第5話 ディランの初期イベント『令嬢ごっこ』
ディランの初期イベント『令嬢ごっこ』は、テーマに合ったドレスやアクセサリーを選び、それを実際に自分で着るというものだ。
元平民で貴族令嬢の決まりなど何も知らない私をバカにするための、趣味の悪いディランのお遊びの1つである。
ちなみに、どの選択肢を選んでも好感度が下がるというクソゲーっぷりを発揮するイベントでもある。
①の黒のドレスを選ぶと、「お茶会にそんな暗い色のドレスを着て行こうとするとは、無知もいいところだな」と言われて好感度が1%下がるのよね。
「暗い色のドレスは却下」
たくさんのドレスの中から、暗い色のコーナーを素通りする。
②の赤いドレスは、「顔に似合わないドレスを選ぶなんて、派手なものを選べばいいと思っている平民臭を感じるな」と言われて好感度が2%下がる……。
「派手な色のドレスも却下ね」
赤や濃いオレンジ色などの派手な色のコーナーも素通りする。
これは私をバカにするために用意されたドレスだって、ストーリーのどこかで説明されていた気がする。
こんな色の似合わないドレスしか用意されなかったから、ゲームの中のフェリシーはいつも3兄弟からバカにされてたのね。
ほんっと性格最悪なんだから!
そして、最後の選択肢……③ピンク色のドレス。
「1番無難なドレスと見せかけて、実は1番選んじゃいけないやつ……」
この選択肢で出てくるピンク色のドレスは、行方不明になった本物の妹──エリーゼのドレスなのだ。
ディランの意向で、私はエリーゼのドレスや服を着てはいけないと言われている。
それにも関わらず、選択肢に入っていたのがこのピンク色のドレスなのだ。
「これが妹のドレスだなんて、そんなの知るかぁ!!」
好感度を一気に3%も下げられて、悔しさからそう叫んだのをよく覚えている。
とにかく!!
この隔離されているコーナー! エリーゼのドレスだけは絶対に選んじゃダメ!!
ドレスルームの奥にある一角をチラッと横目で確認して、視線を戻す。
消去法で残ったのは、淡いカラードレスのコーナーだ。
「淡い黄色とかなら、暗くもないし派手すぎないし良さそうな気がするんだけど……」
フェリシーのピンク色の髪の毛に合わせたら、まるでお花のようでとても可愛い……気がする。
「うーーん……。ドレスを選ぶセンスなんてないけど、黒や赤よりはマシだと思うんだけどなぁ……」
でも、もし好感度が2%下がっちゃったらどうしよう!
1%しか下がらないってわかってる黒を選ぶべき!?
コンコンコン
「失礼します」
ああっ! もうマゼランが来ちゃった! もう5分経ったの!?
慌てて今見ていた淡い黄色のドレスを手に取り、アクセコーナーから派手すぎないネックレスとイヤリングを掴み取る。
ドレスルームを出ると、マゼランが真顔で立っていた。
私の持っているドレスを見て、目が少しだけパチッと見開く。
「お、お待たせ」
「……そのドレスですか?」
「うん」
……あっ、選択肢にないからダメ!?
そんな心配をしたけれど、マゼランは「わかりました」と言ってドレスを受け取った。
その瞬間、ずっと空中に浮かんでいた3つの選択肢の文字が消える。
消えた……!
選択肢以外を選んでも大丈夫なんだ!
意外な情報に希望の光が見えた気がした。
選択肢以外を選べるのなら、好感度を上げてクリアを目指すことも可能だからだ。
そもそも、選択肢が全部おかしいのよね!
たまに上がっても1%だけだったり!
このゲームの知識があれば、ある程度はうまく進めるかもしれない!
「どうかしましたか? 早く着替えますよ」
「あっ。わ、わかったわ」
いけない!
今はこの『令嬢ごっこ』で好感度を下げないようにすることだけ考えなきゃ!
ディランの言った通り、メイドは私にドレスを着せてくれるだけで、ヘアアレンジなどは何も手伝う気がないらしい。
ドレスを着せた後は、寝起き髪のままの私を置いてそのまま部屋から出ていってしまった。
まぁ、これも想定内よ!
私は急いでサイドの髪の毛をねじり、後ろで合わせてまとめる。
少しずつ髪の毛を引き抜いたら簡単ゆるふわハーフアップの完成だ。
私の髪、元々ゆるく巻いたようなカールがついてるからやりやすいっ。
『超簡単・不器用さんでもできる・時短』のヘアアレンジなら、前世で毎日やってたから余裕ね!
あとはアクセサリーをつけたら完璧だ。
ネックレスをつけて、イヤリングをつけ終わった瞬間……扉が開いてディランが部屋に入ってきた。
「さあ。時間だ…………あ?」
ニヤニヤしていたディランは、ドレッサーの前に立っている私を見て足を止めた。
眉をくねらせて、口を少しだけポカンと開けている。
それはディランの後ろに立っているマゼランも同じだった。
ついさっき見た姿とは変わっているのだから、驚くのも無理はない。
「……ドレスを着せる以外にも手伝ったのか?」
ディランの質問に、マゼランが必死に首を横に振る。
「いいえっ! 何もお手伝いしておりません!」
「じゃあ、お前が自分でやったのか? ……そのドレスを選んだのも?」
鋭い視線と質問が私に向けられた。
背筋が寒くなるような低くて威圧感のある声に、カタカタと手が震えてしまう。
「……はい。そうです」
これが今の私が考える最善の答えよ。
さあ、ディラン。どんな反応をするの……!?
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