第9話「寂しさと優しさ」

「不老不死――とはなんだ?」


 なんでも聞けと言ってリーアの口から飛び出したのはそれだった。

 もっとプライベートなこと聞かれてたらどうしようと思ってたけど、そんなことならいくら聞かれても問題ない。


「言葉の通りだよ。歳をとることもなく、死にもしない。永遠にな」

「不老不死…永遠…」


 人類史でもっとも人間が追い求めたもの。それが神の一存で与えられるものだとは誰も思わなかっただろうな。

 リーアもその一人なのかもしれない。


「では私が死んだ後も生き続けるのだな……寂しくはないのか?」

「え」


 求めてたってわけじゃないのか。ただ単純に俺の心配をしてる?


「生き続けるということは死を見続けるということだ。これまでもそういうことはあったのだろう?」


 年齢までは見えなかったのか。この世界でどれだけ生きてきたかも知らないんだ。


「俺がこの世界に来たのはリーアがここに来る数日前だ。贄になる元凶を作り出した日に転移して来た」

「そうなのか?」


 リーアは驚いたような顔をした。


「なら、まだ経験は無いと」

「そうなるな」

「怖くはないか?」

「その時が来ないとわからんないな。まあ、リーアが死んだら確実に泣くだろうけど」

「……またこっぱずかしいことを…」


 異世界にきて最初に会った人というだけじゃない。

 ただ一緒に過ごしたってだけじゃない。

 リーアは俺の生活に色を付けてくれた人だ。

 これからいろんな人に会うだろうがリーア以上に感謝するような人は出てこないだろう。


「だがそうか…ふむ…」


 リーアは何かを思い巡らせている様子だ。

 俺のことを思ってくれてるんだろうか…そうだったら嬉しい。


「…ならばもっと勉強せねばならんな…」

「お、おう?俺に手伝えることがあったら言ってくれ」


 何故そういう思考に至ったかは不明だけど、モチベーションが上がったのなら嬉しいことだ。


「ほかに聞きたいことはあるか?」

「…いや、ないな。それだけでいい」


 憑き物が落ちたようでいつものすっきりとした顔に戻った。


「しかしリーアも見れたとはな~。俺と見え方は違うみたいだけど」

「そうなのか?」

「俺のステータスって見れるか?」

「すてーたす?」


 見えてないみたいだな。

 俺には首をかしげるかわいいリーアが見えている。


「力の強さとかを数値化したもんだよ」


 権能が見えるなら見えると思ったけど、俺のステータスを見ても何の疑問も浮かばないってことなら見えてないんだろう。


「力を数値化か――それが見えれば便利なものだが…私のはどういう風に見えている」


 やっぱり興味持つよな~。勉強見る限り数学とか数字が好きっぽいし、それに好奇心の塊みたいなものだからなリーアは。

 とりあえず紙に書きだしてやるか。

 書いた紙を渡すとリーアは首を傾げた。


「これは…どれほどの物なのだ?」

「さあ?」

「わからないのか…」

「まだリーアしか鑑定してないからな。今度獣も鑑定してみるか」

「お前と比べたら――いや、意味ないか」


 これまでの行動で俺が人間の枠組みを大きく逸脱していることを察したようだ。

 なにせ数千倍も違うからな…。


「リーアのステータスは多分弱いほうだろうな。どうやって数値化されているかわからないけど狩りをしないってなると、している人の方が高くなるのは必然だからな」

「それもそうだな。よし、それを伸ばすのも研究の対象にしよう。何をすれば伸びるのかも気になる」

「それは俺も思ってた。俺は頭打ちなのかもしんないけど」


 リーアが来てからずっと狩りをしてるけど、増えたのは権能だけだ。

 ステータスは全く変化なし。

 もしかしたらレベルとか関係ある…?


 そう思ってステータスを見るとLvが追加されていた。


 Lv.――


 だと思った。

 てことはもう上がらないって感じか?。

 リーアのは…4か。

 何が経験値になるのかも調べる必要ありと。


「次の狩りはリーアに任せてみるか」

「そうだな。…どうやって狩ろうか。私は魔法使えないぞ」


 確かに。

 リーアの体格からして力技ってわけにはいかないし、忍び寄って…てのは経験不足か。


「罠張ってみるか」

「作り方は?」

「…」


 詰んだか…。

 いや。


「一度俺が瀕死にしたやつにとどめさしてみるか?」

「お前は畜生か?そんな惨いことできない」

「すみません」


 いのちだいじに。

 しっかり頭に入れておこう。嫌われたら元も子もない。


「何かしら武器作るか…といっても一朝一夕じゃ使いこなせないな。この件は長い目で見てくか」

「そうだな。私も今は魔法の研究に力を入れたい」


 レベルが上がれば魔法が…って世界じゃなさそうなんだよな。

 選ばれたものだけってことはある程度レベルが上がっても使えるようになるわけじゃない。

 でもリーアの魔力、体力に比べて高いような気がするんだよな…。

 ま、これは人里に下りてから考えるか。


「ふう、すっきりしたら眠くなってきた。私は先に寝る。お前も風呂に入るといい。私だけ入るのは少し気が引ける」

「わかった、おやすみ」

「おやすみ」


 リーアは眠そうにあくびをしながら自分の部屋に引っ込んでいく。

 おやすみ、か。

 あいさつの概念を知らなかったリーアもすっかり馴染んだ。今ではおはようも言ってくれるようになった。

 成長?を感じるのは嬉しいな。親心が芽生えてきたかもしれない。しらんけど。


「じゃあ、風呂入って寝るか」


 最近、睡眠障害もめっきり減った。ストレスを感じることが少なくなったからなのかもしれない。

 それに生活リズムもかなりいいからな。今だってまだ21時だ。よい子は寝る時間に俺も眠る準備に入っている。

 さて、今日は風呂がある。急ごしらえだが中々いい出来だ。リーアも満足そうだったし作った甲斐がある。


 服を脱いで生まれたままの姿になって浴室に入る。

 今は神様に貰った<清潔>で風呂なんて入らなくたっていい。

 でもリーアに入れって言われたのなら入るしかない。


「ちょっとぬるくなってんな」


 追い炊きなんて昨日はない。でも今の俺には魔法があるんだなあ。

 水を調度いい温度にする魔法。

 魔法創造マジで便利だ。ありがとう神様。

 さて、体洗うなんてしなくていいんだけど…。


「臭わないっていってもいい匂いした方が好感触…か?」


 やらないってよりはマシだな。せっかく洗剤つくったし。

 一押しして体を洗う。

 垢を落とすってわけじゃないけどなんだか気持ちいい。

 体も洗い終わってついに浴槽へ…。

 溜まっていた湯が浴槽から流れ出す。もったいなんてことはない。何せ膨大な魔力総量からくる水だからな。


「ふう…。風呂なんて煩わしいと思ってたのにな…」


 だから神様に清潔な体を用意してもらった。

 でも今は心地いいの一言だ。


「どれもこれも、あれもそれも、全部リーアのおかげ…だな。あと神様もか」


 もうしばらくはこの病気と付き合っていかないといけない。

 直ったって、もしかしたらリーアが死ぬんでしまう時になってまたぶり返すかもしれない。

 と言っても何十年後だけど。


「でも…まさか十七だとは思わなかったな」


 どう考えても一桁…いっても十二くらいだと思ってた。

 出会ったときのあの痩せ方…贄になるために飯を抜かれたって言ってたけど…それだけじゃあんな風にはならないはずだ。

 成長すらも遅れている。と思う。

 もしかしたらこの時代はこれが普通なのかもしれないけど…。


「リーアがもし虐待を受けていたとしたら――考えたくないけど…もしそうなら怒り抑えられるかどうか…」


 いずれリーアの村に顔を出す時が来る。

 もしも悪い予想が当たっていれば、怒りに任せて魔導を使ってしまうかもしれないな。

 あれはどう考えても使ってはいけない代物だ。まだ火の魔導しか使ってないけどそれだけはわかる。

 単独で世界を滅ぼすには余りあるほど危険なもの…。


「世界をあげるから好きに生きろって…大魔王にでもさせるつもりか…?」


 でもその時は世界の半分を――って台詞言ってみたいな。


「ま、夢物語にとどめるけどさ」


 リーアと二人で暮らす間は平穏が続くはずだ。

 明日もきっといい日になる。

 そう思っていた。






「信じられない。絶対に許さないからな」


 ごめんなさい…。

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