第16話 隠しキャラ、眼帯のビト


 私の付き人になったビトは、このクソゲーの隠しキャラだ。

 どんな条件で登場するのかわからず、私は1度も出すことができなかった。


 つまり、顔だけは知っているけど性格もイベント内容も何も知らないのだ。




 どうしよう!!

 これって、ビトも攻略対象者になっちゃったってこと!?




「どうかしましたか?」


「あっ……い、いえ。なんでもないです」



 突然大声を出した私を、ビトが不審そうな目で見てくる。

 

 私は笑顔で誤魔化しつつ、こっそりマイページを開いた。

 宙に浮かぶ文字が私にしか見えていないため、ビトの前で出しても問題はないだろう。




 もしそうなら、この中にビトの名前が入ってるはず……!




『好感度


 エリオット……12%

 ディラン……11%

 レオン……14%

 ビト……30%』




 あったあああああ!!!

 本当に増えてる!! ってか好感度たっか!!




 冷静に考えたら、好感度30%は決して高くはない。

 でも15%以下の3兄弟に見慣れすぎていたため、30%という数字がやけに高く見える。



「敬語はやめてください。自分が仕える身なので」


「は、はい……じゃなくて、わかったわ」


「よろしくお願いします。ところで、自分は街への付き添い兼護衛が仕事だと聞きましたが、本当にそれだけでしょうか?」



 表情を変えないまま、そう聞かれた瞬間──あの音が鳴った。


 ピロン


『【イベント発生】身代わり令嬢としての品格

 どう答えますか?


 ①「そうよ」と答え本音を言わない

 ②「街で危険な目に遭ったから護衛がほしくて」と嘘をつく

 ③「あなたとお近づきになりたかっただけ」と媚びを売る』




 イベント!? 

 さっきエリオットのイベントが終わったばっかりなのに!




 通常、同じ日にイベントが起こることはない。

 そもそも、イベントは頻繁には起こらない。


 でも、そのキャラの初登場時という特別な場合は別になるのだろう。




 話しかけちゃいけないレオン以外は、みんなイベントスタートだったもんね。

 ビトも同じってことか……。

 ってゆーか、どれが正解なのかわかんないんですけど!?




 初めて会う攻略対象者に、初めてのイベント。

 どの選択肢がどれくらい好感度を下げるのか、何も情報がない。




 自分で考えるしかない……!

 まずは、この3つの選択肢。きっと、これは全部不正解……。




 ディランのイベントもエリオットのイベントも、最初はどれを答えても好感度が下がるようになっていた。

 ビトも同じだとすると、この3つは答えてはいけないセリフってことだ。




 ③は論外として、本音を言わないのも嘘をつくのもダメ……ということは、本音を言うのが正解?




 私が付き人を望んだ理由――それは、エリーゼを捜すために人手がほしかったからだ。

 

 この王都にある孤児院の場所を調べてくれる人。

 そこまで連れていってくれる人。

 見知らぬ場所で何か危険な目に遭いそうになっても守ってくれる人。

 孤児院への差し入れなど、重いものを持ってくれる人。


 ビトの言っていることはこれに当てはまるので、その通りといえばその通りだ。




 でも、①の「そうよ」はダメなんだよね?

 好感度が下がるってことは、ビトの望んだ答えじゃないってこと。

 じゃあ、ビトが望んでる答えっていうのは……『私の真の目的』……?




 ビトはエリオットに命令されてここに来た。

 その際、私がなぜ付き人を欲したのか調べろって命令をされたのかもしれない。




 ありえるっ! あの男なら!




 もし『私の真の目的』を言うことが正解なら、エリーゼのことを話さなくてはいけなくなる。

 でも、それはできるだけ避けたい。




 エリーゼが孤児院にいて現在茶色の髪色になってるなんて、私が知ってるのは不自然すぎるもんね。

 最悪、私がエリーゼに何かした犯人とか思われる可能性もあるし!



 

 エリーゼの名前は出せない。でも嘘もついちゃダメ。

 本音を話しつつ、エリーゼのことだけを隠す──そんな答えが求められる。



「……街というよりも、孤児院に行きたいの。この王都にある孤児院、全部に」


「!? 孤児院? それはなぜですか?」



 予想外な答えだったのか、ビトが眉をくねらせた。

 真っ直ぐに私を見据える金色の瞳は、私の言葉が嘘かどうか見極めようとしているように見える。

 


「本を届けるの。簡単に読める、挿絵がついた子ども用の本を」


「本???」



 ビトは、ますます意味がわからないといった様子でポカンとしている。



「そうよ。その本を持ってもらうのに、付き人が必要だったの。あとは、王都にある孤児院の場所を調べてもらったりとか」


「はあ……」


「私では調べ方がよくわからないの。ビトにお願いしてもいいかしら?」


「それは……もちろん大丈夫ですが……」


「ありがとう! よろしくね」



 ニコッと満面の笑みを向けると、ビトは不可解そうな表情のまま部屋から出ていった。

 きっと、このあとエリオットに報告に行くのだろう。



「ふぅ……」




 とりあえず、エリーゼのことを隠しつつ孤児院の話を出してみたけど……大丈夫だったかな?




 これなら、ビトと一緒にいるときにエリーゼを見つけたとしても『本を渡すため孤児院に行ったら、たまたまエリーゼを発見した』という状況が作れる。

 嘘もついていないし、特に問題はないはずだ。



「さてと……好感度はどうなった……?」



 本番ぶっつけのゲームイベント。

 どんな結果になっているのか、まったく想像つかない。




 お願い!! 好感度が下がっていませんように!!

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