第27話「リーア」


 俺は日に当たりすぎると死ぬぞ…つまるところ熱中症になるぞと言われて砦の中でリーアを待っている。


「遅い」

「予定では後二日はかかりますよ先生」


 確かにそうだけど…そうなんだけど…。


「心配は心配なんだよ……」

「先生は師匠のことになるとおかしくなりますね…」


 おかしいとはなんだ。おかしいとは。

 ……いや。おかしいか?

 依存はしだしているかもしれん。

 でも仕方ないだろ?世間一般じゃあ付き合いだした男女はこの位が普通だろ!?しらんけど。

 お守りは持たせたし…リーアには教えてないけどちょっとした仕掛けもある。怪物が心を読めたしたら危ないからな…。


「でも大丈夫かなあ…」

「緊急!緊急!!!モンスターが再び現れましたああああ!!!!」


 怪物が倒されるまで油断できないということで砦は今でも警戒態勢だったのだが…油断しなくてよかったな。


「先生、私たちも行きましょう」


 いかない。って選択肢はないな。俺は英雄の相方なんだから。いや、彼……後でちゃんと確認しよう。

 慌ただしい兵士の…いや絶望したといった方がいいような声が聞こえてくた。

 まあ、警戒してたとはいえやっと止まった進行がまた始まったんだもんな。仕方ない。


「な、なんですかこれは……」


 先に階段を上り切ったクファからそんな声が漏れ出した。どうしたんだ?

 その答えは登り切ってすぐに分かった。


「……」


 絶句。あたり一面モンスターだらけ。リーアが倒した数なんて始まりに過ぎないみたいな数だ。

 数万はありそうだな。というか気持ち悪い…集合体恐怖症でなくともこれは我慢ならん…目を離したい。


「こんなもの見たことがない…」

「終わりだ」

「「さすがにこの数は…」」


 王族であっても膝をついている。こりゃダメかあ…。

 …リーア大丈夫かな。あっちの方まではいってないみたいだけど…心配は心配だ。


「先生……」


 隣を見ると涙目になった上目遣いのクファが俺のローブを掴んでいた。

 …男のやつ見ても全く嬉しくないんだが?リーアに補完するか…絶対やらなさそうだけど。


 ……よし。私に任せなさい。


 と言ってもこの数殲滅する魔法考えてないんだよなあ。

 中途半端にやっちゃうとその辺に散らばりそうだし…。

 まずは全部囲うところからか。


 <壁を造る魔法>


 モンスターを全て壁の中にぶち込んでどこからも逃げられないようにする。

 …子供が虫かごに大量の虫を入れてるみたいだ……。なんかわちゃわちゃしてるぞ。気持ち悪い…。

 これ蟲毒とかになんねえかな。こんだけいれば最後とんでもないモンスター生まれそう。


「こ、これは……」


 隣で涙目になっていたクファは俺の前に出てモンスターを見下ろしている。興味津々だ。

 普通に気持ち悪いと思うんだけどな…現に吐きそうになってる兵士いるし。いや。これは絶望からのあれか?

 さっさと片付けるか…。

 けど、どうしたもんか。リーアの使った魔術みたいなのじゃ何発か撃たないといけない。あれを連発してみろ、目と耳が完全に潰れるやつがいる。対策は一人一人かけないといけならめんどくさい無理だ。

 …こんだけ壁高ければ漏れることもないか。


 四元魔導・火


 途端空に亀裂が入り別の世界と繋がった。青い炎が延々と続く世界だ。

 とりあえず一分くらい開くか。そんだけあれば全滅させられるだろ。

 …リーア無事かなあ。


「先生…何が…何が起こっているのですか!!?」


 何って……炎が漏れてるだけじゃん。まあちょっと規模デカいけど。

 周りは何故かさっきと違って黙り込んでいる。…割れた空見てるな、そりゃ初めて見たら驚くか。


「これは先生が……?」


 そうだよ。

 目線と頷きで答えたら少しだけ距離をとられた。…怖い人認定されたか?別にいいけど。クファはリーアじゃないし。

 肌が焼けそうなほどの風が吹き始めたころにはモンスターは灰になり動くものはいなくなった。

 四元魔導お終いっと。

 ……あ、普通に使っちゃったぞ。おいまてこれリーアに怒られたり……土下座するかあ。


 少ししてリーアいる方向で青い光が海岸線を抉るのが見えた。


「リーア!!!!」


 俺はすぐさま飛び降りステータスマックスでリーアの元へ走った。



――――――――――――――――――――



「な、何なのよ!あれ!!!?」

「いっただろう?私より強いものがいると」


 割れた空、漏れだす青い炎。クリオラが火の魔導を使った証だ。


「貴様の眷属とやらは全滅しただろうな。あれから逃れるとしたら本人だけだ」


 怪物は狼狽えた後私のことを見た。


「そう……そう……あなたたちのせいで何もかも失敗よ!!!……私はただ静かに生きたかっただけなのに!!!」

「お前の過去は知らないが、人を殺し続けた以上そんな自己中心的な願いは叶わない。人との共生を選んでいればその生もあっただろうがな」


 歯が割れるようなくらいに歯ぎしりをして私を睨んでいる。相当恨まれているようだ。

 ……もしかしたらクリオラもこうなっていたのかもしれないな。そうなる前に出会えてよかった。


「もういいわ。あなたを殺して次へ行きましょう」


 怪物は周囲魔素を吸収し右腕を強化した。当たれば跡形もなく吹き飛びそうだな…。

 腕輪もない。さすがの私も死んでしまうか。


 終わりだな。


「さようなら。強かったわよあなた」

「そうか。なら一思いにやってくれ。痛いのは嫌だからな」


 クリオラと一緒に入れたのはたった一年。もっといられると思っていたんだがな。

 あの魔術も不完全。もっと早く完成させておくべきだった。


 握られた拳は限界まで高められ青い光を放っている。

 瞬間目の前が真っ青になり私は目を閉じた。


 ではな、クリオラ。来世があるのならまた共に――




「……」


 聞こえるのは波の音。ただそれだけ。死はこういう物……いや違う


「生きている…?」


 再び開いた目に映ったのはどこまでも続く何かが抉った跡だった。

 視界に怪物の姿はなく、盗られた腕輪だけが落ちている。


「胸が暖かい……こ、これは……は、ははは……っ全く、何がお守りだ。やりすぎだぞ馬鹿者」


 暖かい熱の正体はあの日かけてもらった日から一度足りとて外したことのない、この世で一番大事なペンダントだった。

 私の残りわずかだった魔力は全く減っていない。

 魔力を触媒に貯める技術……最初に貰ったときはそんなもの付与されていなかった。いつのまに追加付与したのだか……。

 ほっとしたのかどっと疲れがあふれ出した。何分何時間戦っていたのかは知らないが今までにない感覚だ。

 戻るまでに時間もある少し寝よう。帰ったら存分に甘やかしてもらうとしようか。

 まだ暖かいペンダントを握り私は目を閉じた。


「リぃいいいいいいいいアああああああああああ!!!!!!」


 どうやら眠るのは少し後になりそうだ。



――――――――――――――――――――



 兵士が一週間、リーアが二日かけて移動した距離を俺は五分で駆け抜けた。

 途中でツェタンさんを見かけた。たぶんリーアが逃がしたんだろう。


 …あれが使われたってことはリーアが何もできないくらいの危機が迫った時だ。

 ペンダントには危機が迫った時、攻撃力七万程度の光線が出る魔法を付与している。

 リーアの魔力が尽きた時のために俺の魔力を込めていた。


 あとは発動した時、防御を三億上がるようにもしている。絶対に死にはしない。そういった代物を作り上げたつもりだ。

 だけどそれ以前に受けた傷とかは治せない。回復魔法は何故かまだ使えないから付与もできなかった。


 きっと無事。ちょっと疲れてるかもしれないけど、大分疲れてるだろうけどきっと無事。

 だよな?そうだよな?大丈夫だよな?俺失敗してないよな?

 ちゃんとお守りは発動したから大丈夫…なはず。


 海村がどこにあるのかはすぐにわかった。戦いの余波がかなり広く残っている。

 あとは発動した中心地に――


「リぃいいいいいいいいアああああああああああ!!!!!!」


 リーアは中心地に転がっていた。いや寝転がっているだけであってくれ…。


「リーア!リーア!無事か!?」

「うるさいぞ……疲れているんだ、大きな声を出さないでくれ…」

「ご、ごめん」


 ちゃんと生きてた。ぐったりしてるけどほんとに疲れているだけみたいだ。よかった…。


「やっぱり服はダメだったか…でも流血はない…傷もない。もしかしていつの間にか回復魔術習得した?」

「ああ。体については問題ない。はずだ。ステータスを確認してくれ」

「わかった」




 リーア LV271


体力 83/763

魔力量 42/39802




 回復魔術で多少回復してるとしてもありえないほど減っている。

 ほんとにギリギリだったみたいだ。


「はは、今ならお前に小突かれただけで死にそうだな」

「冗談にならんぞそれ」

「生きて会えたんだ、少しくらい言わせろ。私はお前と馬鹿な話をするのが好きなんだ」

「それでもよくねえよ。水飲むか?」

「ありがとう」


 俺はリーアを抱き上げた。力があんまり入ってない。

 ステータスが見えなければ卒倒していたかもしれないな…鑑定に感謝。


「助かったよ」


 抱き上げた俺の手を握りそう呟いた。


「助けるのは当たり前だ。というか一人で行かせるのホントに嫌だったんだからな」

「過保護すぎるのもよくないと思うが…流石に反省せざるを得ないな。すまなかった」

「今後は俺が認めるまで絶対一人で行かせないからな」

「こうなってしまっては仕方がないな」


 ため息交じりだけど、ちゃんと守ってくれそうだ。…少なくとも体力一万超えるまで単独行動はなしだ。


「とりあえず休む場所作るか。帰るのは完全に回復してからでもいいだろ」

「駄目だ。お前のことだ、どうせ何も言わずに砦から出てきたんだろう?ある程度回復したら戻るぞ」

「う…」


 確かに。でもそんな悠長なこと言ってる場合じゃなかったし。


「あ、いや。ひとっ走りしてクファに伝えてくる。戻ってきたら二、三日ここで休もう」

「それはいいな。だが早く戻って来てくれよ」

「わかってる」


 クッションを作ってリーアを寝かせた後、俺は往復十分でリーアの元に戻った。


「とりあえず日をしのげるように簡単な小屋作って…冷房は魔法…あとトイレ。床は全部クッションにするか」

「風呂も頼む」

「了解」


 甘やかしすぎ?何とでも言いやがれ。

 俺は一時間経たずに小屋を完成させた。そのころにはリーアも歩けるくらいには回復していた。


「服出さないとな。流石にボロボロになっちゃったか」

「すまないな、せっかく仕立ててもらったというのに」

「気にするな。…怪物強かったか?」

「信じられないくらいにな。死を覚悟して遠いお前にさよならを言ったよ」


 リーアは自虐的に笑いながら言う。そこまで強かったか…。


「お守り持たせて正解だったな。リーアに対しては心配しすぎるくらいでちょうどいい気がしてきた」

「何も言えない…あ、だがこれはやりすぎだぞ!ペンダントを魔改造していたなんて聞いてない」

「仕方ないだろ?相手も心が読めたりしたらあれは通用しなかったんだし。あとリーアが絶対離さないのはペンダントしか思いつかなかったんだ」

「た、確かにそうだが…」


 何か言いたげではある。大方大切なものが魔改造されたことに不満を持っているんだろう。


「嫌ならあとで付与したモノとるから」

「……いいや、このままでいい。これもお前の愛のカタチというものなのだろう?なら甘んじて受け入れようじゃないか」

「そうですかい」


 いつものリーアの言い回しだ。日常が戻ってきた感じがして嬉しい。

 さて、服はどうしようか。

 インベントリには百着を超えるリーア用の服が入っている。下着も入れれば百五十はくだらない。

 なんで下着の数がそんなに多いかって?そんなの聞くだけ野暮ってもんですぜ。


「今は寝間着の方がいいか」

「頼む。下着も楽なのがいい……あと今後来た下着の管理は私がする。これまで履いたぶんまとめておいてくれ」

「…それはどうして?」

「お前の心に聞け」


 そんな後生な……。少しくらい拝借しとくか…。


「すけべ……いや、まあお前が処理に困るというのなら……少しくらい…」

「いえ、すべて出しておきます」


 リーアは少し顔を赤め恥ずかしながら寝間着に着替えだした。

 優しさはありがたい。でもここは誠意を見せようじゃないか。リーアが着替えている間にできるだけまとめておくことにしよう。

 しかしあのリーアがこうも変わるとは……俺の記憶の中にはとんでもないものが潜んでいたらしい。もうほとんど覚えてないけど。


「だが、まあお前のが元気になったのはそれはそれでよかった」

「……まあ、な」


 向こうにいる間は数年前から枯れてたからな。まさか戻るとは思わなかった。だけど抑えられていたものが解放されるとなると普通以上に求めるようになる。おそらく俺は今それだ。


「まだ先だからな」

「落ち着くまでだろ?わかってるよ…」

「旅の間に子供ができてはかなわない。避妊具があったとして確実ではない。初めから禁止しておいた方がいいだろう」


 なんもいえねえ~…。


「近辺にはないが離れたところに国があるらしい。そこが住みやすければ落ち着くのもいい。だめならこの国に戻って暮らそう。王も良くしてくれるはずだ」

「わかったよ。やっぱやめたは言わせないからな」


 そんなこと言われたらまた枯れちゃうかもしれない。


「言わないさ。存分に抱くといい。だが初めの数回は優しく頼むぞ?」

「わかってるけど……そういうことはあまり言わんでください…」


 理性飛んじゃうかもしんない。


「あと、寝るとき抱き着くのも――」

「だめだ。あれは絶対にやめない。この間まで平気だったではないか」

「気持ちを確認した後となるとやはり思うものが……」


 男はオオカミなんだぞ。深夜に抱き着かれて背中に柔らかい感触感じたり、好きな人の匂いを間近で感じて何年も我慢できるわけないだろ!?


「そ、そう…か。確実に避妊する方法があればいいのだがな……」

「魔法試してみよう!」

「どうやって妊娠しないと証明するんだ?」


 考えてなかった…。でも魔法は万能だし…いや、魔法が解除できなくなったら困る。


「私もずっと魔術を考えているんだが思いつかないんだ。使い続けて子ができなくなるのは避けたい……」


 …俺も子供は見たい。リーアの子だ、絶対美人に育つ。男は…また考えとこ…。

 気づけばリーアは寝息を立てていた。相当疲れたんだろう。


「お疲れ様」




 俺はリーアの肩より少し伸びた髪に触れてから下着の整理を再開した。

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