第38話 知らないイベントの発生


『【イベント発生】本音の探り合い

 どう答えますか?


 ①「自分も孤児院の出身だから」と誤魔化す

 ②「エリーゼを捜すため」と本当のことを言う

 ③「特に理由はない」と嘘をつく』


 

 突然始まったエリオットのイベントは、今までゲームでやったことのない内容だった。

 

 それもそうだろう。

 ゲームの中の私は孤児院になんて行っていないのだから、この内容のイベントが発生するわけないからだ。




 どういうこと?

 私が自分勝手に動いてるから、もうゲームとは違う展開になっちゃったってこと?

 それとも、ゲーム内でもフェリシーが孤児院に行くルートがあって、このイベントがあったとか??




 たまたま私がプレイしたことないだけかもしれない。

 いつも好感度20%以下でゲームオーバーになっていたのだから、私の知らないルートやイベントがあるのも当然だ。


 ただわかっているのは、問題はここで失敗したら一気にゲームオーバーの可能性がある、非常に危険なイベントだということだけだ。




 いきなりの大ピンチ……!

 そうだよね。推しと2人でケーキを食べるという特大ご褒美があったんだもん。

 死の危険が迫るくらいのことが起きないと、帳尻が合わないよね。




 この状況に変に納得してしまうけど、そんなことを考えている場合ではない。

 まずは1番好感度の下がらなそうな回答を考えなければいけないのだ。


 空中に浮かんでいる文字をジッと睨みつける。




 ええーーっと……これ、③は絶対にアウトだよね?




 ③「特に理由はない」と嘘をつく。

 こんな答えを言ったなら、おもしろい回答を期待しているエリオットに即『つまんねー女』判定されてしまうだろう。


 今回、即ゲームオーバーにつながる回答はこれで間違いないはずだ。




 ③を選ばなければ、とりあえず死ぬことはない!

 でもエリオットの好感度は12%しかないから、ここで不正解を選んだら次はさらに危険な状態になっちゃう……。




 好感度の上げ下げが大きいエリオットの場合、10%以下だと普通の不正解でも一気にゼロまで下がる可能性があるのだ。




 できるだけ好感度は下げたくない!




 他の選択肢は、①「自分も孤児院の出身だから」と誤魔化す、②「エリーゼを捜すため」と本当のことを言う、の2つだ。

 今までは選択肢全部が好感度の下がるものだったけど、これもそうとは限らない。




 最初のイベントだけは、みんな最悪な選択肢しかないんだよね。

 他のイベントは、1つだけ正解が混ざっていることがある……たまに、だけど。




 パッと見たところ、どちらも悪いとは思えない。

 ②は一見危険な選択肢っぽいけど、エリオットの性格からすると『おもしろい』判定される可能性も考えられる。



 

 どうしよう……どちらかが正解だとしたら、どっち?




「どうしたんだ、フェリシー。答えられないのか?」


「あっ。い、いいえ……」



 なかなか返事がこないというのに、エリオットが苛立っている様子はない。

 まるで私が迷っていることを知っていて、あえてそれを楽しんでいるみたいだ。




 エリーゼを捜すためって言ったら、エリオットに興味を持たれて好感度が上がるかもしれない……けど、余計なことをするなって好感度が下がるかもしれない。

 ①は無難な答えだけど、無難すぎて『おもしろくない』判定されるかも……。




 どちらの答えも微妙といえば微妙だ。

 かといって、他にベストな回答も浮かばない。




 どうしよう……!!

 どっちにしたらいいの!?




「フェリシー?」



 二度目の呼びかけに、これ以上待たせてはいけないと瞬時に察する。

 エリオットが穏やかなうちに、答えを言わなくては。



「あ……のっ、私自身が孤児院出身なので、絵本があったら嬉しいなって思ったのと、あとはもしかしたらエリーゼ様がいるかもって思ったので、孤児院を回りながら捜せたらって……!」


「え?」


「……え?」



 一瞬の静けさ。

 あのエリオットが、目を丸くしてポカンと私を見ている。

 そんなエリオットを見つめながら、私はさっき自分が言った言葉を思い返していた。




 ……あれ? 私、今なんて言った?




 空中に浮かんでいた文字が、スゥッと消える。




 もしかして……①と②の両方を言っちゃった!?




 最後の最後まで悩んでいたため、焦って2つの回答を言ってしまった。

 突然出したエリーゼの名前に、エリオットが驚くのも無理はない。



「フェリシー……エリーゼを捜しているのか?」


「え、えっと……その……」



 エリオットの表情も態度も変わらないため、どんな感情で聞いているのかわからない。

 素直に「そうだ」と答えていいものか迷うけど、今さら「違う」なんて言ったらそれこそ大変だ。



「は……はい」


「…………」



 覚悟を決めて頷くと、エリオットは黙ってしまった。

 静かすぎる部屋の空気に、どんどん鼓動が速くなっていく。




 どうしよう……!!!

 これは正解なの!? 不正解なの!?

 もし……もしダメだったら、私は……!!




 震える手でスカートをギュッと握りしめる。

 足もカクカクしていて、この場に立っているので精一杯だ。


 視界の片隅に、ビトが自分の口元を手で隠しながらうつむいているのが目に入る。

 その反応がどんな意味なのか、ビトの表情が見えないので読み取れない。




 何? 今の回答、やっぱりダメだった?

 エリーゼの名前は出さないほうが……!




 重苦しい空気に耐えきれず目をつぶると、エリオットが先ほどと変わらぬトーンで質問をしてきた。



「エリーゼが見つかったら、君はこの家を出なくてはいけなくなるんだぞ? それなのに、なぜ君がエリーゼを捜すんだ?」




 そんなの、あなたに殺されたくないからよ!!!




 そう叫びたくなるのを我慢して、私は顔を上げた。

 イベントは終わったけど、まだエリオットとの質疑応答は終わっていないらしい。


 ドッドッドッとうるさい心臓の音を聞きながら、私は次の答えを考えた。

  

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