第17話「謁見」

 ムアンナキ国王宮、玉座の間



 俺たちは今、この国の王と対面している。


「我は国王デュームである。名を名乗れ旅人」


 こういう時は発言を許すとかどうとか言ってくるって勝手に思ったけどそうじゃないんだ。時代特有のってことか?ま、異世界だしな…なんでもありか。


「こちらはケルス。私は教え子のメリーアベルだ」


 リーアは本名…何で俺はケルスなんだよ。クリオラケルスだからケルス?

 名前教えちゃダメ…ってことはないよな。何でだろう。

 つか教え子って何!?何もしてませんけど!?


「話せぬのか」

「口を開けば誰かの首が飛ぶ」


 んなわけあるか。


「魔法使いか。難儀なものだな」


 …魔法使いってなんて便利な言葉なんでしょう。何か聞かれたら魔法使いですって答えよう。

 まて…そういう魔法もあるってこと?…作ってみるか?いや、物騒すぎ。やめとこう。あと対策しとこ。


「その顔を隠した男。先刻我が王宮をのぞき見しておっただろう。何故だ」

「ただの興味だ。初めて見るものに興奮されたのだろう。この方は知的好奇心が高くてな、私も困っている」


 それ、俺のセリフなんだけど?ブーメラン刺さってるぞブーメラン。

 というかさっきから王様になんて態度…って言ってもリーアにはどれ位偉いかの物差しがまだないんだった。今まであった中で一番の権力者って村長くらいだしな。それもいい奴じゃなかったし…こうなるのも当然か。

 王様も玉座にもたれかかって頬杖付いて聞いてるし。機嫌も悪そうじゃない。咎める必要もないか。

 …いや、あとでちょっとお小言言っておこう。


「我が宮が気になるのは当然のことだ。仕方ない。…して、我の魔法はどのようにして打ち消した」


 あの攻撃やっぱり王様の物だったのか。自分が攻撃したやつを目の前に呼び出すなんてどんな度胸してんだよこの人。

 でもこの位肝座ってないと王様になんてなれないか。

 てかこの質問俺が答えないといけない……いや、リーア任せる。


「ほう…貴様の魔法であったか。ならば問う前に何か言うことがあるだろう」


 おいおい、ついに王様のことを貴様っていちゃったよ。

 王様も目を丸にしてるし。


「ぶ、無礼な!即刻首狩りを!!!」


 側近ぽい人も怒ってるじゃないか。もう一人はすまし顔でこっち視てるけど…いや、品定めしてるって方が正しいか?

 んで、リーアは何故か自慢げな顔で相対してるし…。でもこの場を任せたの俺だしな…今から出しゃばるってのも無理だし。話しかけれないし…。

 もうちょっと友好関係結ぼうとしてくれ……俺の心臓が持たない。


「下がれ」

「しかし――!」


 王様は側近を睨みつけて強制的に下がらせた。

 自分の側の人間には厳しい。当たり前か。


「そうだな。不意をついての攻撃、すまなかった」


 王様は玉座を立つことはなかったけど肘掛けに両手をつきながら頭を下げた。

 ついに頭まで下げさせちまったよ…おい。

 こういう時は「頭をお上げ下さい!そんな必要は!!」って言う展開になるはずなんだけど…。


「しかと受け取った。頭をあげろ」


 うーん。そうはならんやろ。

 それでも王様は顔色を変えないし…もしかして児戯に付き合っているだけとか?

 ないか…。もしそうだとしたらリーアがこの程度で済ませるわけがない。


「次は私が答える番だな。打ち消した理由だが…いや、特段何もしていない。先生ならあの程度、直撃してもかすり傷一つ付かん」


 気づいたころには粉々だったもんな。

 でもリーアじゃなくて俺を攻撃したのは賢明だった。もしそうじゃなかったらこうやって相対していない。この場所がなくなっていたからな。


「傷ひとつか…。殺す気で撃ったのだがな」


 こわ。でも確かにのぞき見されたら機嫌悪くなる…いや、それでも殺すなんて発想にはならんだろ。

 この時代の人こわ!


「ははは、それは幸運だったな。今でも命があることを喜ぶといい」

「ふっ、そうしよう」


 …ついてけないわ。もうこの国出るまでお偉いさんの対応はリーアに任せよう…。


「して、我が国に何をしに来た。その力で滅ぼしに来たのか?」

「それもいいかもしれないな。あいたっ!」


 ねえよ。

 流石に調子に乗りすぎだから頭に手刀入れといた。


「はっはっは!どうやら先生とやらにその気はないらしいな」


 王様は今までの険しい顔をやめて大きく笑った。

 緊張が解れたって感じだ。警戒も解いてくれた気がする。さっきより表情が柔らかい。


「うう…力入れ過ぎだ…頭がへこむかと思ったぞ」


 それはリーアが悪い。俺たちは別に喧嘩売りに来たわけじゃないんだから。


「…すまない。お前が攻撃された相手に会って頭に血が上ってしまった…」


 リーアは口をとがらせながらボソッと呟いた。

 …かわいい。いやいや、やりすぎはよくないからな。


「ゴホン……さて、この国に来た理由だったな。答えは、特にはないだ。私たちは当てもなく旅をしている。旅そのものが目的と言ってもいい。ここに来たのは話に聞いたからだ」


 今回はマルティノスから聞いたからってだけだもんな。それが他のとこだったらこの国には来ていない。


「そうか…しかし、これがあやつの言っていたものなら…」


 王様はが何か呟いた。

 あやつ?何かありそうだけど…変なことに巻き込まれそうで心配なんだけど。


「旅をするにしても何かと入用だろう。加えこの付近に人が住むところはない。滞在を望むのなら詫びとして宮を貸し与えよう」

「願ってもないことだ。その言葉に甘えるとする」


 詫びで宮をって…めちゃくちゃ怪しそうなんだけど…。絶対何かするかさせる気だろ。

 でもリーアは止まんないだろうな。ここに興味津々だし隅々まで見る気だ。


「キグディ、二人を……二宮へ案内しろ」

「かしこまりました」


 さっきのすまし顔してた人はキグディというらしい。

 黒茶の髪に赤の瞳…王様の近親者か?

 歯ぎしりをして睨んでくるもう一人の側近に目もくれず、僕らの前に立った。


「それでは案内します。こちらへ」


 物腰柔らかそうな人だ。仕事もできそう。知らんけど。

 俺たちは玉座の間を出てキグディさんについていく。玉座の間に来るために通った廊下を途中で曲がりこの王宮を支えるジグラトの内側へと降りていく。

 こんなとこあったんだな。手触りは石壁だ。もしかしてこのジグラト一枚の岩でできてるんじゃないか?それは……なくもないな。

 階段は松明…じゃないな木の棒の先についた石が薄紫に階段を照らしている。

 石…リーアの宝玉みたいだな。……紫光の魔石?迷宮産か。


「キグディとやら。二宮とはどういうところだ?」

「二宮は陛下の別宅です。今はお二人住んでおりますがそれでも余りある広さです。ご不便はおかけしないでしょう」


 別宅か。大丈夫かそんなとこに部外者滞在させて…王様の懐が大きいのか、それとも俺たちを監視しやすいようにて目的か……いや、勘ぐることはやめておこう。


「二人住んでいるのか…」

「何かご不満が?何かあれば陛下に――」

「いや何でもない。十分だ」


 階段から日光が漏れ始めて空気が変わった。やっぱり洞窟みたいなとこって空気の回りが悪いな…魔法でどうにかならないもんか。あとで家に使ってた<空気を循環させる魔法>試してみよう。

 階段を下り終わった先に二宮はあった。

 周りが水路になっている。玉座の間から流れ下りてくるものがこっちに着いてるみたいだ。

 装飾は玉座の間と変わらない。王様の趣味かな。


「確かに残りの二人と顔を合わすのにも苦労するくらいの大きさだな」

「はい、お部屋は反対側の物を用意いたします。その方がお連れの方にもいいでしょう」


 チラッと俺の方を見てきたので、とりあえずフードで目線を切った。

 お気遣い痛み入ります。


「助かるよ。先生が話さないと私も疲れるからな」

「また、ご不便な点があれば遠慮せずお伝えください。可能な限り対処いたしますので」


 …やっぱり怪しいな。こんな至れり尽くせり、初対面の俺たちにしちゃやりすぎな気がする。

 王様が言ってたあやつ…はあ、どうせ何かに巻き込まれるんだ、覚悟しとこう。めんどくさいことじゃないといいな…。


「こちらになります」

「ほう…なるほど。野営よりはましだな」


 まあ…そうだな。いやいや、そういう事現地の人に言っちゃダメだろ!

 一応ここ最高級室のはずなんだぞ!?


「そ、それでは私はこれで…何かあればそとに配置されていた兵士に言ってください」


 そう言い残し、苦笑いを浮かべながらキグディさんは部屋を後にした。


「やりすぎ」

「こちらが下だと思われれば、それだけこの国での生活が楽しくなくなるだろう」

「そうでっか…」


 自由に過ごせるのはいいけどさ…。


「で?王様はどうだった?」

「大方お前が思った通りだ」

「外れて欲しかった…」


 リーアは心が読める。あの王様に使わないわけがない。


「考えていたことは主にこの国の防衛のことだ」

「防衛?どこか別の国とか?でもこの辺に人の暮らすところはないって…」


 立つのもなんだとリーアは直引きの藁絨毯に座る。

 このままじゃ腰を痛める。簡単なクッションを作ってリーアに渡した。


「ありがとう。ああ、人との争いということではない。モンスターの侵攻についてだ」

「壁ができるくらいだもんな。それに国の広さに対して兵士が全く足りてない印象だ」


 王宮の内部には兵士が立っていなかった。入口だけだ。王様が狙われることがないから…それともそれに割く余裕もないからか?でも国は栄えてたし…。


「今は数人の魔法使いと数百の兵士が交代制で対応している。しかしそれでも余りある数のモンスターが押し寄せてくるそうだ」

「王様もかなりの魔法使いっぽかったし、それで何とかはなってるって感じか…」


 この世界には魔法って概念があるんだった。魔法使いでも難儀しているモンスター…魔法使いがいなかったらこの国はとうに滅んでても不思議じゃないな。


「それ以上は見えなかった。もう少し見えると思ったんだが…」

「いや、十分すぎるほどに引き出せてる。ありがとう」


 モンスターの大群はどうにかなるとして――…。


「なんとなくわかったよ…俺らがここに滞在を許されて至れり尽くせりされてる意味」

「だが使いつぶそうとしているわけではないらしい…気になったのは”あやつ”だ」

「それは俺も気になってた。誰かわかったか?」


 王様に俺らに関する何かを言った人物。俺らのことを知っている――…


「マルティノスか?」

「違う」


 まああいつが謁見できるような人間には思えないもんな。強いけど。


「”あやつ”は私たちがここに来るといった人間…予言者というらしい。何かわかるか?」

「予言者ね…今より先に何が起こるかを人に伝える役割の人だ。でもその予言者が言っていた”もの”ってのが何かわからないな。者”たち”なら俺たちのことってわかるんだけどさ」


 俺たちのどちらかを指しているのか、それとも違う何かを指しているのか…。


「私たちに関する何かを指しているのは確かだが…わからん。まあどうにかなるだろう」

「楽観的だな」

「お前がいれば大抵のことはどうにかなる」


 ったく…信用しすぎもよくないぞ。悪い気はしないけどさ。


「で?これからリーアはなにするんだ?」

「とりあえず王宮を見て回る」

「言うと思った」


 だってずっとそわそわしてんだもん。GOって言ったら数秒で目の前から消える勢いだ。


「じゃあ、ちょっとペンダント貸してくれ」

「ああ、何をするんだ?」

「お守りをもっとお守りにするんだよ」

「過保護も過ぎるぞ…構わないが……」


 俺が目を話している隙に何かあったら困るからな。

 とりあえず防犯ブザーの機能を追加しておいた。半径二メートルの範囲にいるやつらの耳を破壊することができる。もちろんリーアは例外だ。


「ほい、できたぞ。あとこれもつけとけ」

「ありがとう。この腕輪はなんだ?」

「二つ目のお守り。はずすなよ」

「…そうか。なら頂こう」


 どうやら気に入ったようだ。すぐに嵌めて眺めている。

 腕輪の効果は…いや、どこで誰が聞いてるかわかんないし黙っとくか。


「では行ってもいいか?」


 もう我慢の限界らしい。部屋の出口に体を向けて片膝で立っている。

 プールに早く飛び込みたい子供みたいだ…。


「いいぞ」


 と言ったときにはもう部屋から消えていた。


「晩御飯には帰ってくるのよぉ…」


 さて、俺はどうするか…。探索は無理だしな。


「服でも作るか」


 と言ってもこの時代に合わせたものは作り飽きた。忘れないうちに現代風の洋服作っておこう。自分の分全く用意してないし。ちなみにリーアの服はインベントリに百着以上入っている。まだ見せてないけど。

 被服はいい。時間はかかるけど自分の思った通りに出来上がると何より達成感がある。

 それにくわえて!

 リーアが着てくれて、なおかつ笑顔で喜んでみろ。

 もう何もかもどうでもよくなる。

 さて今回は何を――…

 そこで俺は気づいた。部屋の入り口からナニかが覗く気配を…。


「何をしているのですか?」


 しゃ、しゃべたあああああああああああ!!!!!

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