第2章「ムアンナキ王国」
第14話「誕生日と贈り物」
「あなたはお母さんの言うことを聞いて立派な医者になるのよ」
はい!お母さん!
「中学はここに行きなさい。あなたならできるわ」
わかった!
「高校はここよ。あなたならできるわよね」
はい。お母さん。
「主席はキープしなさい。大学はここよ。絶対合格すること」
はい。
「成績落ちてきているじゃない!ちゃんと勉強してるの!?」
すみません。
「○○大に行くのよ。しっかりしなさい」
はい。
「落ちたですって…?浪人してもいいわ。絶対に入りなさい」
…
「一年…ならいいでしょう」
…
「留年…あらそう。まあいいわ、あとはあの子に任せましょう」
…
「はあ…ごめんなさいねえ」
…
「育て方を間違えたみたいだわ」
「ふざけんっ――…夢…か」
…本当に夢だったら――
「大丈夫かクリオラ。酷くうなされていたぞ」
声のする方に目をやると眠気眼のリーアがいた。どうやら起こしてしまったみたいだ。
心配そうにこっちを見ている。
「ああ、平気…いや、ちょっと昔の夢を見てただけだよ」
言わないという選択肢もあるけどリーアのことだどうせ視る。
リーアは優しい。きっと寄り添うためにあれこれ見るはずだ。なら俺から正直に話しておく方がいい。
「…そうか。目が覚めてしまった。少し歩かないか?」
「そうするよ」
俺たちが湖を経ってから一か月。今は森の中を迷わないよう道を作りながら進んでいた。
順調にって言っていいんじゃなかろうか。
碌な準備もしてこなかったけど権能と魔法とリーアのひらめきで止まることなく進んでいる。
「標高低いわりに星、奇麗だな」
上を向くと木々の間から奇麗な星空が覗いていた。
「星が奇麗か……そういう風に見たことはなかった」
「リーアにとってはこれが普通か?俺がいたところはほとんど見えなかったんだよ。だからこれを見るだけでもここに来れてよかったって思う」
あとリーアも一緒だから寂しくもない。
「そうか。この世界に生きた人間としては誇らしいと思った方がいいのかな」
「ははは、大いに誇ってくれ」
こうやって他愛無い会話をするだけで夢を見た気持ち悪さが消えていく。隣り合ってただ歩くだけでこんなにも幸せなことがあるなんて前は思いもよらないかった。
いや、ここに来るまでも馬鹿みたいにはしゃいだ日もあったな。何も考えずただ遊んだあの日……あいつら元気でやってるかな……。
「しっかしいつになったら人里につくのやら」
「マルティノスの話を聞くには川を下った先に大きな”マチ”というものがあるらしいのだがな」
「歩いて二週間って言ってなかったか?」
「旅人といってもこうやって山を切り開きながらは歩かんだろう。進む道が違う」
…要するに俺たちは迷子になっているらしい。そんな気は薄々感じてた、だってずっと獣道。人が通った後さえないんだから。
「まあでも下流に向かって進んでるのは確かだし、川も分かれてない」
「そういえば……迷宮。今思い出したがそこを通ったと聞いたな。何のことかさっぱり分からなかったが」
「そういうことは先に行ってくれ…」
「わ、忘れていたんだ仕方ないだろう!?」
迷宮、ダンジョン、宝物殿――etc
色んな呼び名はあるけど共通して正面とは違う出入り口があるものも存在する。
外とは距離が違うというのもよくある話。
この世界の迷宮がどうなっているかは知らないけど、おそらくあの男が旅をするのに使っていたのは迷宮だ。
「といっても場所がわからなかったら意味ないな。ますますどれだけかかるかわかんなくなってきた」
「ぐぬぬ。早くマチを見たいというのに…詳しく聞き出しておけばよかった」
流石好奇心の獣…。
しかし迷宮か…ま、あるかもなとは思ってたけどさ。迷宮があるならあの男が持ってた剣や鎧はそこから手に入れた物に違いない。
「徒歩じゃなくて何かアシがあればなあ」
創造じゃ乗り物造れないし。乗れそうな動物も見かけない。
「いっそリーア抱えて走るか?」
「あれはやめろと言ってるだろ」
やっぱりナムムのときのがトラウマになっているらしい。
無理強いはよくない。
「ゆっくり歩くしかないな」
「これも一興という奴だ。私は楽しいぞ?」
「それならいいけど」
まあもうそろそろ着くだろ。
それから一週間経ってリーアのステータスに変化があった。
「リーアの歳18になってる」
「本当か。それは…すごいのか?」
「すごいっていうか、めでたい?産まれたのが十八年前のこの日だからな」
五月十一日。
それがリーアの誕生日だ。
「おめでとう」
「あ、ありがとう?」
リーアはよくわからないという顔をしている。祝ってもらうってのが初めてだから仕方ない。
何してあげようか…。プレゼントとか?女の子へのプレゼントとか知らないぞ…。
既製品も買える状況じゃないし。こうなったら直接聞くしかないな。
「何か欲しいものあるか?」
「いや?今は特にないな。欲しい物も思いつかない」
そうだったあああ。必要なものは毎日のようにあげてたあああ。
しかしこのままでは引き下がれないぞ…。髪留め…まだそこまで伸びてないし作り方わかんない…。
ハンカチ…そもそも使わない…。
指輪は論外。
ブレスレット…ありか?いや。リーアは邪魔って言いそう。普通に草むらとか泥の中に手突っ込むし。
「っく…俺の力不足か…!」
「大丈夫か?」
心配された。
「お前にはいつもよくしてもらっている。そう特別なことはしなくてもいい」
その時リーアの胸にかかった物が目に映った。変な意味ではないぞ。
お守りだ。親の形見である半透明の光る青い石の首飾り。首飾りと言っても藁で硬く括りつけているだけだ。旅をするには丈夫さが心もとない。
「リーア。そのお守りちゃんと装飾させてくれないか?藁だと切れやすいだろうし」
「ああ、それは私も気になっていた。そろそろ取り替えようと思っていたんだ。作ってくれるのならありがたい」
いい笑顔で了承してくれた。よしこれなら権能でどうにかできる。……いつか権能なんて使わずに作ったものをプレゼントしてやりたい。がんばろう。
「ちょっと持たせてくれるか?」
「いいぞ」
首飾りを受け取ってしっかり観察してみる。半透明の深い青。日にかざせば濃い青が少し淡くなる。
鑑定してみるか。
スペルナイト宝玉 最高
高純度の魔素で生成された宝玉
主に迷宮のからくり箱から入手可能
触媒利用可
完全耐性<呪い>
…何これ。伝説の装飾品?これかなり価値があるものなんじゃないか?落としたりしたらまずいだろ。
いや、宝玉的な価値なしにしてもリーアにとってはかけがえのない物か。俺の物差しで測っちゃダメだな。
迷宮のからくり箱……宝箱的な奴っぽいな。迷宮に入る機会があれば狙ってみるのもありかもしれない。
「リーア…この宝玉の事どこまで知ってる?」
「ほうぎょく?そういう名前の石だったのか」
「いや、詳しくはスペルナイト宝玉っていうんだけどさ」
「そうなのか。いや詳しいことは知らない。そのお守りは父から母への贈り物ということぐらいだな」
貰ったのか自分で獲ったのかわからないけどリーアの父親かなりすごい人なのでは?迷宮だとしても最高品質のものがポンポン出るようなものではないだろうし、完全耐性が付いてるなんてゲームとかでもかなりレアだ。
「父は物心つく前から村に帰っていないらしい。どこかで野垂れ死んだんだろうと母がまだ幼かった私に聞かせてくれた。父の顔も覚えていない」
「かなり自由な人だったんだな…」
でもこれほどまでの物を贈るくらいだから大切には思っていたはずだ。そうであってほしい。
「にしても丸いな…形変えられたら変えてもいいか?」
「壊すなよ?」
「それは絶対ない」
「そ、そうか。なら大丈夫だ。楽しみにしている」
変形の許可はでた…できるか知らないけど…形あるものは変えられるはずだ。
でも削るのはなしだな。これを構成する全てのものが大切だと考えよう。ミリグラムもかけさせてはいけない。
…試しに魔力流してみるか?なんかそういうの見たことある。マンガで。
魔力を流し始めてすぐに宝玉が光を帯び、柔らかくなり始めた。壊さないように少しづつ…。
「これはすごいな。それに奇麗だ」
リーアは前のめりになり宝玉を覗き込んでいる。
興味でるよなあそりゃ。俺だって見惚れてるんだから。
「と言っても奇麗な形にする技術はないから…<形成>と」
自らの技術で…と言いたいところだけど今は無理だ。いつかもう一度作らせてもらおう。
「どんな形がいい?」
「ひっかからないようにはしてくれ」
「りょうかい」
なら角張らないように…丸長くするか。そのあとペンダントにできるように片面を平らにして…。
「こんなもんかな」
「おお、これはいい…がこのまま吊り下げるのは難しくないか?」
「まだ完成じゃないぞ。ここから周りを装飾して…」
リーアは雷の魔術を使うから電気を流す素材はダメだな。
それに丈夫な素材じゃないとダメ…。
ステンレス…とか?あれって通さなかったよな…。いや、心配だからゴムで覆うか。
あとは魔法という便利な力で強化して…。
「よし、できた!」
直径三センチの球体だった宝玉を加工したペンダントは不格好ながらちゃんとしたものになった。
ぶら下げる部分はゴムをあれこれいじっている間に糸みたいに細くて柔らかくなったのでそれを編んで紐にしてみた。数値にしてみると耐久力五千ほどだ。伸縮性抜群で滅多なことでは壊れない。
留め具はリーア自身の魔力を流さないと外れない仕組みにしておいた。もちろん首が断ち切れるような衝撃だったら外れる安全装置付きだ。
「これはいい。元よりも奇麗でさらに頑丈だ。これなら紐が千切れて落とすこともないだろう」
気に入ってもらえたようでよかった。気休めで言ってるって風には見えないし、ちゃんと笑顔だ。
するとペンダントを見ていたリーアは俺を向き、ペンダントを俺に渡した。
「かけてくれ」
「え?」
「贈り物なんだろう?ならば最後までするべきだ」
ぐ…ごもっともだがこれは恥ずかしい…。すでにリーアの顔が近いし目も閉じて不用心……今心を読まれたらマズイ。
「わ、わかった…」
「よろしく頼む」
リーアの小さな頭を支えるクビに腕を回す……首細っ!標準体重近くまで肉は着いたもののやはりリーアは小さい。片手でつまんで持ち運べるぞ。
髪と首の皮膚を挟まないようにしてそっと留め具を閉じる……むっず…それに怖えぇ。
「ふふ、落ち着け。首を絞めないならいつまでも待ってやる」
手は震えるし後ろは見えないから閉じるのに十秒くらいかかってしまった。
「できた…ぞ」
「感謝する」
いい感――
「どうだ。似合っているか?」
「…に、似合ってるよ。いわせんな」
「ははは、その顔も贈り物として貰っておくよ」
ただ思うのとは違って口に出すのは恥ずかしい。世の男性諸君はこういう事普通にやってんのか?尊敬するよ……。
でも、リーアのこの顔見れるならまたやってあげたいと思う気持ちが芽生えてきた。
「いいものを貰った。ならば私も祝わなければな。お前の誕生日はいつだ?」
「ん?三か月前にすぎたぞ?」
間髪入れずに頭をはたかれた。
「そういうところだぞ。全く…」
「祝うってこと知らないリーアに頼めないだろ?」
「それはそうだが…まあいい。来年は祝わせてくれ」
「楽しみにしてる」
最後はどうあれ楽しんでくれたみたいだ。
お祝いしてよかった。
来年は元ちゃんとしたもの送ろう。
それからリーアはペンダントを服の中ではなく外でぶら下げるようになった。
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