば、避けることと力技だけだ。
モンスターを生み出す…いや、オロチの時はおいでと言っていた。召喚、もしくは転移……か。気になる。
ダメだな……悪い癖が出そうだ。またクリオラに怒られる。
「そろそろ見せたらどうだ?貴様の本気」
「そう?あなたの底を見てから味あわせてあげるつもりだったのだけど…仕方ないわね。少しだけ見せてあげる!!!」
怪物は地面を蹴り馬鹿正直に突っ込んできた。
ただおかしいのはその速さ――訓練時のクリオラと同等か!!!?
「あら、仕留めたと思ったのだけど…これでもまだ足りないようねっ!!!」
「なっ!!?」
私が杖で受け止めた拳と逆の腕が私の頬をかすめた。危ない直撃すれば首から上が吹き飛んだかもしれない。
…対人型訓練はクリオラで積んできたつもりだったんだが。
「あらまだ通らない。邪魔なのはこの杖ね!!!」
何かが怪物の手に集まり始めた。
私の中の何かが危険だと告げる。このままでは杖を貫通して体が真っ二つになる!!
「――っ!!!」
とっさに杖を離し後ろに飛んだ。
杖は怪物の手刀によって粉々に砕け散り触媒部分だけが転がって行く。
「これでも感触が残るなんて…この杖本当にどうなっているのよ。でもこれで無防備ね…さあどう料理してあげましょうか…?」
「この快楽殺戮者め……」
女を痛めつける趣味はないだと?大嘘つきめ。
本性などとうに知っている。数年に渡りじわじわと浸食を続け人死をほくそ笑んでみていた下衆だ。
だがそれは強者だから成しえられること。
モンスターを生み出せることだけじゃない、その過程でこれ程までに強い力を手に入れたのだろう。
「認めようじゃないか…お前は強い。少し舐めていた」
「もっと早くに気づいて逃げればよかったのにねえ。でも時間切れよ」
無防備になった私に余裕の表情で怪物は近づいてくる。
「逃げてもいいのよ?追いかかけられて絶望に歪む顔を見せて頂戴」
「それもいいな」
「でしょう?ほら早く逃げなさい」
余裕、慢心、傲り。
それが許されるのは本物の強者だけだ。
「だが油断はよくないぞ?…なあ、怪物よ。私が何故戦いにくいローブを着て戦っていたかわかるか?」
「…?」
強者と言えど最後のあがきには驚くものだ。
だが私は弱者ではない――!!!
「<
「な、なに!!?」
クリオラ曰く”二手三手隠し技は持っておけ”。ローブの下に隠していた私の愛仗には怪物はついぞ気づかなかった。
油断大敵よく言ったものだ。
不意をついた一撃は怪物の左腕を肩ごと持っていった。
もともと<消失>は対魔法魔術だ。だが修練の結果小さい範囲にあるものを消し去ることができるようになった。
「さあ!第三ラウンド開始だ!!<
<
「がああああああ!!!!」
魔術で生成されたモノは魔力を失ってもなお残るものがある。激流槍で生成された水はその一部。
幾度か当てた水の魔術で怪物はずぶ濡れ、地面には水たまりができている。直接当てずとも攻撃は通る!
雷撃は中級…小杖の方なら威力は下がるが上級魔術まで即時発動が可能。修練の成果だ。
怪物はカラクリに気づき乾いた砂をあたり一面に撒いた。
「武器はあの杖だけじゃなかったの!?」
「激流槍!!!」
即時発動――そして通常より魔力を込めて威力を上げる!!
まだ足りない…威力と射出速度だけじゃだめだ。速度も追加して修練する必要があるな…。
「だけど……当たらなければどうということはないわ!!」
「ならば数で押し切る!!!」
「!!!」
魔力の消費は増えるがこの程度ならまだまだ余裕。
「<炎球>!!」
「無駄!!」
追尾を付与した十個の炎球を怪物に向けて放つ。さっき無効化された魔術。数はあっても同じく消される。
だが怪物は慣れていない。
”騙し打ち”に――
「<
「ぐああああ!!!!」
処理しきれなかった炎と共に無数の風刃は怪物の体を襲う。
仕留めきれないか…。
「しぶといな」
「ふぅ…ふぅ……」
髪は焦げて体は風刃による裂傷で赤く濡れている。
「見誤ったわね…まさかここまで強い人間がいるなんて……さっき本気が見たいと言っていたわね…いいわ見せてあげる」
「っ!!!<雷撃>!!!」
雷撃は動く標的に対して命中率こそ低いが威力は高く速度も出る。動きの少ない相手には効果的……だが突如出現したモンスターによってかき消された。
手負いの獣は何よりも恐ろしい。…私も愚者だったわけか……。息をつく間も与えず止め刺さなければいけなかった。
……空気の流れが変わった?さっきの拳と同じ…魔素が怪物に集まって行っている。
触媒はない。魔法か…?モンスターもあふれ出してきている。さっきの比じゃない下手したら百に届くぞ。
だが怪物がモンスターを出現させるのに魔素の動きはなかった…他の何かに使おうとしている――
であるならば先にモンスターを片付ける、あわよくば怪物ごと!!
「<
空から出現した水と炎二属性の竜が怪物とモンスターを呑み込み土煙をあげる。
超級の魔術だ。小杖であれどモンスターごとき一撃で屠ることができのだが…。
「駄目か…いや待てこの違和感は何だ…」
「ありがとう…私自ら眷属を手にかけるのは気が引けるのよ……」
そこで気づいた。モンスターが消えたところから魔素の流れが感じられた。
「まさか!!?」
数回魔術を打ち込んだが意味がない。全て濃い魔力にかき消されていく。
これは大杖で超級を打ち込まないとこじ開けられない……打つ手なしか。
だが怪物に吸収されて徐々に薄くなっている。全て吸収されてからが勝負か…。行けるか?
吸収が終わったとほぼ同時に怪物から突風が吹き荒れ、飛んできた砂塵に目を瞑ってしまった。
風が止み再び目を開け怪物を見ると先ほどまでとは容姿が変わっていた。
「ツノと翼に尻尾?」
「ええ、そうよお。これが私の真なる姿…この世界でこれを見せることになるなんてね…」
真なる姿?この世界?
……気になるこてゃたくさんある。だが、そんなことを考えている余裕はない。怪物から漏れ出す覇気と纏う極濃の魔素がそれを物語っている。
まずいな…いけるか?
「さて…あなたの言葉を借りるなら……第四ラウンドと行きましょうか!!!!」
瞬きをしてはいけない。姿を――
「がっ!!!!」
気づけば私の体は後方に吹き飛んでいた。
瞬き?そんなもの関係ない。目で追うことすら不可能だ。
「まだよお!これは左腕の敵!」
「ぐふうあ――…」
何を言っているんだ…私を殴っているのは左腕じゃないか…。
左腕はいつの間にか再生していた。再生能力持ち…トカゲか?
私の体は砂浜を数十メートルに渡り抉った。杖は……しまった見失った。
「…やっと本気ってわけか」
「ええ、そうよお。あら?でもまだ諦めていないみたいねえ。こんなに一方的なのに」
「はは、諦められない理由があるからな…それにまだ手はある…」
まだ…手はある。成功する保証は…いや成功すると私の心が言っている。
「そお、なら容赦なくいけるわ!!」
「<
――――――――――――――――――――
「いいか。リーアほんとに気を付けるんだぞ!?」
「わかっている…心配しすぎだぞ」
「ほんとは一人でなんて……でもリーアが言うなら…でもこれは持って行け。これは「 」<
――――――――――――――――――――
「な!!!?」
私が付けた腕輪。クリオラがお守りとして持たせてくれたものだ。
「反転の腕輪」――名の通り受ける攻撃をそのまま相手に返す。
自らの攻撃の反動と私に対しての攻撃を合わせて受けた怪物の右腕ははじけ飛び地面に落ちた。
「また油断したな…気をつけろと言ったろ?」
「矮小な人間がああああああ!!!!」
「それが貴様の本性か…」
余裕もなくなり激昂。追い詰めた…とは言えないな…。もう腕が再生をはじめている。
私の魔力もあと一度この腕輪を使えばそこを付きそうだ…魔力切れの兆候が出てきた。
「もう、楽に殺してはあげないわ……今砦に向けて眷属を放ったわ。この姿に変わってしまったなら一度帰らないといけない…。今出せる十二万匹。これだけあれば落とせるでしょう」
十二万…私が消し飛ばした数の百数倍か。まだそれだけ数を残していたとは…。
「あなたは強かったわあ。……そういえば音に驚いて砦の方を見た時にあなたを見たわねえ。さっき眷属が大量に消滅したのもあなたの仕業?」
「そうだとしたら?」
「ふふ、だとしたらもうそろそろ砦も落ちそうね」
「ははは、では私はもう戻るとしようかな――<
怪物は私の顔面目掛けて右足を振り切った。今度はもげていない。手加減したな…。
「戻らせるわけないでしょう?ああ、でも杖がないとあなたは魔術をやらを使えないみたいね…いえ、私の体を吹き飛ばした腕輪。それも同じような物ね?」
この怪物無駄に頭が回る……私の腕から腕輪を外し眺めはじめた。
「きれいな装飾…いいわあ私が貰ってあげる。いい能力も使えるみたいだし」
「残念だが私以外に使えないようになっている……つけることさえ叶わない」
クリオラが私専用と言って作ったものだ。私が使えば強力だが他人が持てばただの腕輪になる。
「そう…ああ、確かあなたの近くにローブの人間がいたわね。あれからの送り物かしら?」
「そうだ。だから眺めるのはいいがあとで返してくれ。大切なものなんだ」
「いいじゃない、あなたはもうじき死ぬのだから。砦にいるあの人間ももう死んでいるかもしれないわよ?あなたがいなければ蹂躙されるだけでしょう?」
怪物は余裕綽々と私を煽るように腕輪を指で回し始めた。
……どうやらこいつの慢心は果てを知らないようだ。
「ははは、蹂躙だと?残念だが砦には今、私より遥かに強いものがいるぞ?」
「なにをいって――」
その時空が割れる音が聞こえた。
「やりすぎだ…馬鹿者」
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