第15話 『つまんねー女』と思われないための答えは?


 疑ったお詫びとして、何か望むものを1つやる。

 そう言われた私は、冷静を装いつつも頭の中はパニックになっていた。




 ちょっと待ってよ!

 急に予定外のこと言われても困る!

 これ、ゆっくり考えてあとで答えるとかでもいいのかな……?




 口角を上げながらどこか楽しそうに私を見ているエリオット。

 私が何を望むのか、なんて答えるのか、彼の予想を上回るような答えを期待しているのがじんわりと伝わってくる。




 ……ダメだ! 今すぐ答えないと『つまんねー女』認定されて好感度が落ちる!!!




 頭をフル回転させて、どんな答えがいいのかを真剣に考えてみる。

 何度もやったゲームだから、エリオットの地雷はなんとなくわかる気がする。




 ありきたりな回答はダメだわ!

 例えば、お金や宝石やドレス……そんな答えをエリオットは望んでない。

 何もいらないとか、そういった遠慮の言葉も絶対に望んでない。

 と、なると……




 エリオットが予想していない贈り物を答える必要がある。

 かといって、贈ってすぐ終わるような単純なものではなく、なぜそれを欲しがったのか不思議に思われるような、そんなエリオットの気を引けるような答えが求められている。




 とはいえ、必要ないものを贈られても困る!

 実際に私にとって必要で、なおかつエリオットの興味を引けそうなもの……あっ!




「……人がほしいです」


「……人?」



 私の返答に、エリオットが眉をくねらせる。



「はい。私の専属の付き人のような人を望みます。できれば力があり、いざとなれば私を守れるような方が望ましいです」


「……なんのために?」


「街に出た際、荷物を持ってもらったり危険から守ってもらいたいからです。それ以外に理由はありません」


「…………」



 それ以外に理由はありません──わざと意味深な言い方で答える。

 私の言葉に嘘が混ざっていることを察したのか、エリオットが真剣な眼差しを私に向けてきた。


 光のない赤い瞳に見つめられると、心の中を見透かされているのではないかと思えてくる。




 こわい……けど、興味を引くことには成功したみたい。

 あとは、これがエリオットの機嫌を損ねるようなことにならなければいいけど……。




 ドキドキしながら返事を待つ。

 まるで、判決を言い渡される前の被告人の気分だ。



「いいだろう」


「……えっ」


「ビトを君に付けよう。若手の騎士で、君の条件にも合っている」


「…………」




 え。ほ、本当に私に付き人を?

 こんなあっさり?




「何か不満か?」


「いいえっ! あの、ありがとうございます」


「ああ。話をつけてから君の部屋に向かわせよう。もう戻っていい」


「は、はいっ」



 遠回しに出ていけと言われたような空気を感じ、私は慌てて部屋から出た。

 すぐに好感度を確認したかったけど、それ以上にエリオットから距離をとりたくて急いで自分の部屋に向かう。




 とりあえず即ゲームオーバーにならなくて良かったぁぁーー!!

 好感度……少しは上がってるかなぁ?




 部屋に戻るなり、すぐに本のマークに触れる。

 パッと現れたマイページ。その1番上には……。

 

『好感度


 エリオット……12%

 ディラン……11%

 レオン……14%』




 エリオット12%!?!?

 嘘っ! 4%も上がってる!!




 2つの質問の答えに対する結果なのか、こんなに一気に好感度が上がったのを見るのは初めてだ。

 エリオットは下がる%の幅が大きい分、上がる%も大きいのかもしれない。



「まぁ、もしそうだとしてもエリオットの攻略ルートを目指すつもりなんてないけど」



 前世で、あの男に何度殺されたことか。

 この調子ならすぐ好感度が100%になるかも──なんて、そんな淡い期待を抱くほど私はバカじゃない。




 とりあえず、一気に12%も下がることはないと思うし……あと1回くらいエリオットのイベントがあってもなんとかなるかな?




 コンコンコン


 そんなことを考えていると、部屋をノックされた。

 この家に来てから、こんなにゆっくりで丁寧なノックをされたことがない。

 いつもなら高速ノック&即座にドアが開くのに、ドアノブに手をかけられている気配もない。




 すぐにドアが開かない?

 もしかして、私の返事を待ってる?




「……はい?」


「ビトと申します。エリオット様の命令で参りました」


「!」




 もしかして、さっき言ってた付き人!?

 本当に呼んでくれたんだ! ってゆーか早っ!!




「どうぞ」


「失礼いたします」



 カチャ……と静かにドアが開き、騎士の格好をした18歳くらいの若い男性が部屋に入ってきた。

 

 背が高く、ネイビー色の髪の毛。

 整った顔をしていて、右目には黒い眼帯をつけている。

 愛想良くする気はないらしく、言葉遣いは丁寧なのにムスッと不機嫌そうな顔をしている。




 ああ……私の付き人、やりたくないんだろうなぁ。

 なんだか申し訳ない。

 エリーゼを見つけたらすぐに解放するからね。少しの間だけ、ごめんね。




 そう心の中で謝罪をしつつ、ビトの顔をジッと見つめる。

 どこかで見たことがあるような気がするのだ。




 違うゲームのキャラに似てるだけかな?

 こんなにイケメンの眼帯キャラを忘れるわけないし。

 でもビトって名前は聞いたことがないような……。




「はじめまして。フェリシー様。今日付でフェリシー様の付き人兼護衛をさせていただくビトと申します」


「はじめまして。フェリシーです。よろしくお願いしま……あああっ!?」


「っ!?」



 私の突然の大声に、無表情だったビトがビクッと肩を震わせた。

 何事かと、目を丸くして私を見ている。

 



 思い出したっ!!!

 たしかこの人隠しキャラだっ!




 一定の条件を満たすと登場する隠しキャラが、眼帯をつけた騎士だったことを思い出す。

 しかし、思い出したところでどうにもならない。

 

 なぜなら、私はこの隠しキャラとゲーム内で会ったことが1度もないから。




 どうしよう! なんでここにきて隠しキャラが出てくるの!?

 

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