第15話「旅の終わりを告げるもの」

 リーアの誕生日から二週間経った。

 旅は順調だ。ケガも病気もない。


 森を出ると草木の生えない大地が続いていた。砂漠じゃない、えーとそうだな…グランドキャニオンみたいな感じか?


「同じ景色しか見えないなあ」

「そこは森と一緒だろう。いや、確かに面白みはないが……」


 森はこう…自然あふれるって感じだったけどここは見渡す限り砂と土と岩だ。

 観光だとも思えない。どう考えても現実世界じゃ遭難だ。


「川はこちら側に繋がっている。もう少しの辛抱だと思おう」

「だな…」


 俺は権能で疲れないけど、リーアはそうじゃない。

 にもかかわらずどんどん俺の先を進んでいく。正気か疑うよほんと。


「疲れてないか?」

「大丈夫だ。魔素操作の練習をしているうちに魔素を身体に纏うと身体能力が上がることにわかった。強化魔術の応用だな。今はそれのおかげであまり疲れない」

「いつのまにそんなこと…」


 ステータスはほぼ毎日確認してたけどそんな変化無かった。扱える魔術については量が多すぎて詳細を開くのを諦めている。鑑定に頼るのもほどほどにしないとな。


「……おい。あれ見えるか?」

「どれ?」


 リーアが指さす方を見てみると人工物のようなモニュメントが岩の壁に建てられていた。


「人が住んでるって感じはしないな。遺跡…か?この時代に」

「わからない。だが気になる」


 ですよね~。好奇心は底知れず。無理に止めるのもあれだし、今の俺が生きる時間はリーアのために捧げると決めている。


「ちょっと寄り道するか」

「早くいくぞ」


 ほんと元気元気。

 リーアを追いかけるように俺は遺跡に向かって突き進む。

 そこで気づいたんだけど…。


「思ったより遠いな」

「うむ」

「てことは…あれがとんでもなくデカいってことになる」


 対比できる物がないからわからなかった。こうも同じ景色ばかりだと距離感狂うな…。


「どうやって作ったんだあれ。魔法でってなら理解できるけど」

「魔法使いがあんな器用なことできるか」

「はは、そうか…」


 そういえば村の魔法使いもただ高威力の魔法を飛ばすだけだったもんな。いやいやもしかしたら精密な魔法を使うものがいるかもしれない。油断ダメ絶対。


「あと可能性があるなら…」

「迷宮だな。あれは人の手で作られたものではないらしい」


 リーアが言うのは癪だという顔をしている。ソースがマルティノスだからだな。


「もしかしたらあれが近道だったかもしれないな」

「ああ、それも反対側の方だろう。しっかり地図に残しておいてくれ」

「あいあいさー」

「なんだそれは…」


 旅に出てから地図作成の権能を創った。必要不可欠だからな。リーアがあっちこっち寄り道するからこれがないと絶対に迷子になっていた。

 近づくにつれ迷宮(仮)は大きくなって行く。ようやく入口付近にたどり着くと首を完全に上げないと全容を見えないくらいに大きい物がそこにあった。


「でかいな」

「これを人が造ったというなら相当背が大きかったんだろう。そうでなければ説明がつかん」

「巨人族がいるかもって話か」


 まだこの世界に来てからリーアと村以外の人を見たことがない。あ、あとマルティノス。

 リーアも同じくだ。


「まあでも、これは元々世界にあったって考えたほうがいいな。現にほらこの石碑見て」

「これは…何でできているんだ?」


 入り口付近に俺の二倍の高さはある石碑…モノリスがある。


「鑑定しても素材の情報が出てこない。たぶんだけど別次元の存在なんだと思う」

「別次元…お前の世界のようなものか?」

「説明するの難しいんだけど…そうだな、ここに在る砂は俺が元居た世界と同じ物質なんだけど、このモノリスが作られた場所はこの砂さえも別の物質で構成されているって感じかな?」


 こういうのは専門家に聞きたいけど、別次元の物質を研究できる人物がどこにいる。少なくとも俺はそんな人間を知らない。


「そうか。これも研究が必要そうだな」


 研究する人ここにいたわ。不用心に触れている。もし攻撃性があるのモノだったらどうすんだ……。


「それはまたあとでな。今は街を目指そう」

「ちょっと中に…」

「地図に記録しておいたからまた今度だ」

「わかった…だがもう直に暗くなる。今日はここで野営しないか」

「そうだな」


 まだ十六時だから普通はまだ明るい。

 でもここは山のように高い地層に囲まれて暗くなるの早くかなり冷える。野営するなら早いうち、寒くなる前に準備した方がいいと旅の中で学んだ。


 それに加えてもう一つ理由がある。


「今日はモンスター見なかったな」

「ああ、棲息域に偏りがあるのか…ここは餌になるようなものもない。いないというのも頷ける」

「なるほど。じゃあ安心して野営できるな」


 森を抜けてから大型の生物を見るようになった。俺なら相手にはならないけど寝てる最中に虫型が忍び寄ってきたらと思うとぞっとする。

 その中でも獰猛で攻撃的なものをモンスターと呼んで危険であれば討伐してインベントリに入れている。もしかしたら売れるかもしれないと思ってのことだ。通貨が必要だというのなら俺たちは一文無しだからな。


「ところでクリオラ」

「時間ができてから迷宮にっ…て話だからな。入ったらいつまで経っても戻ってこれないだろ。絶対あとちょっととか言って奥に進んでいくんだから」

「ぐ…」


 絶対目離さないようにしないと。知らず知らず入られちゃ堪ったものじゃない。どんな危険が潜んでいるのかもわからないからな。


「では魔術の訓練に付き合ってくれ…」

「それなら付き合うよ」


 それから数時間リーアの特訓に付き合い。晩飯を済ませ眠気も出てきたところで眠りについた。



 朝になり気温が上がってきたところで旅を再開する。

 リーアは迷宮が見えなくなるまで名残惜しそうにちらちら見ていた。

 次はちゃんと攻略に連れて行ってあげよう。


「迷宮がここに在るってことは街も近いはずだ。今日中に見えるといいな」

「そうだな…」


 あと数時間は引きずりそうだな…。けど街を目にしたらそれも払拭されるはずだ。


「それにしてもここまで来るのに二か月か…あの迷宮かなりショートカットできたんだな」

「ああ、だが向こうの出入り口を使うのは当分先だろう」


 村の方の出入り口か。村に用はないし…湖の家を見に行くくらいか?それは五年くらいたってからでよさそうだな。


「ま、攻略するってのが迷宮の醍醐味だろ?通り道にするだけじゃない。それにマルティノスが生きて出てこれるくらいのやつだ。ゆっくり見て回れる」

「そうだな。楽しみにしておこう」

「でも危険がないとは限らないからな!?一人で行くのはダメだぞ!」

「あ、ああわかった」


 今のリーアならマルティノスくらい一撃で消し炭にできる。強くなったもんだ。

 モンスターを倒しているうちにリーアもみるみる内に強くなっていた。

 もうレベル83だ。…何でマルティノスあんなに弱かったんだろ。


 それから数時間歩いてようやく視界が開けた。


「左右からの圧迫感ないってのはいいな~」

「心なしか肩の凝りが取れた様な感じがする」


 心なしか空気もおいしい。背伸びして深呼吸だ。

 ラジオ体操第一か第二か忘れたけどとにかくあの運動と一緒に。


「何をしているんだ?」

「同じようにしてみな。吸って~吐いて~ほら一緒に」

「あ、ああ」


「「す~は~」」


 慣れない動きがカワイイ。


「これはいい。すっきりするな」

「だろ?」

「お前の世界の住人はよくこんなにも多くの面白いことを思いつくものだな――おい、あれをみろ」

「また迷宮か?」


 リーアが指さした方向。まだ遠く、砂ぼこりの先に何か建物のようなものが見える――。


「街か!」


 視覚を拡張して詳しく見てみると無数の建物が所狭しと一つの大きな建物の周りをかこっているのが見える。


「…あのデカい建物なんだ?もっと詳しく見てみるか」

「う~私も見てみたいのだが…」

「近づいてからのお楽しみにしな」


 次は大きい建物をじっくり見てみる。

 大きい建物って言っても下の方はただの台座っぽいんだよな…。

 上の方に他の家より豪勢な家が見える。……ピラミッド…じゃないな。そうだ!ジグラット!友人が語ってた記憶がある。確かメソポタミアの……紀元前いくつだよ。村が弥生っぽかったの何だったんだよ。

 異世界わけわからん。

 それはまあ置いといて……。


「人いるな…あそこに住んでるってことはお偉いさんか?」

「私は見えないのだから説明はするな!ネタバレというやつだろ!?」

「すまんすまん。あ、人が…え?今目があ――」


 建物の近くにいた着飾った男と目があった気がした瞬間俺の視界が真っ赤に染まり、その直後何かが砕ける音が聞こえた。

 視覚拡張を閉じて、周りを見てみた。

 地面には焦げた跡となにか得体のしれない赤い結晶のようなものが粉々に砕けて散らばっている。

 リーアは驚いた顔で俺のことを見ていた。


「何事だ!?何が起きた!」

「たぶん…攻撃された?」


 どうやら幸先はよくないらしい。

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