第23話 自分の顔クッキーを見たディランの反応は……?


 3兄弟の顔クッキーを作った私。

 少しでも驚き&感動を与えられたら大成功! ……と思っていたのだけど。



「…………」




 私は今、目の前でプルプルと肩を震わせているビト&コックたちの姿を眺めている。



「……っ! ……っ!」

「ククッ……クッ……」

「…………お、……なか、いた……っ」


「…………」




 これ、みんな爆笑してるよね???




 目に見えて大笑いしている人はいないけれど、みんなどうにも我慢できずに声が漏れてしまっている。

 無言でテーブルをドンドン叩いている人もいるし、涙目になっている人もいる。


 

「あ、あの美形なご兄弟3人が……っ」

「これ……エ、エリオット様……って……」

「ディラン様も……なかなか……っ」


「…………」




 そんなにおかしいかな!?




 もっと軽い感じで「へぇ〜すごいですね!」くらいの反応を想像していた私は、腹を抱えて笑っているみんなを見て心の中で叫んだ。

 決して笑いを誘おうという意図はなく、私なりに真剣に描いたものだっただけに、みんなの反応が予想外すぎて驚いている。




 めちゃくちゃ笑われている……!

 え。大丈夫? これ、ディランに見せて大丈夫???




 俺の顔をこんなブサイクに描きやがって! と怒られたらどうしよう。

 そんな不安に襲われるけど、今から新しい料理を作る時間なんてない。




 えーーい! 仕方ない!

 もう、このクッキー持っていくしかない!!




「ビト!」


「はい」



 名前を呼ぶと、ビトはすぐ私の前にやってきた。

 ついさっきまで肩を震わせていたのに、今はしれっと真顔に戻っている。

 ……絶対にクッキーを見ないようにしているけど。



「ディラン様にこれを届けたいの。お部屋まで案内してくれる?」


「かしこまりました」


「キッチンを貸してくれてありがとう」



 コックたちにお礼を言い、ビトと一緒に廊下に出た。

 私の手には、白いお皿の上に並んだ3兄弟の顔クッキー3枚がある。




 描いてるときはただただディランをイメージして怒ってる顔にしちゃったけど、もっとイケメン風に描けばよかったかな?

 よく怒る人って、自分が常に怒った顔してる自覚ないっていうし……。




 そんな後悔をしてももう遅い。

 このイベントは、もうこのクッキーで勝負するしかないのだ。


 モヤモヤ考え事をしている間に、ディランの部屋に着いたらしい。

 前を歩いて案内してくれていたビトが、「こちらです」と言うなり私の後ろに戻った。




 着いちゃった……!!

 もう逃げられない!!




 ゴクッと唾を飲み込んで、丁寧にノックをする。


 コンコンコン



「……ディラン様。フェリシーです」


「入っていいぞ」



 思ったよりもすぐに返ってきた声に、一気に緊張感が増していく。

 ドキドキドキ……と激しい鼓動を感じながら、ゆっくり扉を開けた。



「失礼します」


「できたのか?」


「……はい」



 私の部屋よりさらに広い部屋。

 でも白い家具の多い私の部屋とは違い、ディランの家具やカーテンは落ち着いた色が多くやけに部屋が暗く感じる。


 そんな部屋の真ん中にある丸いテーブルとシンプルな椅子2脚。

 そこにディランは座っていた。



「こっちに持ってこい」


「はい」



 飲食店でバイトしていたときを思い出しながら、私はできるだけ音を立てないようにソッとディランの前にお皿を置いた。

 もちろん、クッキーの顔がしっかりディラン側に向くように。




 お願い……っ!!

 もう、好感度は上がらなくてもいいから、3%以上減りませんように……!!




「…………」


「…………」



 シーーン……


 この部屋の中に3人いるとは思えないほどの、静寂。

 ディランは何か言葉を発するどころか、微動だにすらしていない。



 

 ……あ、あれ? 無反応??




 怒鳴られるかもという不安は薄れたけど、食べようとしている様子もない。

 なぜかディランはジッと固まったままテーブルの上のクッキーを凝視している。




 何? 何?

 これはどういう反応なの!?




 チラッと背後にいるビトに『どういう状況!?』と目で合図を送ったけれど、『さあ』とでも言わんばかりに首を傾げられただけだった。

 こちらから何か言ったほうがいいのか迷っていると、やっとディランが口を開いた。



「……これは、なんだ?」


「!」




 喋った! 怒ってはなさそう?




 苛立ちは感じないディランの質問に、私は内心ホッとしつつ急いでクッキーの説明をする。



「あの。ワトフォード家のみなさまをイメージして、クッキーにしてみました」


「……俺たちをイメージして……? これは、俺たち兄弟なのか?」


「はい。左から順番に、エリオット様、ディラン様、レオン様です」


「これが……エリオット……?」



 いつも攻撃性が強く迫力のある話し方をするディランが、力なくボソボソと話している。

 その落ち着きようが逆に怖い。




 何? なんなの?

 怒ってるの? 怒ってないの? どっちなの!?




 ディランの反応にビクビクしていると、突然ディランが「ぶはっ!!」と盛大に吹き出した。



「!?!?」


「はははっ……ははっ……こ、これがエリオ……はははっ」




 わ、笑っていらっしゃる……!?




 怒った顔しかみたことのないディランが、お腹を抱えて笑っている。

 いつも怒鳴っているディランが、目に涙を溜めて爆笑している。


 ゲームのプレイ中も、ディランの笑った顔なんて見たことがない。

 挑発的ないやらしい笑みは見たことあるけれど、こんな素の笑顔なんて初めて見た。




 ディランって、笑うの!?




 そんな失礼なことを考えているのは私だけではないらしい。

 壁際に立っているビトも、目を丸くして爆笑中のディランを凝視している。




 あのディランすらも笑わせるなんて……私のクッキーの威力、すごいな。




 そんなことをボーーッと考えながら、私はディランの笑いが治まるのを待った。

 

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